- Amazon.co.jp ・本 (99ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003104910
感想・レビュー・書評
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難破後、4人の男が2対2に反目していく様子が生々しく描かれる。そしてまた奇縁を感じさせられる付録(後日談)も良い。
あとがきで作者は、本作を「若書き」であるとして、著述の拙さを恥じるている。「秀吉と利休」の、緊張と滋味が同居した文章はたしかにここには無いが、火花が散るような九州弁の記述は印象に残る。 -
作者が37歳の時の実話に基づいた作品。
船長以下4人が乗り込んだ海神丸が遭難し70数日間の漂流をする。飢えに耐えられず若い一人を殺し食べようとするが、船長が見咎めそのまま海に流し弔う。その後3人は救助されるが共犯の一人は狂死する。後日談では残った二人の諍いに現場で交わした念書が事実を証し露見を防ぐ。この物語は船長だけの視点から書かれており、ノンフィクションのようでもあり、本当のことがすべて語られているか読み手に猜疑の緊張を強いる。
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実際に起きた出来事に取材した作品。
作中では、船長の人間性の高さと信仰心の強さが特に際立って描かれている。自身の後悔もその中には多分に含まれているだろう。
併録されている「『海神丸』後日物語」も併せて読むと、実際の出来事の背景も掴むことができる。 -
表紙に書かれているあらすじからして読むことに緊迫感があり、読者の悪い予感は当然のように帰結する。
人の生命の軽重はその時その時で変わるものだろうし、むしろこの状況下において…と考えてしまう。
本編自体よりもその後の経緯の方がまた人間の精神の動きが生々しく現れていて、生きるということを考えさせる。 -
(*01)
時代としてみたとき、小林の蟹工船や葉山の万寿丸と同じ頃か少し前に、海神丸は太平洋を漂流していた。船は資本が小さいせいか小さく感じる。その少しあとに、北の海で漂流する武田のひかりごけの船と同じぐらいの小ささだろうか。
海神丸では、船長以下乗員4人(*02)はのっぴきならない関係に緊張しながら、悪天候に巻き込まれ、晴天の大海に船ごと放り出される。
サバイバルな環境において少数の4人は不安定で、やはり3人鼎立が適正なバランスであったのだろう。1人が殺されず(*03)その後も4人で漂流しサバイバルしたケースはあまり想像できない。
(*02)
4人の船乗りのどこのものとも分からぬ言葉が美しく輝いている。帆船というから近世以来の海の言葉が船の技術とともにまだ生きている。もちろんその技術や言葉の中には、敵とも味方とも分からない神への信仰が隠されてある。近代の小説にも既に兆候や症候として見えていた、ちょっとした罪と罰の物語でもある。
(*03)
最も若い者の口が減らされたという事実には、現実以上に象徴的な意味をもつように思える。
未熟であり力不足であることにより引き続き世を渡ることができなかった、成長過程にあることでより多くの水の食料が必要とされた、といった現実的な要因も考えられるが、供犠や生贄という側面も乗員の無意識になかったか、探ることは許されないだろうか。 -
予想していたクライマックス?とは違いましたが、とてもリアルに船乗りたちの心の動きを感じることができました。自然に対する人間の小ささも。後日物語も面白かったです。本作を元にした映画があるんですね。 新藤兼人監督『人間』(にんげん)1962年11月4日公開
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尻が食べたいという欲求を頑張って押し留めようとする話。
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メリメの『タマンゴ』とセットで読むと面白いかも。