猫町 他一七篇 (岩波文庫 緑 62-3)

著者 :
制作 : 清岡 卓行 
  • 岩波書店
3.81
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本棚登録 : 930
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003106235

感想・レビュー・書評

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  •  視点で世界は変わるということ。

    そう思うと、この世界は一つだけではないように思える。

    自分がそう認識しているだけで、見方によって世界はその表情を変えていく。
    異なるものと変容していく。

    絶対的なものなどない。

    恐ろしくあり、不可解な世界。

  • 最盛期の詩とはまた手触りが違う、短編集。

    眩むような白昼夢に、
    独特な妖艶さが漂う『猫町』
    騒がしいはずなのに音がない、
    ホッパーの絵画を彷彿とさせる『郵便局』
    車谷長吉の強迫観念のような『虫』

    あたりがお気に入りです。

  • 萩原朔太郎は、普通なら文章に表せないような曖昧な感覚を掬い上げるのがほんとうに上手な人だ。
    「月に吠える」の序で彼は次のように述べていた。
    「詩とは感情の神経を掴んだものである。生きて働く心理学である。すべてのよい叙情詩には、理屈や言葉で説明することの出来ない一種の美感が伴ふ。これを詩のにほひといふ。」
    彼の散文にも同じ「詩のにほひ」が漂っている。感覚の芯のところをしっかりと掴んでそれを言葉にできる、これが詩人の力なのだなぁ。

    以下に気に入ったものを取り上げてみる。
    「群衆の中に居て」
    中学生の頃に一度読んだことがあったのだが、上京して初めてこの作品の意味するところを諒解した気がする。人が本当に孤独を感じるのは一人きりの時ではなく、街でたくさんの他人に囲まれている時だ。とはよく聞く話だ。都会の群衆の中には孤独がある。その孤独の素晴らしさや楽しさをここまで上手く表現してくれた朔太郎には喝采を送りたい。
    「虫」
    鉄筋コンクリートという単語の「本当の意味」を探す。実は私もたまにこのようなことを考えてしまうのだが、これって異常なのだろうか?芥川龍之介「歯車」梶井基次郎「檸檬」と並んで、精神状態が悪いときの私が共感する短編の一つ(笑)
    「詩人の死ぬや悲し」
    「著作?名声?そんなものが何になる!」と芥川龍之介。一方、「余は祖国に対する義務を果たした。」と満足して死んだネルソン。このネルソンの臨終の言葉は有名だけれど、聞くたびに私は心の中でかすかな反発を覚えていた。そのもやもやの正体がここにきてはっきりした。欺瞞だ。


    萩原朔太郎。感性の塊みたいな男だ。

  • 温泉に出かけた「私」は偶然から繁華な美しい町を見つける。閑雅な人や町並みに見とれたのもつかの間、景色は一変し人人は猫の大集団となって町を飲み込む。
    解説を読んでも完全に理解できた訳では無いが、荻原朔太郎の都会への憧れと現実、当時の全体主義の流れとその恐怖について思いを馳せたものなのかなと思う。
    「ウォーソン婦人の黒猫」でも全体主義への恐れをあらわにして「日清戦争異聞」では栄枯盛衰を憂う気持ちが出ているように思う。
    先行き不透明な時代を生きた詩人の憂いが描かれた短編/散文集。

  • 表題作は見知らぬ美しい町で人間の姿をした無数の猫に出会う幻想譚、溢れるノスタルジア!『ウォーソン夫人の黒猫』はポーの黒猫思わせる病んだ内容で非常に好み。そして驚いたのはある作中で中国人が"〜あるネ"とか言ってること。この時代からある口調とは知らなんだ。。

  • 「坂」
    「老年と人生」

    とりあえず中年までは頑張って生きてみるか、という気持ちになった。

  • 猫町、タイトルで思わず買ってしまった一冊。学の乏しい私には難しく理解するのに時間がかかってしまった。やっぱりまだ詩というものは理解しがたい。だが「猫町」や「ウォーソン夫人」等の短編小説は好きな部類かもしれない。

  • 夢か現実なのか判然としない幻想的な『猫町』。
    恐ろしいような美しいような…。

    正直、散文詩とか随筆の定義がイマイチよくわかっていないのだけど、ちょっとした短編小説みたいな感じで読めたので読みやすかった。
    『虫』は月に吠えらんねえの二巻で言ってたのはこれかぁと思って少し感動。しかし鉄筋コンクリートをこんなに考え回せるところがやっぱすごいとこなんだろうなぁと。
    『自殺の恐ろしさ』は確かにこう思うことがあり、考えるに恐ろしいことだと思う。
    『老年と人生』も同じようによく考える。
    あまりに似た考えなので、私ももっと年をとれば今思い悩んでいることから少しは解き放たれて生きやすくなれるのだろうかと少し期待しつつやはり老いることは寂しくもある。

  • 村上春樹の『1Q84』に登場する“猫の町”のモチーフになった作品だと知ってからずっと読みたかった本。短編集かと思いきや、短編、散文詩、エッセイとバラエティに富んだ18篇。「猫町」の短いながらも強烈な異体験。「ウォーソン夫人の黒猫」はエドガー・アラン・ポーの『黒猫』のような趣。詩集は『月に吠える』しか読んでいないので『青猫』を読んでみようと思う。2012/159

  • 帰省中に祖母の家の縁側に座して読みました。大学一回生の夏のことです。

    当時、たいした意見も持ち合わせていないくせに写実主義をきどっていた私は、小説の主人公(イメージはやはり見返しに掲載された朔太郎自身の肖像)が猫の町に迷い込む場面に違和感をおぼえ、そんなことあるわけないじゃないか、といい大人にもかかわらず、フィクションを、「こんなの作り話にきまっている」と至極当たり前の言葉でののしりながら、それでも文章の巧みさに釣られるようにして頁を繰りました。

    「猫町」は50ページ弱で(だったかな?)、一度に読み切るにはちょうど集中力が持続して良いのですが、夕陽が西のそらにきちんと沈む頃に読み終えた私は、フィクションにたいする理にかなわない怒りも忘れて、ただこの物語に没頭していた自分に気づきました。

    いや、途中からこの話がフィクションではなく、主人公(やはり朔太郎)の三半規管の疾病による幻覚、意識のなかでは至極現実とかわらない現象によるものだとわかり、ただ、自分の読解力のなさと先入観のまずさが身に沁みたのです。


    夕飯は、この時期に多い魚を味噌煮にしたものでした。

著者プロフィール

萩原朔太郎
1886(明治19)年11月1日群馬県前橋市生まれ。父は開業医。旧制前橋中学時代より短歌で活躍。旧制第五、第六高等学校いずれも中退。上京し慶応大学予科に入学するが半年で退学。マンドリン、ギターを愛好し音楽家を志ざす。挫折し前橋に帰郷した1913年、北原白秋主宰の詩歌誌『朱欒』で詩壇デビュー。同誌の新進詩人・室生犀星と生涯にわたる親交を結ぶ。山村暮鳥を加え人魚詩社を結成、機関誌『卓上噴水』を発行。1916年、犀星と詩誌『感情』を創刊。1917年第1詩集『月に吠える』を刊行し、詩壇における地位を確立する。1925年上京し、東京に定住。詩作のみならずアフォリズム、詩論、古典詩歌論、エッセイ、文明評論、小説など多方面で活躍し、詩人批評家の先駆者となった。1942年5月11日没。

「2022年 『詩人はすべて宿命である』 で使われていた紹介文から引用しています。」

萩原朔太郎の作品

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