右大臣実朝 他一篇 (岩波文庫 緑90-7)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003109076

作品紹介・あらすじ

『右大臣実朝』は、戦時下に書かれた太宰治((1909-48))の歴史小説。破滅に突き進む同時代への想いは、中世の動乱期に悲劇的な最期を遂げた歌人にして為政者・源実朝の生涯を通して語られる。歴史文献『吾妻鏡』と幽美な文を交錯させて語られる。本作創作の経緯と同時代批判を伝える随想「鉄面皮」を併載(解説=安藤宏)。

感想・レビュー・書評

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  • ちょうど大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で今やってるあたりなので、まんまと乗せられて読んでみる。おかげで人間関係がほぼ把握できているので楽ちん。登場人物も「これが小栗旬で、こっちが山本耕史ね」とイメージしながら読めた。わりと大河のキャラと太宰のキャラ造形にズレがない。

    それにしても太宰が歴史小説を書いていたこと自体がそもそも意外でした。解説読んでると実朝モチーフで小説書いてる作家(歴史小説家ではなく)は結構いたみたいで、実朝って作家に人気あったんですね(笑)個人的には、やはり昔やった大河ドラマでの温和なイケメン、悲劇の貴公子のイメージが強く、そういうところが義経とはまた違う意味で後世の同情を誘うのでしょうか。

    本書の実朝も、あまりにも透明感がありすぎて、人間離れした超越者のようなイメージです。語り手は実朝に少年時代から仕えた近習で、実朝を崇拝していた彼の視点で語られるから余計にそうなのかもしれない。実朝のセリフたけが常にカタカナで書かれているのも、実朝の一種人間離れした無垢さをよく表していて効果的。

    鴨長明や、実朝を暗殺することになる公暁の、俗物ぽいキャラクターが太宰らしくて秀逸。とくに公暁が蟹を食べるエピソードは強く印象に残る。自分の死期すら察知しており、神か仏のように達観している実朝との対比が見事。同時期に太宰が本作について自ら解説したエッセイ「鉄面皮」も収録。

  • 太宰治の鎌倉史観がわかる歴史小説。吾妻鏡の引用と交互になって実朝の近習が語ります。優しく、さらさら流れるような文章。実朝に対する尊敬の眼差しがみてとれるし、大河ドラマの内容ともぴったりで楽しく読めた。

  •  山川出版社の『詳説日本史研究』は、実朝について、北条氏のまったくの傀儡であるという従来の見方を否定するとともに、「実朝の武士に似つかわしくないこうした行動(和歌や蹴鞠を愛好し、官位の昇進を望んだこと)は、彼のおかれた過酷な環境と関係があったのかもしれない」としている。ちょうどこの記述に出会った時期と『右大臣実朝』を読んだ時期が重なったということもあって、実朝の宿命にいっそう想いを馳せることとなった。
     物語の後半で実朝は遊興に耽り、政治への関心を失っていく。「アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ」という言葉が示すように、民の状況を顧みない華やかな儀式を行い、その後鶴岡八幡宮で公暁に殺される。その有様を見ていると、実朝とは、人物というよりも、私達には及びもつかない火そのものという感じがして、火がとつぜん明るさを増し、次の瞬間には消えているというような、自然的な何かを思い起こさせる。これが解説で述べられていた「へだたり」ということなのだろうか。
     公暁によると、実朝は、京に染まろうとして染まれなかった人物である。一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では「あずまえびす」という言葉が使われていたが、京の人間にはまさにそのような認識があったのかもしれない(と実朝は思っているのだろうか)。
     「過酷な環境」の中で実朝が京の真似事に楽しみを見出すことと、そこで発揮された彼の才覚について、私は自らと実朝を切り離して読もうと努めてはいたが、公暁の語りによって、京と私のあいだで実朝の「わかりやすさ」が揺らいでいくようで、理解できそうで手が届かない微妙な描き方をしているところが素晴らしいと思った。

  • 「『右大臣実朝』は、戦時下に書かれた太宰治(1909-48)の歴史小説。破滅に突き進む同時代への想いは、中世の動乱期に悲劇的な最期を遂げた歌人にして為政者・源実朝の生涯を通して語られる。歴史文献『吾妻鏡』と幽美な文を交錯させて語られる。本作創作の経緯と同時代批判を伝える随想「鉄面皮」を併載(解説=安藤宏)。」

    ・右大臣実朝
    ・鉄面皮
    主要登場人物一覧
    解説……………(安藤宏)
    ーーーーーーーーーー
    太田光(爆笑問題)・選 太宰治
    ①『右大臣実朝』(『惜別』所収/新潮文庫)
    ②『お伽草紙』(新潮文庫)
    ③『駆込み訴え』(『走れメロス』所収/新潮文庫)
    「太宰治に出合ったのは、中学生のときに読んだ亀井勝一郎の人生論『青春について』(旺文社文庫など)の中だった。太宰とも共通する「偽善」という概念を初めて知り、衝撃を受けた。つまり、俺が今までいいと思っていたことは俺の嫌らしさだったんだと気付いたのだった。『右大臣実朝』は、まさに太宰の職人的な技術と創作的な魅力が結集した作品だ。実朝のキャラクターは、太宰が理想とする姿。『駆け込み訴え』のキリストもそうだが、無垢であるがために残酷な、太宰と正反対の姿。それを、『吾妻鏡』という史料を基に豊かな想像力を発揮して描いている。
    ーこの年になって太宰を読むと年齢的にも「あほくせーな」と思ったりする。青いし、言っていることも泣き言ばかりだ。生誕80年を迎えた向田邦子と比較すると、向こうの「大人の部分」に驚く。太宰はおしゃべりだから、思ったことを全部口にしちゃう。向田はぐっと自分の中で殺し、それでも生きて行くという覚悟がある。だから、自殺しないで経験を積んで、大人になった太宰の作品を読んでみたかった。」
    (『作家が選ぶ名著名著名作 わたしのベスト3』毎日新聞出版 p96

  • ――

     鉄仮面も熱くなってきた
     って、名言。


     ちょっと趣向を変えて、太宰治の歴史小説など。こういうのも嗜みます。にしても太宰治というひとは本当に多彩で驚く。最近偏った読書ばかりしているのでもっといろいろ読まなきゃなぁ、と思いました。はうつー本とか馬鹿にしてるんですが、この歳になってすべての本には何かしらのHow toがあるのでは? と思うようになっている。何に使うねん、というHow toだとしても。
     想像力次第である。牛刀しか無ければそれで鶏を割くだろう? と。

     歴史小説の面白さは、史実と虚構のバランス感覚というか、文献からのふくらみやキャラクタ造形がどれくらいリアルか、に大きく左右されると思うんだけれど、そのリアルさというのは実際のリアリティとは少し違っていて。というか、よく小説に対して「リアリティが無い」とかって批評をすることがあるけれどそんなもの、大隈重信の銅像にこれ生きてないね、って云うようなものだと思う。
     その点この作品の、虚構も併せ呑んだ造形は見事だなぁと感じた。矛盾も破綻も含めた、いかにもありそう、な登場人物達が段々愛おしくなってくる。

     ストレンジリアル、と云う言葉はもっと広まっていいと思うのだけれど、それが昨今蔓延るなんだか歴史上の人物を擬人化しただけ、みたいな歴史モノとの大きな差であるように感じた。


     勿論エンタメとしてもばっちり。
     読み甲斐ありました。☆3.5


  • 読みにくい本ではあるが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を全部見たのですんなりと入ってきてとても面白かった。実朝が神秘的に描かれており、とても魅力的な人に感じ、どんどんと読み進んでいけました。
    初見で読むには少し難しい印象。

  • 馬鹿の真似をする奴は馬鹿である。

    前に読んだ新ハムレットは西洋古典を基にした小説だけれど、実朝や御伽草子みたいに日本の古典を基にした小説のほうが好き。

    太宰の日本語の美しさよ。もっとたくさん書いてもらってもいいくらい。谷崎が源氏物語の現代語訳をしたみたいに王朝文学、というより、吾妻鏡のような想像の余地のある歴史書の方が相性良くないですか。
    こんなこと言ったら失礼だけど、陰謀とファンタジーがほどよく混ざった吾妻鏡は源氏物語よりずっと面白い。
    太宰は面白い物語を発掘する天才。

    言葉が綺麗すぎて、語り手が男の人か女の人かしばらくわからなかった。宋行きに加えられたり、公暁様に会いに行ったところでようやくわかったくらい。

    鎌倉殿の13人は観ていないですが、この本で言うところの相州様が主人公であればきっととても面白かったんだろう。観ればよかった。
    この文庫本の出版年が2022年だから、大河ドラマに合わせたのかもしれない。

    源平藤橘とはいえ、子供の頃は源氏は勝ち組、平氏は負け組、勝った者が正しい、という印象でした。
    大人になってから、平氏は美形が多く、宮中はイケメンパラダイスだったとか聞いたことがあるし、実朝でも平氏は明るい、源氏は暗いとか書いありますね。授業じゃ歴史の面白さがわからない。

    あと、源氏は同じ一族で殺し合いしすぎ。歴史の授業でも、実の兄の命で殺された義経の話がひどすぎると思ったけれど、それだけじゃなかった。始まりに過ぎなかった。

    九郎判官義経を隠語にする、という噺をこの前寄席で誰かかけていたな。漢字はこう書くのか。

    あとは、うた恋いでお馴染みの定家様。こんな時期の人なんですね。平安末期かと思いきや、がっつり鎌倉時代。

    平民にしたらいつだって苦しいばかりかもしれませんが、幕府があるのにこんなに合戦起こしたり、やりたい放題で、のんびりした時代でなんかいいな、と思いました。
    徳川時代に士農工商、がちがちの身分制度で平和と引き換えに自由を失う前の人たちの話。職業にしても、政府への反乱にしても。
    政府の脆弱性、とも言えますが。

    反乱といえば、前に隼別王子の叛乱が悲しすぎて読み進められなかったので、今度読もうかな。女鳥の姫のところで挫折だから半分も読んでない。

    本人は本気でしんどいんだろうけれど、私は太宰とフィッツジェラルドの自虐が好きです。グランドキャニオンの崩壊。
    自虐なんて言うとモテないから、SNSで明るいところ発信していきましょなんて、よくない兆候だと思う。大事なのは、そんなことないよ、って言わないこと。私もたいがいだけど、あなたも相当ですね、って笑ってあげればいい。

  • 図書館で借りた。
    太宰治の歴史小説。鎌倉時代の源実朝を描いた作品。出版日から、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の影響で文庫化されたと思われる。私も影響されたので借りた。
    大河ドラマのスピンオフ的に楽しむことができた。
    近臣の目線から描かれており、実朝の神秘さといった人となりが強調されている。実朝のセリフのみカナ文字なのが特徴的。実朝が振り回されたり、それでも落ち着いて語られたり…。
    大河ドラマほど毎度まいどの戦や嵌合のドロドロさは出て来ないが、それが小説として丁度良い塩梅になっているように感じた。

    ”他一篇”として収録されているのは「鉄面皮」で、こちらは「右大臣実朝」の予告編的な存在で、太宰の右大臣実朝に対する心境などが描かれている。Wikipediaによると、戦後GHQの検閲に掛かったようだが、内容ではなく「敵国」という単語が入っていただけの理由かな、と感じた。

  • 前半は星5、中盤以降は星3。
    肝心なところを描かず終わったのには落胆させられた。
    もっと熟成させて、もっと長生きして書いてほしかった。

  • 鎌倉殿。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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