- Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003262368
作品紹介・あらすじ
子どもの個性を見事に描き分けて楽しい「子どもたち」。南ロシアの曠野を幌馬車に揺られて旅を続ける少年の目に映った豊かな大自然とおとなたちの姿を、倦むことのない悠々たる筆致で描き、チェーホフの作家としての画期をなす中篇「曠野」。他に、「いたずら」「ワーニカ」「ロスチャイルドのヴァイオリン」「学生」等を収録。
感想・レビュー・書評
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チェーホフ初期の短篇集。『子どもたち』『いたずら』『聖夜』『ワーニカ』『実は彼女だった』『ヴェーロチカ』『家庭で』『幸福』『賭け』『ロスチャイルドのヴァイオリン』『学生』の11の短篇と中篇の『曠野』を納めています。
特に好きなのは、以下の2作品。
『ヴェーロチカ』恋愛に無関心で生きてきた男が、女性から告白された後に自責の念に苛まれる話し。なんて、お馬鹿さんなんだろう…
『ロスチャイルドのヴァイオリン』人はなぜ互いに生きて行くのに邪魔をしあっているのだろう…損得しか頭になかった男が、大切な人を失って初めて気付かされたことが、とても印象的です。
他にも、切ないお話しの『ワーニカ』、老人の考える幸福に疑念を抱く若者の思いが興味深い『幸福』も好きです。
『曠野』は、情景描写は美しいし、少年の置かれた境遇や気持ちの変化などをよく表していますが、ちょっと長すぎるかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『聖夜』のみ再読。
全集で読むと、この時期の著者は大切な人を喪ってしまう、という喪小説をいくつか集中的に書いている。本作は『学生』と並んで、著者の作品の中でも最も美しいものだと思う。
満点の星の夜、復活祭の灯火に浮かぶ登場人物のシルエット、そして聖なる空気感、人の繋がりの温もり。優しさへと開かれていく眼。分析的に読むより、ひたすらそれに浸りたい。
無神論者である著者の作品から後光の様にフワッと輝いて出てくる聖なるイメージ。チェーホフの一番の読みどころとは、それなのだと私は思う。 -
ロシア文学のチェーホフの作品集で、特にその中の『学生』がおすすめです。話の中で学生が聖書のペテロの否認について思い出します。過去に起きたことと現在は繋がっている、この響き合いをチェーホフは「鎖の両端を見た」と言います。
過去と現在の結ばれた時間が印象的に描かれた作品です。
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
『賭け』(P141〜) 内容が深かった。自分の置かれた立場から共感できるかなと思って読み進めたが、最後の悟りの境地に至った手紙には驚き。まだその境地には至っていない。
ちなみに紹介してくれたのは会社の同僚。小4生が読んで「面白かった」とのこと。この内容を面白いと感じることができる小学生、恐るべし!いつか話をしてみたい。 -
曠野。描写が非常にうまい。
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「子どもたち」
…子ども1人1人の描写が優しく細やかで、大変微笑ましいお話だった。
「いたずら」
…彼女は彼のことが好きだったの?考えても、よく分からない…。しかし、物語も恋も、考えても分からないものであることが自然なのかもしれない。
「聖夜」
…にぎやかな情景が描かれているからこそ、静謐さが綺麗に浮かび上がる。どちらの情景も魅力的。今度は、静かな夜に読みたい。
「ワーニカ」
…これは、なんとも切ない。切なくて、心に残った。
「実は彼女だった!」
…ちょっと、笑ってしまった。軽く読める。
「ヴェローチカ」
…主人公の取る行動や心境が、共感するようでしないようなお話…心に残る。自立した女性像。
「家庭で」
…タバコを吸った幼い息子に、父が即興で作った物語を語る場面の描写は、印象的。
「幸福」
…呪いをかけられ隠された宝の話が、いつの間にかいわゆる幸福というものの一般論として議論されているような感じを受ける。何となくだが、ここでの風景と雰囲気が、個人的にはとてもロシアっぽさを感じた。ゆっくり、とりとめもなく考えながら、読み終わった。結構好きです。
「ロスチャイルドのバイオリン」
…“どうして?どうして?どうして…?”“…損とは何だろう。”…といった言葉が印象的。読了後、しんみりしつつも、読めて良かったなぁと思ったお話。
「学生」
…すごく落ち込んでいる時に読んだが、何となく身に沁みた。
「曠野」
…私は、とても好きだなぁと思ったお話。
まず、風景の描写の細かさから来るのだろうか?
道中の曠野が、何と魅力的なことか。
ゴーゴリの『ヴィイ』を原作とした映画で昔観た、曠野の風景も、どことなく脳裏に浮かんだ。
“ロシア人は追憶に耽るのは大好きだが、生きようとするのは好きでない”…290p
“道のかたわらの十字架、黒々とした荷、茫漠とした広がり、焚火を囲んだ一人一人の運命―”…309p
“幸福な人間を目のあたりにして、誰しもわびしくなって、自分にもやっぱり幸福が欲しくなった”…320p
“「百姓ってものは、なんとわびしく、嫌なものだろう!」”…350p
最後の、叔父と牧師との別れの場面は、不安と寂しさで潰されそうな、エゴールシカの気持ちが痛いほどに伝わり…、また大人二人の描写が何とも言えず、思わず涙した。
苦い涙で迎えることとなった、未知の生活。
最後は、“その生活はどんなものになるだろうか。”…と結ばれているところに、明るさも、見えなくは無い。
エゴールシカに、幸多からんことを。 -
「だが墓地から戻る道すがら、彼は激しい寂寥に襲われた。」
中編である『曠野』と11の短篇から成るロシアの小説。
全12の中でも、『ヴェローチカ』、『ロスチャイルドのヴァイオリン』、『曠野』の3作品をひどく気に入った。
全体的に、同じ人に対しても呼び方がいろいろあることから、誰が誰であるのか分からなくなってしまうことがあった。
『ヴェローチカ』
気になる女性に愛の告白をされたとたんに、その女性への気持ちが覚める主人公の話。
今まで恋愛をしてこなかった主人公にとって、恋愛が現実世界に現れてはいけないのかもしれない。
いつまでも綺麗なものばかりみたいと思っているのであろう。
『ロスチャイルドのヴァイオリン』
得することだけを意識して生きてきた主人公が、伴侶の死を境に、生きることについて考え、今までの人生に絶望する話。
心の奥では、伴侶を愛していたにも関わらず、それが失われて始めて分かる。
自分の大切な人のことをより大切に思うようになりました。
『曠野』
途中から誰が誰か分からなくなる。
しかし、序盤のモイセイがとても良いキャラをしている。
お金のためにここまで人は卑屈になるのか、ということと、
そこまでしなければお金を稼ぐことができないのか、という階級社会を感じた。
そして、後半に登場する、現在は落ちぶれているが煌びやかな一瞬の過去を持つ登場人物たちを見て、自分自身はこれから何を、また、どのようにしなければならないのか考えさせられる。 -
2011/3/26購入
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2010年3月11日購入