東京に暮す: 1928~1936 (岩波文庫 青 466-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003346617

感想・レビュー・書評

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  • 昭和初期の東京の生活の様子をイギリスの外交官夫人であるキャサリン・サンソム氏が項目ごとに整理して記録したもの。心配する自国の友達に報告したものらしいのだが、その観察眼や優しい視点が只者ではない。

    1.日本上陸
    2.日本の食事
    3.日本人と労働
    4.日本の伝統
    5.百貨店にて
    6.礼儀作法
    7.樹木と庭師
    8.日本人の人生
    9.社交と娯楽
    10.日本人と旅
    11.日本人とイギリス人
    12.日本アルプス行
    13.日本の女性

    繰り返し述べられているのは、日本人が純朴でおだやかであり、礼儀正しく親切であること。身分や収入の多寡に関わらず美的センスがあり、あらゆる生活用具が芸術品であること。また、自然が美しいことや、女性が魅力的で動作が美しいこと、みんなが子供をすごく大事にすること等が強調されていた。
    少し褒め過ぎで照れくさくもあるが、何となく言いたいことの雰囲気は伝わってくる。

    江戸時代1868が終わって60年の昭和初期(1928)においては、まだ江戸の伝統も色濃く残っていたのであろう。今2016から90年近く前の話だから、今より江戸に近い空気であるはずだ。一方で、この頃できた百貨店の活気あふれる様子が紹介され、伝統と西洋文化がうまく融合していることに感動している。挿絵を見る限りでは、普段着はほとんど和服で、学生服やバスの車掌さん、結婚式のモーニング、ダンスホールに行くときなど、必要に応じて洋服という感じだろうか。電車の中はスーツと和服と半々だった。

    普通の家にも床の間があり、季節に応じた美術品を飾って楽しむこと、庭師が強い権力(?)を持って庭の美感を決定することが特に印象に残った。
    これらは、禅宗的な発想が浸透していたことの現れだろうか。

    いずれにしても、戦争に向かってゆく社会にしては、穏やかで生活を楽しむ人々の姿が印象的で、友達に心配させまいと明るく書いたにしても、実際のところはこんな感じだったのでは・・・と思わせる。
    現在は、この頃より良くなった部分も多くあるが、この頃の心の豊かさの大事なところで失ってしまった部分も多くあるかもしれない。
    今、インバウンドで日本に来ている外国人も同じようなことを言ってくれる気もするし、「日本人は少し疲れていて余裕が無いね」と言われるような気もする。

    我々は、戦後何もない状態から今が成り立っている話はよく聞くが、それ以前の生活や文化については戦争と無関係に接する機会が少ないため、戦争のバイアスのかからない外国人のこのような率直な印象や記録は、当時の実像を推測する上で貴重な資料だと思う。

  • 岩波文庫を手に取るとなんとなく肩に力が入る、岩波コンプレックスな俺だけど、この本は気楽に読めた。

    昭和初期の日本を、イギリス外交官の妻としての目線で捉え描いた随想。と、書くと当時日本が世界から孤立し戦争時代に踏み込んでいく昭和初期を描いたものかと思いがちだが、そうではない。

    むしろ、当時の日本(主として東京)の一般的な暮らし(中流よりやや上ではあるが)を文化比較論的に描いていて実に読みやすい。清楚さ、つつましやかさ、すがすがしさ等、豪華とはまた違ったところに日本の良さを見出す著者の視点は、清少納言にも通じる部分があって面白い。庶民の生活は決して暗黒だけではなく、日常は日常として淡々と、連綿と続いていたことが良く分かる。

    ただし、その日常にも「こりゃ危ないぞ」という雰囲気が徐々に染み込んできてたようで、基本的には日本の良いとこばかり書き記しているこの本にも、時々警告に取れるような描写が出てくる。今の世もそうかも知れない。日常に埋没して気がつけば暗黒の世に足を突っ込まないよう気をつけておかないと。

    難しいことはともかくとして、この本で「質素で勤勉で親切でにこやか」と褒めちぎられた日本人。俺も出来るだけそうありたいなぁと感じ入った次第。

  • 4〜5

  • 体験談というよりは、日本とは日本人とはを語るものに近いので、ちょっとイメージとは違ったけども、この時代のことを知りたい私にはリアルタイムで嬉しい。生活の内部まで知れないので、意外と今と大差ない感じはありますが。
    そう、読んでいても古さを感じ無いのは、恐らく当時も現代も、日本人の本質が変わらないからかもしれません。

    このころから結婚式の髷はかつらだったり、袴が少なくモーニングが多かったりなどが知れた。

  • 著者が日本に滞在したころの昭和3年から昭和11年にかけての日本と日本人への想いを綴ったものであるが、戦時色がほとんど感じられなかったのは奇異な感じを受けた。まだこのころはそんなに人々の生活は窮乏していなかったのであろうか。それにしても著者が感心したこととして、日本ではいつでも子どもが第一であることと老人には気品があること、それからひじょうに謙虚で、慎み深いふるまいや言葉遣いが身についていることをあげています。いまの私たちの周りを眺めまわしてみますと、隔世の感があります。

  • 日本に、開国を迫り、上陸した外国の皆様方が驚いたことは二つ。

    まず、一つ目は日本人がとてもとても子供を可愛がっていること。
    つねにおんぶしたり、抱っこしたり、あやしたりと言うのが
    不思議に思えるほどだったとか。

    そして、いま一つは、性病を全然恥ずかしいと思わず、
    気にしていなかったこと、だそうで…。
    いや~、ご先祖が、色々、すみませんねえ。

    はい、そしてこの本にも日本人は子供をとても可愛がると
    羨ましがって、憧れを持って書いてあります。
    (性病云々の記述はございませんが、
    きっとペリー様以降、沢山の皆様のご尽力、
    啓蒙活動が功を奏したのでございましょうね。)

    こちらのエッセイは、時代は1928年から10年ほど、
    外交官である夫について日本にやってきた女性が、
    日本での暮らしはこんなだよと、自分の国(イギリス)のみんなに
    お知らせする気持ちで書かれたもの。

    日本人は自然から栄養をもらっている、
    お金を持っている、持っていないに関係なく皆美意識が高い、
    優しくて、陽気で冗談が好き、
    美しいものを見逃さない、
    女性はだいたい皆優雅、
    風呂敷と言う素晴らしいものがある、
    手先が器用で…
    などなど、

    「はあ~、そうですか、自分たちでは普通に思っていることも、
    よその人がご覧になるとそうなんですねえ…」

    読んでいて鼻高々、気分がどんどん上向いてくる。

    時折「顔が大きくて、足が曲がっている日本人に
    こういう格好は似あわないけれど…」とかいう記述は

    「ふーん、ねぇ、昔、昔はねえ!
    確かに日本人もそんな感じだったらしいですねえ~」
    と、急に白けて他所事のような態度で対応。
    (きっと今でも西洋の方々からご覧になれば
    あまりかわりはないのかも知れませんねえ)

    あれもこれも小さな子供のような心で
    素直にキョロキョロ、
    日本と言う国をみて、楽しんで、好きになってくれた
    キャサリンさん。

    おかげで自分が生まれた、育ったこの国が
    ますます好きになる一冊。

  • 戦前の日本人の暮らしぶりの一端がわかる。電車の中で居眠りするなど、実は日本人は戦前からあまり変わっていないのがわかって面白い。

  • 1928~1936といっても日本人はほとんどかわっていない。となると、外国人もそういうことになる。風土が人間性を作りあげるのか、とても興味深く読ませてもらった。

  • イギリスの外交官夫人だったキャサリン・サンソムによる古き日本(タイトルにある年代)の滞在記というか見聞録。軽妙ながら鋭い考察、さすがユーモアにみちた内容で、当時の人々の暮らしぶりや様子がほのぼのと伝わり、面白い。洒脱な挿絵も楽しめます。お薦め。

  • 昭和初期のイギリス外交官夫人の目から見た日本見聞録。「東京での暮らしはどういうものですか」という友人や親戚の問いに答えるつもりで書いたというだけあって当時の市井の暮らしが細かく書かれている。好意的に書かれた中、彼女が指摘する日本人の欠点は鋭い。

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