産業革命 (岩波文庫 白 144-1)

  • 岩波書店
3.91
  • (4)
  • (2)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 57
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003414415

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1948年にロンドン大学経済学部(LSE)の教授が刊行したテキスト。技術や経営についての記述を中心として色々と発見がある(たとえば、炭鉱経営者は動力用の馬を飼うために、牧場を持っていた、とか)。半面、叙述にメリハリがないのはこの時代的のスタイルというか、現代が分かりやすい説明を求めすぎなのかもしれない。

    基本的に楽観論なので、格差や貧困についての記述はあまりない。また、ジェンダー、衛生、環境といった話題について手薄なのは、当時の学問的関心を反映しているのだろう。

  • 産業革命とは何かを社会、経済面から包括的、かつ深いところまで記述している本でした。赤線を引いた箇所が無数にあったので、全体的に重要な記述がちりばめられているとしか表現できないのですが、とにかく産業革命をちゃんと理解したければ本書は絶対読まなければいけないと思います。
     現在、IT技術の進展に伴い「デジタル革命」が起きていると言われます。ちまたの本では「第3の産業革命」とか呼ばれることもあって、17、18世紀に英国で起こった元祖の産業革命との比較をする本もあるのですが、それらの本では(元祖)産業革命をちゃんと理解していない印象を受けます。例えば機械打ち壊し運動として有名な「ラッダイト運動」。職を奪うであろう機械を労働者が壊した、ということでAIなどのデジタル革命も既存の職を奪う可能性が高いと言うことで、現代版ラッダイト運動の警告をする人もいます。しかし本書を読めば分かるように、ラッダイト運動をはじめとした暴動は、政治的事件や凶作による不況があったために引き起こされたものだと解説しています。著者によれば、技術的変革による失業もあるにはあったが、それ以上に不況などの要因が大きいという解釈です。
     著者(アシュトン)の視野は非常に広いだけでなく、各現象の背後にあった政治、外交関係などまで考慮されているので、非常に深い印象を受けます。また最後の訳者あとがきも「かゆい」ところを解説してくれて極めて有益でした。本書、全体を通して大変勉強になりました。

  • イギリスで世界史上初めて興った産業革命。
    その変遷を描写する概説書。

    「産業革命は工学上の出来事であると同時に、経済学上での出来事でもあった。」

    技術的側面と、
    経済的側面によって、
    また、人口や食料や政治的側面など色々な要因から、産業革命を解剖していく著者のアシュトン。



    革命という言葉には、
    「常識が非常識となり、非常識が常識となる」という響きがある。

    では産業革命では、
    何が非常識となり何が常識となったのか?

    過去の革命を振り返れば、
    社会階級の興隆がそこにはある。



    例えば、
    日本の無血革命と言われる明治維新では、
    徳川政権にかわり、それまで268年間幕府に隷属していた地方の長州・薩摩・土佐藩士らが新明治政府として権力を担った。

    また、士農工商により最も人権のなかった商人が最も権力をもてる社会へと逆転した。

    その様は、
    まるでトランプゲーム大富豪の「革命」のようだ。


    この「逆転」という観点から産業革命を見たときに、どのような変化や影響があったのか?


    18世紀においては
    英国ではその大部分が土地における労働によってその生計を維持していた。
    生活は、土地に縛られ農業や手工業によっていた。

    そこに技術革新により、工場制度という新しい形態が成立。
    これにより、大規模な工場が働き場として勃興し、小規模かつ封建的な手工業や農業は減衰していった。

    簡単に言えば、
    家庭規模の自営業が減り、
    大企業が働き場としてスタンダードになったということだ。


    これは、
    サラリーマンというのが、
    進路のスタンダードとして日本の学校教育で行われている発端となる出来事として、
    見れるかもしれない。


    このときに、
    大規模な資本と集中投入によって、
    人を雇い入れ、工場を24時間フル稼働して大量に生産するという、資本主義社会の根本構造が形作られていったのではないか。


    この工場モデルにより、
    日本は高度経済成長を見事に成し遂げたわけだが、今やサービス産業がメインである時代において、工場モデルの工場であったが故に機能した、例えば長時間労働など、考え方ややり方が全くもって時代ハズレな点は、もはや否めない状況になっているのは周知のとおりだろう。


    完全に、的外れな慣習
    「昔からやっているからただ今も同じように特に考えずにやっている」
    その慣習や行為に一石を投じ、
    脱却していくのに、改めてその根源やルーツを知るにあたって助けになる書だ。


  • これは1900年代に書かれた本で、題名の通り産業革命について叙述されている。
    読んでいて思ったのが、通説とは違った産業革命の見地である。引用に登録したとおり、そもそも労働者は貧しくなってなんかいない、という見地である。
    熟練労働は、工場や建物を建てるときなどに有効に活用される。それが故に熟練労働は破壊されなかった、とする意見。これもマルクスやエンゲルスの意見とは異なるし、古典的な唯物史観の意見とも異なる。
    仮に労働者が貧しくなったとすれば、それは戦争や行政の欠陥の故であり、産業革命によるものではない、とした。エンゲルスの「イギリスに置ける労働者階級の実態」は、斯様な状態での労働者階級の実態だったのだろうか。イギリスで共産主義革命が起きなかったのも、実は労働者が決して貧困に苦しめられていなかったからなのかもしれない。

    色々と考えさせられる本であった。

全4件中 1 - 4件を表示

T.S.アシュトンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×