- Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003600313
作品紹介・あらすじ
空気のない兵隊のところには、季節がどうしてめぐってくることがあろう-条文と柵とに縛られた兵営での日常生活は人を人でなくし、一人一人を兵隊へと変えてゆく…。人間の暴力性を徹底して引き出そうとする軍隊の本質を突き、軍国主義に一石を投じた野間宏(1915‐91)の意欲作。改版。
感想・レビュー・書評
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日本軍隊は真空地帯 なぐられないためにこびへつらい 人間の狡さと卑しさをあらわにする 狡猾で欲望と暴力むきだしの存在 他社への共感も想像力も自意識も誇りも捨て去った兵隊
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https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/700902 -
第一次戦後派作家の旗手として有名な野間宏の代表作。
戦後派は第一次と第二次に分けられますが、その文学的傾向は同じ戦後はでも大きく異なります。
1947年、日本は第二次世界大戦に敗戦したことで終戦を迎えます。
終戦後になって、徴兵され戦っていた兵隊たちは、その戦争を振り返る余裕が出てきます。
戦争を体験しない我々には、同様に戦争を体験したことのない人々から戦争は悪であること、繰り返してはならない悲劇であることをインプットされますが、実際に戦争に参加してきた人々には、単純に悪の一言で済ますことができないわけです。
第一次戦後派は、主にその戦争体験の意味について論じられることが多くいです。
本書も、世俗から隔離された軍隊生活を送る人々にスポットをあて、ある種、批判的に書かれた作品となります。
舞台は戦地ではなく、軍隊の営内居住空間である内務班となります。
主人公は「木谷」という一等兵です。
彼が、二年の服役を終え、古巣の大阪の中隊に帰ってくるところから物語が始まります。
彼は窃盗の罪で軍法会議にかけられ、刑務所に入れられていましたが、戻ってきた中隊に知った顔は古い下士官しかおらず、彼は病院から帰ってきたということになっています。
彼が刑務所に入っていたことについては裏がある様子で、それを感じ取った「曾田」という一等兵は、興味を持ち独自に木谷について確認を行います。
この曾田がもうひとりの主人公で、本作は木谷、または曾田の視点で語られる内容となっています。
タイトルは、作中で軍隊を、真空管に閉じ込められた真空地帯であると例えていることに由来しています。
そこで行われていることはその中に留められており、隔離された空間となっていて、そんな場所で異質ともいえる行動をした木谷に、曾田は興味を持っているようです。
一方的で捻じ曲げられた裁判の真相を縦軸に、兵隊たちの生の感情が封ぜられた真空地帯の中身を描いた作品と思います。
上官による理不尽な叱責や制裁が行われる、美化されない戦争の姿としてイメージした時に思い浮かぶような内容です。
ただ、本作で書かれた"戦争"の一面は議論の的となっており、あくまで一面として読むのが正しいと思います。
戦争が"良い""悪い"ではなく、特殊な真空地帯の、理不尽や感情等、有様が書かれた名作だと思います。
なお、本書は岩波文庫版でページ数が600ページほどある長編ですが、読み物としておもしろく読める作品でした。