現代カトリシズムの思想 (岩波新書 青版 781)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004120131

感想・レビュー・書評

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  • かなり古い本であるが、気鋭のトマス・アクィナス研究者である山本芳久氏が Twitterで「買い占めて周りに配りたいくらいよい本だ」と激賞していたので読んでみた。確かによい本で名著と呼んで差支えないと思うが、期待外れの面と期待以上の面が両方ある。

    期待外れだったのは、「現代カトリシズムの思想」というからには、プロテスタントではないカトリック固有の思想を期待した者としては、多くのカトリック思想家が紹介されており、いずれも興味深いのだが、キリスト教を現代にどう生かすかという視点は理解できても、なぜ「カトリシズム」なのかが今一つはっきりしない。第二バチカン公会議の「エキュメニズム(教会一致運動)」の熱気冷めやらぬ時期に書かれたからかも知れないが、稲垣氏が現時点で同じタイトルで本を書くとすればどういう切口になるか知りたいところではある。

    しかしこの期待外れを補って余りある逆の意味での期待外れには真底唸らされた。稲垣氏によれば、人格は自存的であることによって、変転する事物を超えた高みに立つ。それは存在そのものへと関係づけられる能力と言ってもよい。ここで存在そのものとは、あれこれという限定を一切取り払った存在であり、その意味で無限なるものである。精神は無限なるものに秩序づけられているからこそ、一切の有限なものに対して自由になれる。この無限なるものがトマス・アクィナスにとっての神である。トマスは啓示を不可欠としながらも、あくまで神を理性的に捉えようと自らの哲学体系を構築した。その最良のエッセンスがここにあると思う。まさに神学と哲学のギリギリの接点を指し示した名著と言えよう。

    後半ではマルクシズムとの対話への期待や社会変革へのキリスト教の役割が熱く語られているが、本書を改訂するとすれば、この部分はおそらく大幅に書き改められるのではないだろうか。名著でありながら絶版となっているのはこの辺りが理由かも知れない。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/702199

  • 「知られざるキリスト者」など、カトリック思想家の大胆な思想的チャレンジがみえる。これが、70年代の本というのが驚き。ナルニアの「そうとは知らずにアスランに帰依していた兵士」の元は、ここにあったんですね。

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著者プロフィール

稲垣良典(いながき・りょうすけ)
一九二八年生まれ。中世哲学。東京大学文学部哲学科卒業。アメリカ・カトリック大学大学院(哲学)M.A.、Ph.D取得。ハーバード大学法学部研究員。南山大学、九州大学、福岡女学院大学、長崎純心大学大学院教授などを歴任。著書『現代カトリシズムの思想』(岩波新書、一九七一年)、『トマス・アクィナス「神学大全」』(講談社選書メチエ、二〇〇九年)、『カトリック入門』(ちくま新書、二〇一六年)、『トマス・アクィナス哲学の研究』(創文社、一九七〇年)、『習慣の哲学』(創文社、一九八一年)、『抽象と直観』(創文社、一九九〇年)、『神学的言語の研究』(創文社、二〇〇〇年)、『人格〈ペルソナ〉の研究』(創文社、二〇一〇年)、トマス・アクィナス『神学大全』翻訳(創文社、一九七七~二〇一二年)で毎日出版文化省受賞、『トマス・アクィナスの神学』(創文社、二〇一三年)、『トマス・アクィナス「存在(エッセ)」の形而上学』(春秋社、二〇一三年)で和辻哲郎文化賞受賞。

「2017年 『nyx 第4号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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