ロシア革命運動の曙 (岩波新書 青版 389)

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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004130314

感想・レビュー・書評

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  • 大晦日に倉敷蟲文庫で手に入れた古本の最後の一冊。当然現在は絶版、掘り出しモンです、と書こうとしたらAmazonでは二束三文。うーむ。

    荒畑寒村は明治時代の社会主義運動家(『谷中村滅亡史』著者)と思われているでしょうが、本書は1960年の書です。この時、寒村73歳。大逆事件以降、社会主義冬の時代を生き残ってここまで辿り着きました。本書はまるまる前期ロシア革命の歴史書ですが、歴史的な意義はその「はしがき(前書き)」にあります。

    寒村は、日本とロシアの運動は1904年に既に交流があったと書く。日露戦争直後にロシア社会民主党に対する友誼の書簡を送り、それを「平民新聞」に載せ、世界の社会党機関紙は、さらにそれを転載したようだ。その後寒村たちは日本政府のために連絡を断たれるのではあるが、1917年の革命を受けて、断片的ながら社会主義への知識を得る。この「はしがき」で、後年の荒畑寒村は言う。
    「(略)なるほど、ナドーロニキは明確な社会改革綱領を持たず、人道主義と正義感だけで行動したロマンチストであったろう。彼等のイデオロギーは極めて純然たる、非プロレタリア的社会主義に過ぎなかったであろう。彼等の反抗も客観的には、小ブルジョワジーの封建性に対する不満の反映であったかもしれない。
    だが、それはみな後に習得した知識に過ぎないので、当時の私の実感ではなかった。私はただ、数千の青年男女が圧政と搾取に喘ぐ人民を救い、無知と窮乏から彼等を解放しようとする理想に情熱を傾け、あるいは現在の幸福な生活を捨て、あるいは将来の社会的栄達を絶ち、人民(主として農民)のうちに身を投じて啓蒙運動を開始した。その犠牲と献身の精神に感動したのである。ことに平和な啓蒙運動の「ヴ・ナロード」運動が、専制政府の苛烈な迫害に反発してテロリスト化した過程を知るに及んでは、為政者の暗愚と暴虐、犠牲者の殉難と刻苦とに悲憤痛恨を禁じ得なかった」(6p)

    明治・大正から昭和の厳しい時代に、代表的な社会主義者・寒村がロシア革命前期をそのように見ていた!と非常に新鮮だった。また、寒村が原因ではないが、此処から日本の学生運動がロマン主義とテロリスト化に傾いていった要因を掘り当てることができるかも知れない。しかし、この本でそこまでの読み込みは無理である。

    「カラマーゾフの兄弟」が刊行された翌年(1881年)に、ロシア皇帝が前期ロシア革命の闘士のテロにより爆弾の藻屑になった。「カラキョウ」のファンは多いが、「カラキョウ」に極めて多大な影響を与えた革命の具体的な推移を知っている人は少ない。今や本も少ない。この本は、19世紀終わりから20世紀初めまでの、波瀾万丈の経過を詳細に述べる。

    皇帝暗殺の直後に、革命集団を指導したのが、若干20代の美貌の女性・ヴェーラ・フィグネルであった等々、とてもドラマチックに書いている。出現しては次々と消えていく革命闘士の「列伝」のような新書になっている(まるで北方謙三「水滸伝」のようだ!)。実際、読んでみて、理想と暴力の狭間、英雄と裏切りの物語、等々が続き、幾つもの映画ができると思った。実際、現在連載中の漫画「ゴールデンカムイ」は前期ロシア革命の残滓ともいうべき人々が登場している。

    掘り出しモンでっせ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      また面白い本を、、、
      猫は「『坊っちゃん』の時代」のイメージが強くて吃驚です。

      荒畑寒村 | NHK人物録 | NH...
      kuma0504さん
      また面白い本を、、、
      猫は「『坊っちゃん』の時代」のイメージが強くて吃驚です。

      荒畑寒村 | NHK人物録 | NHKアーカイブス
      https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009250183_00000
      2021/03/17
    • kuma0504さん
      猫丸さん
      荒畑寒村は坊っちゃんの時代に出てくるほどに、明治というイメージですよね。実際には、漱石とは面識はなかったようですが。

      NHKアー...
      猫丸さん
      荒畑寒村は坊っちゃんの時代に出てくるほどに、明治というイメージですよね。実際には、漱石とは面識はなかったようですが。

      NHKアーカイブス面白そうですね。
      2021/03/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      そうなんだ、、、堀紫郎を調べた愚か猫でした
      kuma0504さん
      そうなんだ、、、堀紫郎を調べた愚か猫でした
      2021/03/19
  • (1983.05.22読了)(1981.03.21購入)
    *解説目録より*
    1917年ロシア革命は、はじめて社会主義国家を生み出したが、ここに至るまでには数知れぬロシア人民の血が流されている。とりわけ、19世紀末、過酷な圧制と搾取をほしいままにしたツァーの下において、解放への理想にもえて「人民のなかに」とびこんだ革命家たちには、想像に絶する弾圧が加えられた。著者はこれら革命家たちから深い影響を受けた日本の社会主義運動の先駆者の一人、胸中に秘める感慨をこめてロシア革命前史を描く。

    ☆荒畑寒村さんの本(既読)
    「反体制を生きて」荒畑寒村著、新泉社、1969.11.10
    「谷中村滅亡史」荒畑寒村著、新泉社、1970.11.20
    「寒村茶話」荒畑寒村著、朝日選書、1979.06.20
    「平地に波乱を起こせ」荒畑寒村著、マルジュ社、1981.11.16

  • 戦前から日本の社会主義運動をになってきた著者が、ロシア革命の前史について解説している本です。

    1825年のデカブリストの乱から、血の日曜日事件を発端とするロシア第一革命までの歴史をたどり、ラブロフやネチャーエフ、ザスーリッチといった人びとが社会主義運動にどのようにかかわったのかを説明しています。

    著者は労農派の代表的論客の一人であり、ナロードニキ運動がロシア革命を引き起こす地下水脈をつくり出したことを高く評価しています。他方、レーニンの率いるボリシェヴィキについては、ネチャーエフ以来の目的のためには手段をえらばない革命手法に対する批判的なまなざしを見てとることができます。

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