日本の幽霊 (岩波新書 新赤版 31)

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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004300311

作品紹介・あらすじ

「四谷怪談」のお岩、「牡丹灯篭」のお露など世にも恐ろしい怨霊として登場する怪談の主人公たち、幽霊。こうした幽霊の姿はいつごろ生まれ、どのように日本人の心の中に定着していったのだろうか。本書は、日本と中国の他界観の交流を跡づけながら、日本人独特の他界観の形成を見ることで、日本人の現世観をも鏡にうつし出す。

感想・レビュー・書評

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  • 京極夏彦の影響もあって、一時期、小松和彦の妖怪研究がブームになりましたが、本書は妖怪と幽霊を区別した上で、幽霊についての民俗学的研究をおこなっています。

    著者によれば、「妖怪」とは「人以外のものが人以外の形状で出現し、異界に所属し、自然神への信仰の産物である」とされます。これに対して「幽霊」は、「人が人の形状をそなえて出現するものであり、使者のおもむく他界に居住し、祖霊信仰が生み出した」と規定されています。また、「異界」とは、内に対する外の語で表される関係概念であり、その位置は相対的に移り変わるのに対して、「他界」はこの世に対するあの世、此岸に対する彼岸であり、やはり関係概念ではあるけれども、その関係は可変的なものではなく、死者のおもむく先である他界と現世は重なることはないと主張します。こうした区別をおこなった上で、本書では幽霊に関するさまざまな伝承が紹介され、あわせて日本と中国の他界観の違いや、日本の他界観の変遷について論じられています。

    ただ、民俗学に構造人類学の手法を持ち込んだ小松和彦とは異なり、本書ではあまり方法論的な整備がなされておらず、個別的・具体的な事例に基づく印象が綴られているにすぎないのではないかという疑いが生じてきます。著者自身「あとがき」の中で、中国人研究者と対話を交わした際に、科学性を欠いているという批判が投げかけられ、「大切なのは真実であって、方法論ではない」と応じた旨記していますが、この批判には確かに納得できるところがあるように思います。

  • 2005年9月1日

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著者プロフィール

1934年、新潟県新潟市に生まれる。新潟大学卒業、東京大学人文科学研究科博士課程修了、文学博士。学習院女子短期大学教授、学習院大学文学部教授を経て、現在学習院大学名誉教授。前国際浮世絵学会理事長。元日本近世文学会代表。大韓民国伝統文化研究院顧問。研究領域は近世文芸、浮世絵、比較民俗学、比較芸能史。

●主な著書に、『愛と死の伝承』、『近松世話物集(1)(2)』、『歌舞伎開花』(いずれも角川書店)、『元禄歌舞伎の研究』、『近世芸能史論』、『近松世話浄瑠璃の研究』、『親鸞の発見した日本─仏教の究極』(いずれも笠間書院)、 『忠臣蔵の世界』(大和書房)、『江戸その芸能と文学』、『近世の文学と信仰』、『心中─その詩と真実』、『出版事始─江戸の本』(いずれも毎日新聞社)、『日本王権神話と中国南方神話』(角川書店)、『大地女性太陽三語で解く日本人論』(勉誠出版)、『鶴屋南北』(山川出版社)、『日本の幽霊』(岩波新書)、『日本の祭りと芸能』、『北斎の謎を解く』(いずれも吉川弘文館)、『霊魂の文化誌』、『江戸文学の方法』(いずれも勉誠出版)、『安倍晴明伝説』(ちくま新書)、『日本人と遠近法』(ちくま新書)などがある。

「2017年 『能・狂言の誕生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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