- Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004300311
作品紹介・あらすじ
「四谷怪談」のお岩、「牡丹灯篭」のお露など世にも恐ろしい怨霊として登場する怪談の主人公たち、幽霊。こうした幽霊の姿はいつごろ生まれ、どのように日本人の心の中に定着していったのだろうか。本書は、日本と中国の他界観の交流を跡づけながら、日本人独特の他界観の形成を見ることで、日本人の現世観をも鏡にうつし出す。
感想・レビュー・書評
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京極夏彦の影響もあって、一時期、小松和彦の妖怪研究がブームになりましたが、本書は妖怪と幽霊を区別した上で、幽霊についての民俗学的研究をおこなっています。
著者によれば、「妖怪」とは「人以外のものが人以外の形状で出現し、異界に所属し、自然神への信仰の産物である」とされます。これに対して「幽霊」は、「人が人の形状をそなえて出現するものであり、使者のおもむく他界に居住し、祖霊信仰が生み出した」と規定されています。また、「異界」とは、内に対する外の語で表される関係概念であり、その位置は相対的に移り変わるのに対して、「他界」はこの世に対するあの世、此岸に対する彼岸であり、やはり関係概念ではあるけれども、その関係は可変的なものではなく、死者のおもむく先である他界と現世は重なることはないと主張します。こうした区別をおこなった上で、本書では幽霊に関するさまざまな伝承が紹介され、あわせて日本と中国の他界観の違いや、日本の他界観の変遷について論じられています。
ただ、民俗学に構造人類学の手法を持ち込んだ小松和彦とは異なり、本書ではあまり方法論的な整備がなされておらず、個別的・具体的な事例に基づく印象が綴られているにすぎないのではないかという疑いが生じてきます。著者自身「あとがき」の中で、中国人研究者と対話を交わした際に、科学性を欠いているという批判が投げかけられ、「大切なのは真実であって、方法論ではない」と応じた旨記していますが、この批判には確かに納得できるところがあるように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2005年9月1日