ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316442

感想・レビュー・書評

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  • 迫真のルポだ。登場する一人一人は洗練されていないが、ひたむき。いわゆる頭でっかちがいない。庶民の声だ。エスタブリッシュメントを嫌い、ビジネスの手腕を評価する人々。今のアメリカに何が起きていて、トランプがなぜ勝てたか納得できた。グローバル化はアメリカをも疲弊させているのだ。

  • トランプがまだ有力候補ではなかった2015年後半から、支持者への取材を積み重ねた成果。ラストベルトを中心とする普通のおじさんたちが、なんでトランプを支持するに至ったのかが、詰問することなく、丁寧に描かれている。1932年に普通の人たちに希望を与えたのがローズヴェルトだったのに対して、その84年後はトランプであることを、私たちはどう考えればよいのだろうか。
    トランプ当選時の米国の雰囲気を伝えるルポとして、長く読みつがれるだろう。

  • 大統領選の1年前からトランプの動向を取材していた、朝日新聞記者のルポ本。著者自身始めた頃に本になることを予想できなかったのではないかと思うほど、トランプは一部の人の人気者程度だった。しかし、取材を進める中で、ミドルクラスだったアメリカ人、ブルーカラーで炭鉱や製造業に従事していたアメリカ人にはあまりにも深刻な現状があり、それを変革するにはトランプは格好のシンボルになったに違いない。ラストベルト(五大湖ちかくの製造業地帯)、ニューヨークなどの東側のアパラチア山脈を超えた地帯はトランプ王国と化していた。
    日本からは全くわからないトランプフィーバーの裏が垣間見える内容だった。

  • *内容に触れているけど、内容に触れて興を削ぐような本ではないのでネタバレ仕様にはしていません。


    THクックの『蜘蛛の巣のなかへ』を読んでいて、ふっと読んでみたくなった本。
    朝日新聞のニューヨーク特派員である著者が、その舞台(アパラチア)の地域や近接するいわゆるラストベルト地帯に住む人々に2016年のアメリカ大統領選挙の時のインタビューをまとめたもの。
    ただ、正直言うとインタビューの内容は、ちょっと期待外れだった感がなきにしもあらず。
    というのも、第2章の冒頭でブルース・スプリングスティーンの「ヤングスタウン」が紹介されるのだが、そういったスプリングスティーンやジョン・メレンキャンプ等、アメリカのスモールタウンソングを歌うミュージシャンに親しんできた自分みたいなのからすると想像した範囲内のことが多かったからだと思う。
    「トランプ現象」なんて言われだした頃、その震源地が「ラストベルト」と言われるエリアだというのは日本のニュースでも伝えられていた。それを知ってしまえば、そういったスモールタウンソングの歌詞を思い出し、おぼろげにでもイメージ出来たのだ。

    そんなわけで、ラストベルトやアパラチアについて書かれた5章までは面白いのは面白いのだが、興味という点でちょっとイマイチ。
    でも、サンダース候補について書かれた6章、アメリカンドリームの終わり(?)について書かれた7章はとても興味深く読んだ。

    サンダース候補の日本での報道はトランプさんとヒラリー・クリントンに比べると少なかったとはいえ、それでもその偏屈な面白さは十分に伝わっていたように思う。
    「こういう人って、今の日本の政治家にいる?」、「あ、強いて言えば、橋下徹?(異論反論そーと―あるだろうけどw)」
    「ただ、橋下さんだと、(サンダースみたいな)ついクスっとしちゃう可笑し味がないんだよなぁー」なんて(笑)

    サンダース候補と付き合いが長いという地元の新聞社のアキ・ソガ編集長によれば、“いつも機嫌が悪い、おじいさんのイメージ”だとかで、まさにTVの演説通りの人なんだなーと感心したり、呆れたり。
    そのサンダース候補を支持している(た)人によれば、サンダース候補が“「週40時間働いている人が貧困に陥るべきではない」と言っているのを聞いて、これだ。この人を応援しようと思った”とのことで、そんなの聞いたら日本人の自分でも応援したくなるw

    というか、今の日本の政治家や役人で(に限らず経済人、あるいは一般の人でも)それをそう言える人、どれだけいるんだろう?
    もちろん、そこには、たんなる自己満足の感情論だけで無責任に働き方改革と旗を振っている人たちは含まれない。
    そんなわけでサンダース候補の章はかなり面白かったのだが、1章しか割かれてなくて残念だった。

    次いで終章である7章、これはいろいろ示唆に富んでいて相当考えさせられる。
    まず、大統領選挙の討論会の前、トランプ陣営は支持者にヒラリー・クリントンを具体的にどんな風に悪口言えばいいか?をアンケートしていたというのには、大笑いしてしまった。
    もはや、「勝てるわけねーよ、ヒラリー・クリントン」という感じw
    ヒラリー・クリントンって、関係ない日本の自分から見ても金持ち臭プンプンで憤懣やるかたないって感じだったから。そういう層(既得権益層)に反感を持っていた人からしたら、そのアンケートはさぞ溜飲が下がったろうなぁーw
    ま、金持ち臭プンプンで辟易といえばトランプさんはそれ以上なわけで、支持者がそれに文句言わないのは不思議なんだけどさ(もしかして、そここそがトランプさんのご人徳?爆)。

    ていうか、その手法。選挙への関心がやたら低い日本も、もしかしたらそんな風に選挙を盛り上げたらいいんじゃない?なんて(笑)
    日々生活していれば、要望や言い分は誰しもあるわけで。候補者がそれを巧みにすくい上げて他の候補者と論戦したり、あてこすりし合ったら、みんなたちまち選挙に関心を持つと思うけど。
    あ、でも、今の日本の政治家は、投票に行かない層が投票に行かないからこそ自分(自党)が安定した票を得られると知っているから、そんなことさせるわけないか?w
    「分断はよくない!」とか、もっともらしいこと言ってさ(笑)

    ていうか、マスコミもよく「(アメリカの)分断が進んだ」って言っているけど、そぉ~お?
    暴力事件等が起きているのは事実だけど、でもそれは昔からあったことで、ある意味それこそが良くも悪くもアメリカだったりするんじゃないのかな?
    そもそも分断したらしたで、政治家が外に「民主主義の敵」を作って、たちまち団結。戦争をすることで国民のガス抜きしてきたのがアメリカじゃん(笑)

    それはともかく、選挙をエンターティンメントとして庶民を楽しませて支持を集めるという点で、トランプさんは一枚上手だったということか。
    ていうか、先週の相撲のアメリカ大統領杯贈呈の時の心底嬉しそうな顔が示しているように、実は(自分に歓声をおくる)観衆を楽しませることが大好きな人、ということにすぎなかったりして?w

    次いで一番考えさせられたこと、それは7章の表題にもなっている、アメリカンドリームの終焉だ。
    つまり、P244にあるように“「高校を卒業すればミドルクラスになれた」という時代は、もはや特定の時期に、特定の国に起きた奇跡と捉えた方がよさそうだ。「雇用を取り戻す」と言い切ったトランプが大統領になっても、かつてのような時代は戻ってこないだろう”ということだ(なのだろう)。

    ただ、著者は直接そうは書いていないが、それは「終焉」というよりは「変化」なのだろう。
    つまり、書かれているように、“先進国で食べていける技能が、より高度になるだけでなく、技術革新に合わせて変わっていく以上、いわゆる「スキルギャップ(技能の差)」の問題にはどの先進国も直面している”ということで。
    今や「アメリカンドリーム(注:著者は昔のアメリカのミドルクラスの豊かな暮らしという意味で使っている)」は、高校を卒業しただけでは叶えられない時代へと変わった、ということなのだろう。

    日本でいうなら、それは大卒や大企業にあたるのかどうかそれはわからない。ただ、いずれにしても、毎日会社に行って仕事をして退社時間になったら帰るみたいな、言ってみればサザエさんの家のお父さんたちのようには暮らせないと思った方がよいということか。

    著者は、さらに哲学者のローティという人の“世界経済は(略)どこの国とも共同体を作ることなど考えていない国際的上流階級によって、間もなく所有・支配されるだろう”という文章を紹介している。
    “所有・支配”といっても、もちろんそれをするのは民主主義こそが為政者にとって一番都合のいい統治システムだとわかっている現代人たちがそれをするのだから、独裁や圧政といった、いわゆるディストピアがやってくるわけではないだろう。
    ただ、今も多かれ少なかれそうであるように、日々の生活のため、あるいはちょっと便利のため、死ぬまで月々費用を徴収され続ける生活。さらには、払う費用やちょっと便利のために生活や自由が次第に圧迫されていく、そんな生活。
    そんな生活のための膨らみ続けるそれらの費用を払うため、庶民はあくせく働かなきゃならなくなっていく……、って、あれ?それって、今と全然変わんないじゃん!?(笑)
    ただ、それはアメリカだからで
    。人がどんどん少なくなっていくこの日本では将来的に働く場所がなくなっている可能性もあるわけで…


    以下は蛇足。
    トランプさんというと「国境に美しい壁を作る」だけど、いつも不思議に思うのはなんで日本のマスコミはそれを悪いこととして報道するのだろう。
    TV報道を見るかぎり、国境には今でも有刺鉄線やフェンスなのの壁があるようだ。
    ただ、それは国境である以上普通のことで、トランプさんが「壁を作る」というのは今の有刺鉄線や壁では国境が守られていない現状があるからだ。
    壁や有刺鉄線の柵は今でもあるわけだ。トランプさんの言う「美しい壁」wは反対だけど、今あるものはOKというのは、つまり“国境を勝手に入れる壁や柵はいいけど、トランプの壁だと入れないから駄目”ということなんだろうか?
    ていうか、そもそもトランプさんが問題にしているのは、(あくまでタテマエの上は)勝手に入ってくる“不法な”移民のことだ。
    その“不法な移民”を防ぐための壁について、政敵であるアメリカの民主党が反対するのはともかく。また、トランプさんにコケにされるから反トランプになっているアメリカのマスコミが反対するならともかく、日本のマスコミや評論家、エコノミストが反対するのは意味が分からない。
    こないだもテレビ朝日だったかで、「国境の壁はなんの解決につながらない」とか言っていたけど、もし半島の某国から日本に難民が大挙してやってきてもそんなことを言うつもりなんだろうか?
    もっとも、日本の場合、国境は海なんで。確かに「壁はなんの解決につながらない」とは思うけど(笑)


    もうひとつ蛇足。
    テレビのニュースでトランプさんが勝つと予想と言ってたんだったか、次期大統領と決まった直後に勝利した納得出来る理由を言ったんだかどっちかは忘れたけど、なるほどなーと感心させられたのはフジテレビの風間氏と木村太郎氏だった。
    あくまで自分が見ていた範囲なので他にもいるとは思うが、その風間氏が出ていたユアタイムはユニークで面白いニュース番組だったなーと思う。
    テレビのニュースというと、最近は取り澄ましたカッコばっかりつけるばかりで中身は全然ないものばかりになってしまったけど、あの番組出ていたレギュラー陣(もちろん司会の女性タレントも含む)から出てくる話に興味深いものが多かった。
    変なバッシングのせいかすぐに終番になってしまったが、視聴者にチャンネルを変えられないよう視聴者が好みそうなニュースだけ選んで流している●HKを見るたんび、何で日本にはまともなニュース番組がないんだろう?と不思議に思う。

  • トランプがなぜ大統領になったのか。
    大統領になる1年以上前からの筆者の取材でトランプ支持者を中心とした人々の考え、意見、思いがこの本に詰められている。
    6297万票のうちほんの一部の人びとを扱っただけとも言えるけれど、アメリカの地方の人びとの生の声は、これこれだけも多くの人々がトランプに票を入れたのか、そしてアメリカという遠くて大きな国が今置かれている現状について理解するために欠かせない貴重なものであると思う。

    個人的にこの本を読んで納得したことは、トランプの資金力がどう受け止められているか。つまり、特定団体からの政治資金を必要とせず、自力で物事を成し遂げることができる、という、非常に現実的な点が、トランプの特性を活かし、当選に導いた一つのカギだったということ。
    これで、明らかに既得権益層にいると考えられるトランプがなぜ反エスタブリッシュ候補として支持され選ばれたかの説明が少しついた。

  • 単なるラストベルト中心のインタビュー集、まとめはさすがに新聞記者だけあり立派だが、いかんせん中身が薄い。

  • 資料ID:92170121
    請求記号:312.53||K
    新聞記者による優れた現地取材。今のアメリカを知ろう。読みやすい。

  • 大統領に就任した途端に支持した米国民は失望するに違いない、そう確信していた。ところが、就任1年を迎える昨年の今ごろ、経済政策ではかなり評価され、外交でも速断を明確に下し、敵対国の首脳との会談をもこなして、政権担当能力は及第点を得ていた。先の中間選挙では、下院で敗れたが上院は守った。現在はメキシコ国境の壁建設をめぐり、政府機関の閉鎖を盾にゴリ押しの様相だ。道理の有無はともかく、実現性がいかにも乏しかった選挙公約を果たそうとする姿勢はあるんだわ。この本で取材を受ける米国中間層の皆さん、ご不満は分かるけれど、かつて圧倒的先進国だったころの米国には回帰できないし、すべきでもない。もはや重厚長大での経済発展はありえないし、往時の繁栄は貧国との相対関係によるんでしょうに。

  • 【由来】
    ・図書館の岩波アラート

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】
    ・とても面白く読んだ。アメリカ大統領選でトランプに投票した人々へのインタビュー。

    ・田中宇の評を読むとトランプ像も随分とメディアで喧伝されているものとは違った様相を呈してくるのだが、本書はまた、それとは違った、草の根のトランプ支持層の姿のルポだ。

    ・彼らがどれだけSNSなどのネットの影響を受けたのかがわかるとまた面白い。決して全てが操作されたとは思わないが、こんな記事もある(※要出典)のでね。

    ・それにしても、例によってチョムスキーがトランプ当選を口を極めて悪く言っちょるが(※要出典)、メディアと権力による大衆操作を批判してたのだから、トランプとは波長が合う部分もあるのではないかと思うんだけどなあ。

    【目次】

  •  差別的・攻撃的で根拠のないでまかせを平気で口にするトランプが米国大統領になってしまったことは、日本から見ていると何かの間違い(事故)みたいに思えるけれど、この本を読めば実は彼がなるべくして大統領になったということがわかります。

     かつて栄えた鉄鋼業などの重厚長大型産業が衰退し、移民が増え、企業が海外に生産拠点を移したことなどで失業者が増えたラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる地域(ミシガン州、オハイオ州、ウイスコンシン州など)を中心に、トランプは熱烈に支持されてきたようです。トランプを支持する人たちは現状に不満を持ち、「アメリカン・ドリームは終わってしまった」、「自分たちは置き去りにされた」という思いを抱いている。エスタブリッシュメント(既得権者≒一部の富裕層)に対する彼らの反感と怒りが、トランプ勝利の原動力のようです。トランプは彼らに理想を語るのではなく、彼らの敵意を煽ることで支持を集めました。

     自由貿易と移民を悪者に仕立て、「TPPから離脱する」、「メキシコ国境に壁を作る」などのバカげているけど単純で分かりやすい主張をするトランプ。その主張に希望を託さざるを得ないごく普通の(むしろ思いやりのある誠実な)人たち。やはりアメリカは病んでいるのですね。

    “トマスの双子の兄フランク(42)が来て「この地図、ちょっと違うな」と言い、ノートに何やら描き加え始めた。メキシコ国境沿いの壁だ。「トランプが美しい壁を造るんだ」” ── トランプを応援している人たちは、こんなにも生真面目だから悲しい。

     著者は朝日新聞記者。大統領選までのおよそ一年間に約150人もの人たちにインタビューしてこの本をまとめたそうです。インタビューの結果を書いた第1~6章はどこの街でも同じような話が多く少し退屈だと感じましたが、トランプ勝利の意味を分析する第7章を読むに至って、足で稼いで積み上げられた事実の重みが説得力につながっていると感じました。

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著者プロフィール

金成 隆一(カナリ リュウイチ)
朝日新聞編集委員
朝日新聞経済部記者。慶應義塾大学法学部卒。2000 年、朝日新聞社入社。社会部、ハーバード大学日米関係プログラム研究員などを経て2014 年から2019 年3 月までニューヨーク特派員。2018 年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』(岩波新書)、『記者、ラストベルトに住む』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『現代アメリカ政治とメディア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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