曾国藩 「英雄」と中国史 (岩波新書 新赤版 1936)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319368

作品紹介・あらすじ

死者数千万人といわれる世界史上最悪の内戦、太平天国の乱を平定した文人にして軍人。稀代の名文家でアジテーター、その一方で、小心翼々とした謹直居士。地味でマジメな山出しの秀才が、激動する一九世紀世界で果たした画期的な役割と、身の丈を超えた「英雄」像が転変するメカニズムを描き、中国史の論理を剔抉する。

感想・レビュー・書評

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  • 曾国藩という人名は初耳だった。自ら郷の若者(書生)たちを組織した湘軍を率いて太平天国軍と闘い、清の勝利をもたらした英雄ということであり、李鴻章の師匠でもあり、曾文正と呼ばれて尊敬されている、著者によれば、当代を代表する大官にして文人であり、諸葛亮孔明や唐宋八大家の韓愈・欧陽脩に優るとも劣らない中国史に残る英雄というのだが、全く忘れ去られていることに驚き。蒋介石にとって清廉謹直で洋務に取り組んだ理想のカリスマだった!孫文は何ら曾国藩について書いておらず、中国共産党にとってはこの人は、蒋介石とは逆の意味で、唾棄すべき外国に妥協した人物と評価されているとのこと、それが現在の知名度に響いているかもしれない。ところで、太平天国の乱が14年にも渉り、ほぼ全土に拡がり、死者7000万人を超える推計もあるとのこと!驚き。第1次世界大戦をも凌駕する被害の規模だった!!

  • 曾国藩の生涯が、よくわかった

  • 【請求記号:289 ソ】

  • 太平天国の乱を鎮圧した湘軍の長、曽国藩の生涯。科挙エリートが騒乱を通じて、私兵をまとめ上げて中興の名臣までなる姿が描かれる。中興の名臣とはいえ、与えられた役割を全うしたに過ぎないと思えた。軍事は軍事指揮は振るわず、北京との関係も微妙と苦労は絶えない。また、西洋と現実的に付き合うと、郷紳ら在地エリートからの評判も悪い。
    中国ではよくあることだが、政治的立場によって、死後の評価が著しく変わった。現在の共産党下では、農民運動と評価されている太平天国を鎮圧したことや、蒋介石が高く評価してたことで、否定的に取り扱われている。
    同じ著者の岩波新書で出版されている、李鴻章や袁世凱は読み応えがあったが、業績の割に地味な印象を受けたのは、曽国藩本人のキャラクターのせいだろうか。

  • 湘軍を率いて太平天国の乱を平定したことで知られ、世界史の教科書にも載っている曾国藩の評伝。
    傑物ではあるが、失敗もし、地味で真面目な曾国藩の等身大の生涯を実証的に、かつ洗練された筆致で綴っている。世界史の教科書ではあっさりとした記述であるが、曾国藩の湘軍が太平天国軍を破るまでに、かなりの一進一退の攻防があり、曾国藩にしくじりも少なくなかったということを本書で知った。
    そして、特に中国においては、社会情勢や立場によって人物評価ががらりと変わるということの事例としても興味深かった。歴史学において人物を取り上げる場合の在り方についても考えさせられ、毀誉褒貶に流れるのではなく、著者のごとく、史料に基づきその人物のありのままの姿を描くようにすることが大切と認識した。

  • 太平天国の乱を鎮圧した人物として知られる人物だけど、その事実しか知らなかった。軍人だと思っていたし、その後の軍閥に繋がっていく人なのかな、と。
    てんで違うのですね。科挙にも合格している高級官僚だし、そも実戦で直接指揮して勝ったことがない。江南の漢の人だったのですね。そして李鴻章の上司でもあった。近代中国を支えた人だけど、共産党国家になってからは評価も低い。今再評価されているそうだけど、優秀な国家官僚だったわけだから、国家が変われば優秀かどうかも変わっちゃうよね。

  • 「曾国藩 英雄と中国史」岡本隆司/岩波新書/2022年/880円/卒読。2億弱だった人口の7000万人が死んだ14年続いた内戦-太平天国の乱を清朝側から指揮した政治家。清末の科挙制度、清朝内部、西洋からの侵略と交渉、内戦の発生から終焉まで書かれていて面白かった。袁世凱と李鴻章も読みたくなった。

  •  李鴻章、袁世凱と来たら次は曾国藩。その人物像は地味で真面目、筆まめでストイック。田舎出身で都でスピード出世の後、服喪で帰省中に現地で太平天国討伐のための団練=湘軍組織を命じられる。
     本書の半分弱は太平天国の乱の戦況。現代の感覚と異なるのが中央と地方の距離感。アヘン戦争時、中央勤務の曾国藩に大して影響した気配はない。太平天国時、曾国藩は中央の大官の肩書があったとは言え、湘軍は個人的人脈を中心とした地元の郷紳に大いに頼る。また湘軍の編成から蘇州陥落で危機感を覚えるまでの7年間、朝廷は湘軍に実に冷淡だ。
     戦後の洋務運動や教案処理には、宋学者曾国藩自身の心情に加え、支持層の士大夫との間で板挟みの苦悩。本書で「いっそう現実家だった」と評される李鴻章に繋がっていくことと合わせると、時代の転換がよく分かる。

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著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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