- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319863
作品紹介・あらすじ
オスマン帝国崩壊と過酷な独立戦争を経て、世俗主義の国家原則をイスラム信仰と整合させる困難な道を歩み、共和国建国一〇〇年を迎えたトルコ。度重なる軍事クーデタ、議会政治の混乱、膠着するEU加盟問題、未解決のクルド問題など様々な課題に直面しつつ、新たな自画像を模索した波乱の過程をトルコ研究の第一人者が繙く
感想・レビュー・書評
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親日国として知られるトルコ。イスタンブールやカッパドキアなど、馴染みのある場所も少なくない。しかし、どれだけ等身大のトルコを知っているだろうか。
トルコ人の友人がいるが、今のエルドアン大統領は、彼にはどう映っているのだろうか?もし自由が制限されている国なら、本音を聞くのは難しいだろうし。クルド人を抹殺しようとしている国では?新聞で時事トピックスの表面ヅラを読むだけで何も分かっちゃいない。しかし興味がそそる国の一つだ。
この本を読んで、いかに欧米系のリソースに偏った見方をしてきたのかが分かった。(イスラムに対する、ある意味ネガティブなイメージを持つ西側のニュースを読んでいれば、このような色眼鏡で見てしまうのは当然なのかも知れないが)
あとがきにもあるが、
2023年5月の大統領選挙では、日本でも報道はエルドアン政権への批判で溢れたが、そのほとんどは、欧米での反エルドアンの論調の焼き直しだった。日本のメディアには、ウクライナ戦争に関連して「NATO加盟国として責任を果たせ」と、アメリカになり代わってトルコに説教する論調も目立った。投票率が85%に達したトルコに説教するよりも、まず日本人の選挙への無関心をなんとかすることの方が、よほど重要ではないだろうか。
本書を貫くモチーフは、西欧世界から向けられる蔑視や嫌悪とトルコが自ら行ってきた改革との関係であった。
エルドアン政権の最初の10年は、教条的な世俗主義を採る司法と軍部による政治介人との闘いだった。外から見て、イスラム主義を支持する、支持しないを言うのは自由だが、国の政治を決めるのは国民の意思である。今のトルコにはその意思を表明する自由がある。とあった。
開かれた国であること、どこかの国のような自己主張のない国でもないことが理解出来た。
またオスマントルコの敗北においては欧米列強に翻弄された国ではあったが、逞しく国造りをしているとポジティブな印象を持った一方、欧米追随の見方は改めるべきだと、再認識した。 -
「トルコ 建国100年の自画像」内藤正典著、岩波新書、2023.08.18
268p ¥1,100 C0236 (2023.11.13読了)(2023.11.03借入)
近年、トルコとエルドアン大統領がニュースによく登場するようになっています。
1923年のトルコ革命から今年が百年目ということで、トルコに関する本がいくつか出てきました。図書館にいったときに新館のコーナーにこの本があったので、借りてきました。
年表を見ると、1952年にトルコは、NATOに加盟しています。1959年には、EECに加盟申請、1987年には、ECに加盟申請、1995年には、EUの関税同盟に合意(1996年に参加)、2004年には、EUに加盟するためのコペンハーゲン基準を達成。2023年現在、EU加盟はまだ認められていない。
●トルコとイスラム(123頁)
トルコは、1923年の建国後から、段階的に、イスラムと国を切り離し、1937年の憲法で明確に「世俗の国家」をうたった。建国の翌24年の最初の憲法では「イスラムは国教」だった。ただし、この年には最後のカリフを廃位させ、シャリーア法廷を廃止、26年には世俗法の民法を制定、28年には「イスラム国教条項」の削除、34年には女性参政権を承認、37年に憲法で「世俗の国」を宣言したのである。
●クルド人の望み(191頁)
多数のクルド人は別の国をつくることなど望んでおらず、彼らの希望は母語の使用、就業機会の増大、平等な処遇にある
【目次】
はじめに――トルコの「表の顔」
第1章 トルコの地域的多様性――沿岸と内陸
第2章 1990年代──不安の時代
第3章 エルドアン政権への道──障壁と功績
第4章 EU加盟交渉の困難な道のり
第5章 世俗主義をめぐる闘い──軍部と司法の最後の抵抗
第6章 エルドアン政権、権力機構の確立──権力の集中はなぜ起きたか
第7章 揺らぎなき「不可分の一体性」と民族問題──クルド問題の原点と和解プロセスの破綻
第8章 直面する課題──いかにして難題を乗り切るか
終章 建国100年の大統領
あとがき
関連年表
☆関連図書(既読)
「古代への情熱」シュリーマン著・村田数之亮訳、岩波文庫、1954.11.25
「埋もれた古代帝国」大村幸弘著、日本交通公社、1978.04.01
「鉄を生みだした帝国」大村幸弘著、NHKブックス、1981.05.20
「古代アナトリアの遺産」立田洋司著、近藤出版社、1977.01.10
「埋もれた秘境 カッパドキア」立田洋司著、講談社、1977.10.30
「トルコ史」ロベール・マントラン著・小山皓一郎訳、文庫クセジュ、1975.10.10
「スレイマン大帝」三橋冨治男著、清水書院、1971.09.20
「シルクロードの幻像」並河萬里著、新人物往来社、1975.03.10
「地中海 石と砂の世界」並河亮著、玉川選書、1977.12.25
「トルコという国」大島直政著、番町書房、1972.08.30
「遊牧民族の知恵」大島直政著、講談社現代新書、1979.06.20
「遊牧の世界(上)」松原正毅著、中公新書、1983.03.25
「遊牧の世界(下)」松原正毅著、中公新書、1983.03.25
「オリエントから永遠の都へ」大島直政・加藤久晴著、日本テレビ、1983.08.19
「ケマル・パシャ伝」大島直政著、新潮選書、1984.05.20
「トルコ民族主義」坂本勉著、講談社現代新書、1996.10.20
(アマゾンより)
オスマン帝国崩壊と過酷な独立戦争を経て、世俗主義の国家原則をイスラム信仰と整合させる困難な道を歩み、共和国建国一〇〇年を迎えたトルコ。度重なる軍事クーデタ、議会政治の混乱、膠着するEU加盟問題、未解決のクルド問題など様々な課題に直面しつつ、新たな自画像を模索した波乱の過程をトルコ研究の第一人者が繙く -
主に90年代以降の政治史(クルド問題については共和国建国時から)。イスラム国家化、強権的と批判を受けがちなエルドアン政権に対しては著者は擁護姿勢。
90年代からイスラム政党が伸長。著者は、従来主流の軍を含む世俗主義側の腐敗や国民からの反感、またイスラム政党側の貧困層向け政策等を挙げる。また、現在の与党にも繋がるこの時の勢力は、女性の社会進出を促す、シャリーア導入を主張するような古い保守的イスラム政党と異なる、という指摘は自分のイメージを修整してくれた。
EU加盟交渉の困難な道のり。22年の世論調査で、文化的にトルコは欧州の一部かとの問には賛成は3割強だが、EU加盟には6割強が賛成。またクルド問題は、09年頃からの「和解プロセス」は破綻したが、著者は「元がマルクス・レーニン主義」のPKK側の責任を指摘。
また現在のエルドアン政権への批判に対しては、著者は欧米の側のイスラム嫌悪、対露制裁に同調しないのは国民の意思、といった点を説明。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/791289 -
東2法経図・6F開架:B1/4-3/1986/K
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2023年現在のエルドアン政権がどのように今の内政/外交方針を固め、動いているのかを、時にトルコ建国まで立ち戻りつつ構造的に解説してくれた。
特にトルコ国政を脅かす要因としての「ギュレン教団」や「PKK」についてはーーそれらの存在があるからといってトルコ政府がクルド人を差別し続けることを正当化しないけれどもーートルコにおけるエスニシティの平等を追求する際の困難をもたらしていることは理解した。
アメリカのクルド人武装組織支援や、イラク戦争&シリア内戦の爪痕、EUのキプロス統一政策の失敗、EUやNATOにおけるトルコへのイスラーム的偏見、さらにはロシアのウクライナ侵略戦争が始まってしまったことなど、トルコ単独で最善を目指すのにもさすがに限界があるだろうとため息をつくような情勢がそこにあり、トルコという国で政治をよくすることの難しさにうんざりしてしまった。エルドアン政権(公正発展党)は、こんな中で一応はEU基準をクリアしようと改革を進め、クルド人等の人権を保護する政策パッケージを打ち出しており、独裁からは程遠い。しかし今後、議院内閣制を捨てたことの弊害が出てこないとも限らないため、引き続き成り行きを中止してゆきたい。