貧困を考えよう (岩波ジュニア新書 638)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005006380

作品紹介・あらすじ

大阪市のある区では、就学援助支給率が50%にもなっているという。いま、経済的理由で進学できなかったり、中退する生徒も各地で急増している。子どもや若者、また女性や高齢者の生活に重大な影響をおよぼす貧困。その実態を見つめ、問題解決の方法を考えてみよう。

感想・レビュー・書評

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  • 10年以上前の問題意識に基づき書かれたものにも関わらず問題は今もなお存在する。人に冷たい政治を変えねばならない。

  • 大阪市のある区では、就学援助支給率が50%にもなっているという。いま、経済的理由で進学できなかったり、中退する生徒も各地で急増している。子どもや若者、また女性や高齢者の生活に重大な影響をおよぼす貧困。その実態を見つめ、問題解決の方法を考えてみよう。

  • 配置場所:2F新書書架
    請求記号:368.2||I 39
    資料ID:C0030281

  •  釜ヶ崎(大阪市西成区)を拠点に野宿者支援などの反貧困活動に携わる著者が、10代の読者に向けて書いた貧困問題の平明な概説書である。

     著者の旧著『ルポ最底辺』もとてもいい本だったが、本書も良質な貧困問題入門になっている。貧困の現場に身を置く活動家ならではの真摯な当事者目線につらぬかれているし、体験だけでは語れない部分についてはきちんと調査・取材したうえで、手際よくまとめているのだ。

    《貧困は、子ども、高齢者、女性、農業、漁業、非正規労働、外国人、障害者など、ひじょうに多くの問題にわたっている。ぼくの現場は日雇労働、野宿問題だけなので、この本を書くため、一年間、全国の多くの方にインタビューをしてまわることになった。(「あとがき」)》

     岩波ジュニア新書は基本的に高校生くらいを対象にしているが、本書は大人が読む貧困問題入門としても好適な内容に仕上がっている。

     第1章「二人のひろし」で、著者は造田博(1999年に起きた池袋通り魔殺人事件の犯人)と田村裕(「麒麟」の片割れ。『ホームレス中学生』で知られる)の2人を対比的に描き出す。

     「二人のひろし」は、共に少年時代の1993年に親に捨てられ、貧困のどん底を味わった。しかし、その後の歩みはあまりにも対照的である。造田がほとんど誰からも救いの手を差し伸べられなかったのに対し、田村には近隣の人々や教師たちなどによるあたたかい支援があったのである。

    《一九九九年、田村裕は川島とコンビを組んで「麒麟」を結成し、造田博は無差別殺傷事件をおこした。二○○七年、田村の書いた『ホームレス中学生』はベストセラーになり、造田博は死刑が確定した。》

     著者は本書でくり返し、貧困には「経済の貧困」と「関係の貧困」という2つの側面がある、と指摘する。「関係の貧困」とは、経済的貧困に陥った者が社会的孤立にも陥ることを指す。
     造田博とは違い、少年時代の田村裕は「関係の貧困」には陥っていなかったのだ。「二人のひろし」の対照から、著者は何が貧困を深刻にしているのかを端的に示し、読者の心を鮮やかにつかむ。

     以後の章では、貧困問題のさまざまな側面が解説されていく。対象読者層を考慮してか、子どもと若者の貧困にとくにウェートが置かれている。
     どの章も、各種データと取材で得た現場の声、著者の体験と意見のバランスが絶妙である。著者は、ジャーナリスティックなセンスにも恵まれていると思う。

     最も衝撃的なのは、著者の地元・大阪市西成区における深刻な貧困状況が描かれるくだり。
     たとえば、同区の公立中学校教師の談話には、次のような一節がある。

    《夜、校区で女子生徒に会って「はよ家帰れよ」と言うても、「おかあちゃんの彼氏来てるから」とかね。あるいは、「だれも家にいてへんもん」と。そういうふうに、自分の居場所のない子どもなんていっぱいいます。多くは、経済的にもきびしい暮らしをしている子どもですね。そして、人と豊かにつながるということも学べずに来ている。
     こういう子どもたちは、なかなか勉強というところには行けません。勉強しようという意欲にたどりつくまでに、それこそいっぱい段階があるような気がするんです。》

     また、次のような一節も――。

    《海外の難民キャンプなどで医療活動をおこなう「国境なき医師団」は数年間、東京や大阪の野宿者への医療活動をつづけていた。ぼくは大阪の国境なき医師団のメンバーと話したことがあるが、いくつかのデータから「大阪市の野宿者の医療状況は、海外の難民キャンプのかなり悪い状態に相当する」と言っていた。大阪という大都会の中に「第三世界」がひろがっている状況だ。》

     「日本は腐っても経済大国だから、貧困問題はあっても第三世界のそれとは次元が違う」と私などは思っていたが、日本の貧困は想像以上に激化の一途をたどり、最底辺層は第三世界に近づいているのだ。

  • レビュー省略

  • 文章がうまい。構成もうまい。特に冒頭の二人のひろしの話は引き込まれたなあ。
    何かを示したデータがあるわけじゃないんだけど、とても象徴的な話だと感じた。

    難を言えば、貧困撲滅にもっとも有効であるはずの経済成長・景気の回復についてほとんど触れられていなかったこと。
    どちらかといえば否定的な文脈でちょこっと触れられてたなあ。

    この手の話をするときは、経済成長と再配分政策をセットで語るべきだと思うんだけど。

  • 関係ない、とは言えない、社会的弱者の貧困問題。

    「経済の貧困」と「関係の貧困」の分け方は納得。経済的に貧しくとも、セーフティネットが機能すれば、人は生きていくことができる。そして、トランポリンがあれば、登ることができるだろう。落ちるときは階段なのに、登るときは崖。そんな社会はやはりおかしい。でも、万能薬はないから、ひとりひとりがやはり考えていかないといけない。

  • 併せて読むとよい。
    『ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所』 (ちくま新書 809)
    http://booklog.jp/users/caliconography/archives/1/4480065113

  • 今、この本を読んでいる私だって「貧困」に陥らないと断言はできない。
    様々な条件が重なれば、今の日本では、富裕層を除いては、貧困が自分の問題となるのではないか。
    自分がそうなっては困るからという、ずるい考え方からでもいいから、貧困について、一人でも多くの人が関心を持っていけばと思います。
    そしてまた、人とのつながりというものを大切にしていくこと、周りの人に心を配るということを心がけていきたいと思います。

    西成区、あいりん地区での子ども達の実状が報告されていますが、本当に心が痛みます。
    そのような現実がすぐ近くにある。

    貧困の連鎖を止めるために、私は無力だと思う。
    でも、だからと言って無関心でいることはやめたい。


    一生懸命生きている人に「もっとがんばって自立しろ」と言うのは意味がないし、「あなたたちは自立していない」と言うのは、失礼な話ではないだろうか。ぼくたちは個人の「自立」ではなく、社会の「貧困」を解決すべきなのだ。

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著者プロフィール

一九六四年生まれ。同志社大学在学中から釜ヶ崎に通い、現在までさまざまな日雇い労働運動・野宿者支援活動に携わる。「つぎ合わせの器は、ナイフで切られた果物となりえるか?」で群像新人文学賞・評論部門優秀賞(二〇〇〇年六月)を受賞。現在、野宿者ネットワーク、釜ヶ崎・反失業連絡会などに参加。主な著書に、『釜ヶ崎から』(ちくま文庫)、『貧困を考えよう』(岩波ジュニア新書)『〈野宿者襲撃〉論』(人文書院)がある。

「2019年 『いのちへの礼儀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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