政治思想史と理論のあいだ 「他者」をめぐる対話 (岩波現代文庫 学術450)
- 岩波書店 (2022年6月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006004507
作品紹介・あらすじ
実存への問いから発し、歴史的文脈に重きを置く政治思想史と、現実を原理的にとらえようとする政治的規範理論。融合し相克する二者を、「他者」を軸に据え架橋させることで現代理論の全体像に迫る、規範理論・政治哲学の画期的な解説書。京大大学院での講義をもとに編まれた名著に、新たに現代文庫版あとがきを付す。
感想・レビュー・書評
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政治理論と政治思想史の境界は実は曖昧である。特に本書が扱う規範的政治理論は実証的政治科学とは違い、本来的には歴史や哲学のような人文学の色彩が濃い学問の筈だ。それは理論や命題の真偽を問うのではなく、妥当性や説得性を問う、価値に関係づけられた学問である。平たく言えば価値観次第で何とでも言える世界なのだ。
だからこそ理論を理論として分析するだけでなく、思想史がやるように、理論を生んだ歴史的・社会的背景や理論家の意図や動機、世界観を多面的に検討した上で、最終的には共感できるかどうかだ。論理は大切だが決め手にはならない。「政治思想史と理論のあいだ」という書名は、こうした規範的政治理論がとるべき総合的アプローチを指すものだ。もっともこれとて一つの立場でしかない。現実には思想史研究と理論研究は分断されており、そうした状況に対する思想史サイドからのプロテストをこめて本書は書かれたと言えるかも知れない。
著者は自身の主張を展開するのではなく、思想史的アプローチを織り込みつつも、各々の理論を価値中立的に解説することに努めたと言う。だが「他者をめぐる対話」という副題には著者の問題意識が滲み出ている。それは社会契約を前提に構成員の合理的選択による便益最大化を追求する近代的な政治概念が捨象したギリシャ的な公共空間の再生を企図するものだ。
そこに登場するのは社会契約的な国家モデルが想定する計数単位としての抽象的個人ではない。人格を持ち歴史的・文化的な文脈に拘束された具体的な自己と他者である。そのような他者との対話はいかにして可能か。「地平」や「生活世界」といった概念で、文脈依存的な相互理解の条件を巡って思考を紡いできた解釈学的伝統が導きの糸になるだろう。
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もちろん業界人はいろいろ突っ込みたくなるんだろうけど、大陸研究者が規範理論のテキストを書くというのが業界の状況としてものすごく洗練されてるんだなと思う。でも先生の本はもっとほかに文庫化ニーズの高いものがたくさんあるのかな。こういう本の作り方は比較的コスト小さいと思うのでたくさんの先生にやってほしい。
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【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/560187 -
東2法経図・6F開架:B1/8-1/450/K
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【蔵書検索詳細へのリンク】*所在・請求記号はこちらから確認できます
https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/464954