- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006004705
作品紹介・あらすじ
『世界史の構造』では十分に書ききれなかった「帝国」の問題を、従来の歴史観とは全く異なる「交換様式」の観点から解き明かす。近代国家にはない要素を持っていた旧帝国のはらむ可能性を再検討する、柄谷国家論の集大成。ウクライナ戦争の問題を考察するにも必読。巻末に佐藤優氏との対談「柄谷国家論を検討する」を併載。
感想・レビュー・書評
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東2法経図・6F開架:B1/8-1/470/K
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著者によれば、本書は『世界史の構造』で十分書くことのできなかった「帝国」の問題を取り上げ、解き明かそうとするもの。
基本的には、これまでも著者により提起された「交換様式」の観点からの分析がなされる。
交換様式A:互酬(贈与と返礼)
交換様式B:略取と再分配(服従と保護)
交換様式C:商品交換(貨幣と商品)
交換様式D: X
<ポイント>
帝国は多数の民族・国家を統合する原理を持っているが、国民国家にはそれがない。そして、そのような国民国家が拡大して他民族・他国家を支配するようになる場合、帝国ではなく「帝国主義」となる。すなわち、帝国の膨張は交換様式Bに基づくのに対し、帝国主義的膨張は交換様式Cに基づく(97~98頁)。
ヨーロッパには帝国は成立せず、その代わり交換様式Cが優位であるようなシステム、世界=経済が成立した。それはヨーロッパが世界=帝国の「亜周辺」であったことに由来する(「亜周辺」とは、中心に従属する「周辺」とは異なり、選択的態度が可能であった周辺部を言う。)。
そして第6章「帝国と世界共和国」では、あり得べき未来として、交換様式Aを「高次元」で回復する交換様式Dについて、カントの「世界共和国」に即した検討がなされる。そしてここでは神の命令や理性に代わるべきものとして、フロイトの「抑圧されたものの回帰」、「死の欲動」を参照した議論が展開する。(正直、この辺りの議論は良く理解できなかった。)
本来、この第6章が著者として一番言いたいところなのだろうが、国家、特に帝国というものについて、従来の考え方とは異なる新たな切り口からの分析がとても興味深かったというのが正直なところ。 -
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https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/570551 -
著者は『トランスクリティーク』以降、マルクスを生産様式ではなく交換様式で、また、カントの世界共和国をベースに、今後の世界の展望を考察してきた。近代国家は、資本=ネーション=ステートの3つの要因を孕んでおり、依然として、これらは強く結ばれている。資本の力が強まると、新自由主義社会となり、ネーション=ステートの力が強まると、国家資本主義あるいは福祉国家社会となる。しかし、これらに囚われている限り、近代を超克することはできない。その為、著者は、資本=ネーション=ステートを超えた社会システム、すなわち、交換様式Dが主力となる世界を考えてきた。本書もその一環として、交換様式A〜Dに触れているが、今回は「帝国」の特徴を、つまり交換様式Bの性質を深堀していくのが本書の主軸となる。
交換様式Bが主力となった時代とは、世界市場(交換様式C)が到来する以前の時代、別の言い方をすると、近代以前に存在した帝国の時代を指す。具体的には、ペルシア帝国、ローマ帝国、さらに時を経て、モンゴル帝国、オスマン帝国と、各時代で、政治的、軍事的に優位であった帝国のことである。本書で特に注意しないといけないのが、「帝国」と「帝国主義」の定義である。両者ともに多数の民族、国家を包括することに違いはないが、前者のほうは、これら独自の習慣(政治、経済活動あるいは宗教)に対して寛容な態度を示す。一方で後者は、民族、国家を征服し、支配者側の価値観を、それを被支配者に押しつける、つまり、同化政策を強制する。このように、著者は2つの用語を厳密に区別する。ちなみに、「帝国主義」の別の特徴として、この性質を持つ国家は、歴史的に見て「帝国」に対して亜周辺であることを指摘する。この箇所は日本にも当てはまり、明治に誕生した大日本帝国とは、まさに帝国主義である。そして、「帝国主義」とは世界=経済、つまり経済的に優位な立場で、ヘゲモニー国家、つまり、交換様式Cが主力となる。
これ以外にも、本書の終わりでは、日本社会を交換様式をもとに紐解く。興味深いことに、徳川幕府とは、拡大主義の否定、つまり世界市場(交換様式C)を抑えてきたが、幕末ごろに限界を迎えた。明治維新の成功要因としても、徳川体制がこれまで抑えてきたものを解放したことで、発展したという。その一方で、日本は周辺の理解が足りないとあり、日本が「帝国」でありたい、すなわち、多民族、国家に寛容でありたいのならば、憲法9条の実行が必要だと主張する。
巻末には、作家佐藤優との対談が収録。日本は海洋国家で、中国とロシアが海へ進出しない限り、これらの国家とうまく棲み分けができる。むしろ、日米同盟で結びつきが強いアメリカとの関係を、日本は注視しなければならないというのは、今後の地政学リスクを考えるうえでポイントとなるだろう。 -
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https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/479421