- Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006021719
作品紹介・あらすじ
万葉・古今から芭蕉・蕪村・晶子まで、季節のうつろいに響きあい、忘れえぬ時を呼びおこす日本の歌蔵。本書は古今の詩歌を味わい、その詞華に誘われて、さりげなく清冽な一文で生の鼓動と魂のありかを伝える。「うた」の調べに添い、ひめやかに生き続けるよろこびと安堵を味わえるひと時。時を超えて共感し、作者との共存を自覚する手がかり。選び抜かれた言葉が心の奥底の扉を開きはじめる。
感想・レビュー・書評
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詩歌・俳句・短歌とその時代の出来事を振り返るエッセイ。
小林一茶の家族を相次いで亡くした後に詠む項が響いた。
言葉選びは流石の一言。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1988年から94年にかけて『毎日新聞』に連載されたエッセイをまとめた本です。
日々の暮らしのなかで感じられる季節の移り変わりに触れることをきっかけに古今の詩歌が参照されており、そうしたかたちでそれぞれの詩や歌の魅力が引き出されています。「見るにつけ、思うにつけ、個人の詞華とともに生きている自分を知らされる。有形無形の数多の個人が、私の中に生きている。私は決してひとりでものを言っているのではない。考えているのでもない。言葉の力とはそういうものなのであろう」という著者の述懐が、過去の人びとのことばによって支えられている日常というものの豊かさを感じさせます。 -
岩波現代文庫
竹西寛子 「詞華断章」
著者が選んだ詩歌から 言葉(詞華)を切り取って エッセイに展開した本
著者は 詞華を通じて、詩歌の情景の中で生きている古人を理解し、その空間で教えを乞うている感じ。教養の実利性は こういう所にあるように思う
芭蕉、蕪村、一茶だけでなく、酒井抱一、加舎白雄、山口素道など 初見の句歌を知った。目線が鳥瞰的に見下ろしたり、地に這って見上げたり、音を遮断したり、通念を超えている
涼しさを
*芭蕉 涼しさやほの三日月の羽黒山
*詩の不易、宇宙の不測に対して、我が身を低くきに保って祈るような気持ちの涼しさ
畑打つ人
*うごくとも見えで畑打つ男かな
*繰り返される男の動作は、そのまま人間の鼓動とうつった〜天地の律動とも思われた。天と地のあいだで人間が生きるとは こういうこと
桜、山を動かす
*酒井抱一 花びらの山を動かすさくらかな
*巨大を微小の重畳に感じる直観、微小を巨大から見下ろす直観
露のなでしこ
*一茶 露の世や露のなでしこ小なでしこ
*晩婚で恵まれた子女を相次いで亡くした一茶の追悼句
*地に伏して天を仰ぐ者の感覚
時空の寂
*加舎白雄 虫の音や月ははつかに書の小口
*静けさ、うっかりしていると看過ごし、聞き逃す〜ありふれぬ表現
*静寂は雑音も包摂する、雑音は静寂を拒否する
月夜の影
*山口素道 われをつれて我影帰る月夜かな
*影こそわが身の本体で、身は影に添うもの〜通念を転覆させる感覚
*間接の自己主張
月に雪
色なき世界の豊穣への親近〜決してみたされぬことのない思慕
別れの心を
*俊恵法師 かりそめの別れと今日を思へどもいさやまことの旅にもあるらん(あえてかりそめの別れを明るく別れよう〜つねに今日を限りのつもり)
*紀貫之 明日知らぬわが身と思へど暮れぬ間の今日は人こそ悲しかりけり
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竹西寛子のエッセイ。今まで読んできたもののなかでは新しいものの部類に入るのかな。とはいえ書かれた時期は97年とかのようで。
うた、を語るエッセイなのだけれど、(ぼくがこれまで読んだこの人の本の中で出会った著者よりも)いくらか歳を重ねた著者が、言葉少なく、その後ろにそっと感情を忍ばせておくような文章の書き方によりシフトしていっているなあ、という印象をもった。より若かった頃の、感情を隠そうとしてもにじみ出てきてしまうような文章も好きなのだけれど、これはこれで響いてくる。どちらも一見は同じような見た目なのだけど、何かが違う、それを感じてしまうのは自分の気のせいなのだろうか、と考える。