◆アジア太平洋戦争の実体験世代が未だ存命中に行われたテレビ・インタビューの傑作。第一巻は、退廃と喧騒の中、戦争の影が知らず知らず忍び寄る戦前昭和前半期◆
1984年(底本1969年)刊行。
◆本書は東京12チャンネル(現テレビ東京)放映の対談番組「私の昭和史」を纏めた書(インタビュアは三國一郎氏)である。
全6巻中の第1巻は1926年大正天皇崩御~35年頃の世相迄(なお、放映年月日は1964~68年迄)。
目次的に具体的に列挙すると
①昭和天皇即位。
②片岡直温蔵相の失言。
③天皇直訴は部落解放の志。
④円本が開ける大衆文化時代。
⑤浅草演芸の灯火。
⑥第一回普通選挙。
⑦パリ不戦条約批准騒動。
⑧独飛行船の訪日。
⑨金解禁。
⑩ロンドン軍縮会議。
⑪台湾理蕃政策の限界。
⑫浜口雄幸暗殺未遂。
⑬官吏減俸始末記。
⑭東北凶作の陰影。
⑮大学は出たけれど。
⑯張作霖暗殺事件。
⑰満州事変勃発。
⑱黒幕が語る上海事変。
⑲愛新覚羅溥儀擁立。
⑳戦前の分裂大相撲。
㉑坂田山心中騒動。
㉒百貨店白木屋焼毀。
㉓少女歌劇団争議顛末。
㉔東京音頭は昭和の「ええじゃないか」。
㉕戦前昭和流行語大賞-モボ・モガから日の丸弁当まで。
㉖山中の水戦-丹那トンネル開通。
㉗戦前の少年ジャンプ-少年倶楽部。
㉘最高の著名二等兵のらくろ。
というところである。
退廃と喧騒の影に貧富の拡大、国民に見えない形での戦火の時代相が徐々に色濃くなっていくが、本巻では、これと、強調したくなるようなものは多くない。
ただし、➉ロンドン会議に関し、特異な見方が開陳。すなわち、通常、補助艦艇の対英米7割如何・云々が喧伝されるロンドン会議だが、それよりも、主力艦に関し、旧式艦廃棄+新造艦建造を禁止したことの方が有意味性を持ったとの指摘。
また、⑫の実行犯関連。テロに対する嘆願書の異様さと減刑恩赦での出所の事実。放映当時「全国愛国者団体会議」の議長職にあったこと。彼の弁解の中に、講演を官憲が中止させた例があるとのこと。
⑬で政府に抵抗して頑張ったのが、司法官(判事・検事)と鉄道職員。
張作霖爆殺事件後での陸軍の軍事介入。これを頻りに仄めかされ、また諫言されながら、これを「治安維持は可能だ」と突っぱね拒絶した警察署長がいたという事実。
流行語には世相が反映されるが、大衆社会の到来を「銀ぶら」や「円タク」で、これと対照的な「ルンペン」、国家の過剰賞揚とも、副食なき食生活という意味で貧しさの象徴にも捉え得る「日の丸弁当」、頽廃という観点で「エロ・グロ・ナンセンス」や「黒猫」(キャバレー的風俗店の隠語)などが引っ掛かった語彙であろうか。