介護者D

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022518552

作品紹介・あらすじ

私は介護者「D」ランクなのだろうか──東京で派遣社員として働く30歳の琴美。父親の体調のため札幌へ戻ることを決意したが、慣れない父子生活、同級生との差異に戸惑う。現代的な問題を軸に描く著者の新境地。

感想・レビュー・書評

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  • 介護、Uターン、仕事、推し活、SNSといった要素を煮詰めてドン。

    闇鍋みたいに(?)味はちょっとボヤっとしたけど、何かが喉に引っ掛かるようなお話でした。
    そして、その引っ掛かるものは人によって違うのではないかと。

  • 30歳で未婚、東京の派遣社員を辞めて父の介護のため札幌の実家に戻った琴美。

    雪かき要員として戻ったが、愛犬の散歩や病院の送り迎えに毎日の家事で日々は過ぎていく。
    唯一の救いは、アイドル「ゆな」だったが、ライブへ行くことも叶わず閉鎖的な環境に埋もれて過ごすことに膿んでいた。

    元塾経営者だった父の真面目さや頑ななところや世間体を気にするところ。
    なによりも出来の良い妹との差別を感じていた。
    アメリカ留学後に結婚、出産、離婚をして今も息子を育てながら仕事をして海外で暮らしている妹。

    帰省した折の父や妹の行動や態度にもやもやとした感情が膨らむが、結局大きな反撃に出ることもなくまた日常がくる。

    愛犬の誤飲から認知症がわかり、その世話に明け暮れる中、父も何かしら感じるものがあったようで。
    静かに緩やかにだが、今のは違う未来が見えたようだ。

    けっしてキツい介護をしているというわけではなく、まだ自分のことはしっかりできる父との生活。
    好き勝手はできないし、家事全般に愛犬の世話や病院の送り迎えはある。
    だが、先は見えなく楽しめる空間じゃないのはよくわかる。これがいつまで続くのか…とか唯一の楽しみである推し活ができないというジレンマ。
    その普通にできないことのたくさんを書いているのだが、多分こういう介護生活は多いと思った。


  • 通して面白くはあったが、前半があまりにも盛り上がりがなく、きつかった。
    介護の現実と推し活がテーマだろうが、今となっては目新しさも、あまり無く。。

  • 思ったことを口に出せない主人公に
    少しもどかしさを感じたが、それは
    ある意味彼女の優しさと受け止め、
    ストーリーを追っていくことができた。

    ペットの世話や家族のケアは経験がない
    だけに大変さは分からないが、この
    物語を通じて当事者の立場が多少なり
    とも理解できた。

  • ここまで思い入れできる「推し」のある人生ならば、もうそれだけである意味十分に幸せと言えるんじゃないかと思いました。もう会えなくても、この先の人生で自分と交錯することがなくても、その幸せを長く深く心から願える他人なんてそうそう見つかるものではないでしょう。
    家族はままならない、人生もままならない、真摯に生きようとしてもそうできない状況に望んでないのになってしまうなどということは琴美じゃなくても、私じゃなくても人の数ほどあるのが当たり前の現実なんでしょう。
    指導を受ける生徒として、介護者として、自分の人生の判定が現在D評価であっても目の前のことを乗り切って日々何とか生きていけたらそれでいいだろう、と今しんどいので深く思います。
    最後、ちょっと救いのある終わり方で読後感も良く、読んでる方も救われました。

  • 子供の頃、塾経営をしていた元教員をしていた父親に学力ランク付けされ、出来の良い妹と比較された娘。
    母親が急逝し、その後、病気で介護が必要になった父は、雪かき要員と称して遠く離れて暮らす娘を実家に呼び戻す。
    もうこの時点で、父親の身勝手さにイライラしてしまう自分。
    娘も割り切れない気持ちで、でもアメリカで暮らす妹には頼れないので、実家へ戻るのだ。
    どこまでも身勝手と思えるような言動をする父に、ぐっとこらえる娘。
    さらに父親の飼い犬が認知症に。
    推しのアイドルを支えに生きるも、すごい閉塞感が伝わってくるのだ。介護はいつ終わるとも分からず、社会的なサポートを当事者に拒否され、すべての負担が家族にのしかかってきて、そこからのコロナウィルス大流行。
    きっと世の中にこういう逃げ場のない人たちはたくさんいるのだろうと思い、本当にドーンと重石のように胸にのしかかってきた。
    介護が家族の人生をも変えてしまいかねない。
    家族だから割り切れない気持ちを抱えながらも頑張るのかもしれない。
    最後に落としどころがきちんとあったのが救いだった。
    きれいごとじゃ済まないテーマで、イライラともどかしさを感じながらもグイグイ読み進められたのは、そこにリアリティーを感じ、感情移入してしまったからだろう。

  • 介護、小型犬のペット、アイドルの推し、どれも自分のなかでは引っかるところのない要素だらけなのに、気がつけば一気読みしていた。しかも、どの要素もリアリティがあって(小説家なら当たり前かもしれないが)驚いてしまった。

    琴美は派遣先の会社の契約が切れるのを期に、父親の介護をするため東京から札幌の実家に帰ってくる。母親は事故で亡くしているし、妹はアメリカで結婚しているので琴美ひとりが介護を行うのだ。
    元塾講師の父は正論を言うけれど頑固で、歳を重ねるごとに頑固さはいや増している。それを何とかやり過ごすこともストレスだ。
    そんな琴美の唯一の救いは、インディーズアイドルグループ「アルティメット」の「ゆな」だ。彼女の歌と踊り、その若々しい姿に癒やされる。(ここが男性アイドルではないことが、案外重要に思える。)
    前半は、30代独身の琴美が、いつまで続くのかわからない父の介護をするという不安が物語を覆い尽くす。
    しかし彼女はきちんと家事をこなし、仕事も見つけ、不満と不安を持ちながらも、札幌での生活を築いていく。
    そこにコロナ感染がひろがって・・・。

    Aランク評価の妹とは違って、父親からの自分の評価はD。なかなかコンプレックスからも抜け出せない琴美だが、後半は少しずつ流れが変わっていく。

    毎回作り込まれた物語で、人物に深みがあって、読み手を掴んで話さない。今回は、都会の日常からリアルな現実をえぐり出し、私の持たない部分を刺激された。小説の醍醐味だろう。どんな時代や背景の物語であろうと、作者の根幹にあるものは変わっていないのが頼もしい。さらに凄みを増していく才能に、期待が高まる。

  • 最近、歴史モノにはまっていて、700ページ超えの長編の合間に詠んだ一冊。
    タイトルから何となく手に取ったが、読み終わりは、主人公の新しい目標設定に、嬉しくなった。
    親の介護、姉妹の小さな確執、推し活、コロナどれも身近なテーマで入り込めた。

  • <人>
    河崎秋子の著書はこれが4冊目。先に読んだ『清浄島』とはまた趣が全く違った作品になっている。そしてここのところなんだか立て続けに何冊か彼女の作品が上梓されている様な感じ。例の『締め殺しの木』がチョッキ賞候補になって以来,段々と人気出てきたかな♪いい感じ。
    物語の舞台設定はやはり北海道。今回は札幌。作者は現在根室に住んでいると贔屓のファンの方から聞いた。たぶん根室出身なのだろう。あ、そういう事は巻末の作者紹介欄に全部書いてあるもかも。

    やはり河崎秋子は,その語り口=文体が僕の好みに合っていてとても読み易い。どちらかというと丁寧に手を抜かず,読者の間違った思い込み解釈なども出来るだけ減らせるように考え説明して描いている。僕もそういう描き方をするのだ。時に,これじゃぁちょっとしつこいかなぁー と思う場合もあるが解釈間違いをされてしまうよりは良いと思っていまする。すまぬ。

    誰もが経験しているだろう普通の生活の中からにじみ出て来る問題や悩みを逐次取り上げ主役女性Dの感情を丸出しにする技法でじっくりと語っている。そういうところにたぶん読み手は共感して「そうだそうだ、そういう事があるよねー」となりグングン物語を読み進めてゆくのだろう。その問題や悩みとは具体的にこういう類の事ですよとここで書いてしまうといわゆるネタバレに近い事になるので書かないが、ともかく逐一身近で面白い。

    Dが時折他人に対して抱く感情表現にも特徴がある。とにかく相手を良く思っていない事をやたら相手の言動を内心で意図付けして揶揄する。これは 自分の事は棚上げした状態での八つ当たり、とも云うのだろが,この書き方がとても上手出来ててうなづける。
    なんならほとんど同じ様な事を云いながら日々を暮らしている人を僕は身近に知っている。その人は女性である。これはもしかすると女性特有の感情なのかもとも思った。(この「なんなら」と云う言い回しを本書でよくお目にかかった。いやいや割と使い勝手が良くて嬉しいぞなw)

    物語後半は全ての言動が新型コロナバイラス禍津により制限されている事実に基づいて描かれている。それが実にさりげなく自然に描かれていて,これまた読者としてはするりと納得できて,後年に再読しても「ああこの頃は新型コロナバイラス禍津だったなあ」とハッキリとと思い出すことのできる作品になっていると思う。

    ある種の小説作品、例えば警察小説では、刑事や犯人がマスクをつけていたりするとどうにも場面設定がやりにくく、従ってその手の小説では現在時制のものでも新型コロナバイラス禍津は ”無かった事” になっていると僕は思っている。今敏先生や大沢兄いの新刊も ”無かった事” になっている。竜崎がマスクして・・・とか,新宿の鮫がマスク姿で というのはどうもそれだけで様にならないのだ。いや非難はしていない。そういう作品はそれでいいのだ。でも街がマスクで覆われた『隠蔽捜査 Vol.9』とかを読んでみたくもあるが・・・。すまぬ。

    あっ、他の作家の他の作品のお話で終わってしまった。(僕にはよくある事で、誠にすまぬすまぬ。)
    いやはや、みなさま『介護者D』は面白いですぞよ。

  • まだ30代で父親の介護をすることになった琴美。彼女の支えは女性アイドルグループの推し活。
    介護というのは終わりが見えないし、よくなることはない。周囲の人たちの言葉に傷ついたり、イラついたりする。すごくわかる。推し活に心を支えられる気持ちもすごく共感した。
    それなのに推しのグループがコロナ禍で活動できず、解散。
    そんな明るい要素がないように見えたのに、少しずつ前を向けたので読後感がよかった。

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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。最新刊『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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