脳死と臓器移植 (朝日文庫 う 10-1)

制作 : 梅原 猛 
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022612847

作品紹介・あらすじ

1999年2月、臓器移植法施行後、初めて脳死者からの臓器移植が行われた。このことは長年続いてきた死の概念を変えるものであった。「脳死」は果たして人の死といえるのか。脳死者からの臓器移植は福音となり得るのか。医師・法律家・哲学者らが、脳死臨調主流派の思想を多角的に批判する。

感想・レビュー・書評

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  • 脳死について考え方の異なる16人の論者による論文を、「医学の立場から」「法律の立場から」「哲学・宗教の立場から」という3つのパートに分けて、収録しています。

    編者の梅原が、臓器のドナーになることを「菩薩行」だと主張し、さまざまな批判を受けていることは知っていましたが、本書の梅原の論文を読んで、やはり問題が多い考え方だと感じました。本書に収録されている藤井正雄の論文が指摘するように、正しい布施とは、施す者、施しを受ける者、施物の三用件に執着しないことを条件としており、また身体そのものに執着しないのが仏教の基本的立場なので、他人の臓器を受け取ることで身体そのものの存続をめざす臓器移植を菩薩行とみなすことはできないはずです。

    本筋を離れたところでも、梅原の論文にはおかしなところが散見されます。デカルト哲学と心身二元論の関係について触れているのは分かるのですが、「カントからヘーゲルまでの輝かしきドイツ観念論の伝統が、この脳死の問題でもものをいっているのである」というのは、今ひとつポイントのつかめない指摘です。さらに、「このドイツ観念論においても原則的に生命という観念を欠いていたのである」と主張していますが、そうでしょうか。本当に、シェリングやヘーゲルの哲学に生命という観念が欠けていたのでしょうか。梅原は「哲学者」なのだそうですが、これでは、学部生向けの哲学概論のレポートだとしても、「不可」の判定を免れないでしょう。

    あと、これは本当にどうでもいいことなのですが、ついでに触れておくと、「現代の西欧世界の大きな悪習である同性愛と麻薬患者が日本では比較にならないほど少ない」と述べた直後に、自身を「ソクラテスの徒」として規定していたりして、読者を楽しませてくれます(むろん梅原は、知を愛するという意味でソクラテスの徒だと言っているのですが)。

    つまらないことにこだわりすぎましたが、医学・法律・哲学ないし宗教という、3つの観点から、それぞれの論者が脳死・臓器移植問題について論じていて、それなりに興味深く読みました。ただ、個々の主張が並列されていて、総合的な視点がどこにも見いだせないことに、多少不満を感じました。

  • 201507つまみ読み
    必要に迫られて。

  • 第二の理性主義について言えば、人間のすることは、おおかた脳の機能にほかならない。とくに現代社会は、どこの国であろうと、脳の機能を中心にして作られる。もしあなたが、大都会の住人であるなら、自分の周囲を見渡してみればいい。あなたの周囲に、人間が手を加えて作ったものでないものが、いったいどれだけあるか。あなたが部屋のなかにいれば、ほぼ完全に、周囲に人工物だけが認められることに気づくであろう。人工物とは、むろん人間の脳の産物である。人工物は、世界に生まれ出る以前に、まぜ脳の中に生じるからである。ただしその人工世界ではもちろん、ただ一つ、「自然の存在」すなわち「人工物ではないもの」が残されている。それは、あなたの身体である。それが自然の産物であることを隠すために、あなたはかならず服着あるいは化粧をし、排泄や性行為や暴力を制御し、そうすることによって身体を「人工化」する。こうした徹底的な人工化、それを私は「脳化」と呼ぶ。好むと好まざるとに関わらず、われわれは「脳化」社会に生きている。この書物のなかでも、一部の論者の主張には、きわめて感情的な論調が見受けられる。しかし、感情とは、しばしば間違った対象に付着しがちであることに留意すべきであろう。それは、国家間の戦争で、人類がつくづく懲りているはずの事実なのだが。
    人間機械論については、もはや言うべきこともない。人間が機械なのではない。人間を機械として見る見方も、人間が人間を見る見方の一つなのである。それがすべてではないことは、だれでもわかっていることであろう。やむを得ず、われわれは義手や義足を用いるのである。人間機械論を否定しながら、人工臓器の開発を促進する、少数意見では、そういうことにならないのではないだろうか。

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