メタボラ(下) (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 491
感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645555

作品紹介・あらすじ

家族離散、雇用難民、偽装請負。追いつめられた僕は、死を覚悟した…その記憶を取り戻したギンジは壮絶な現実と対峙する。一方、新米ホストとなったジェイクは過去の女に翻弄され、破滅の道を歩んでいた。後戻りできない現代の貧困を暴き出す、衝撃のフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • すごく面白かった。
    久々に長編を読んだが、読み終わった後も暫く余韻に浸ってしまうほど、夢中になった。
    ギンジの記憶喪失に至るまでの経緯は胸が痛かったし、アキンツの憎めないほど素直で阿保なところが愛おしかった。
    長編なので読み応えもあり、満足感の強い作品だった。

  • 帯にかかげてあるような言葉「他人の夢の中で、ニート、下流社会、ピサラ、ホスト、記憶喪失、ドメスティック・バイオレンス剥がれ落ちる僕の細胞、請負労働、やんばる元年、…」の数々が飛びかっているのに、目を白黒させて読んだわけではなく、ためになったというか、わかった、わかったというのがかえって恐ろしいような、複雑な感想。もちろん知らなくてそうだったのか!ということもあったけど。

    会話の文章が沖縄弁(?)の言葉でリズム感よく響き、読後頭を離れないのがおもしろい。物語としては刺激的でむしろ暗いのに、そのおもしろみで吹き出してしまったことがあった。

    内容にふれるので詳しくは書けないが、他人の人生には推し量らねばわからない事情があり、それでも他人には理解しがたく、同情、憐憫、同志愛、友情、愛情はまがいものになりかねないとわかる。ほんとに救いがない。

    救いがない状況を桐野夏生は、次から次へと物語にして書いていく。結末のカタルシスがないのでもどかしさの余韻はいつものこと。

    万事解決という能天気な人生を送っている人がいたら知りたいものだから。

  • アキンツはフラーさー。宮古一の金持ちのおぼっちゃんで甘ったれ、俳優みたいな顔した女ったらし。
    まずがーまず、せっかく「ばびろん」でトップテン入りしたのに昔恋い焦がれた女に骨抜きにされて、愛がなんぼのもんかー、くぬフラーが!とうとう親にも見放されたさいが。

    ギンジにもだいず迷惑かけて、なーにが「ズミズミ上等」かー。
    だったらよー、ジェイクとしてワイルドな宮古青年としてそれで満足してるってことかよー。

    桐野氏の作品を読むのはこれで6作目だが(「OUT」「グロテスク」「優しいおとな」「残虐記」「東京島」)ほとんどに通じるのはブルーカラーの労働者たちの閉塞した出口のない世界。搾取され、使い捨てられる彼らの暗鬱とした心の闇は覗いてしまったことを後悔させられるほど。ギンジは記憶を取り戻さないままの方がよほど幸せだったに違いない。

  • みんな、こんなもののために働いているんだ…。

    そんなかんじ。

    一生懸命働いても、

    こんな事しか待っていないのかな。

    悲しいが現実なのか。

    じゃあ、私は恵まれているのかな。

    社会問題がいっぱいで頭が疲れました(´;ω;`)

  • グローバル化に伴いどんどん主体性を見失い、寄る辺のなさを家族や恋人に帰結することで人は孤独を解消しようと苦しむ。「こんなこと」といった孤独。自殺を選ばせた現状を覆せない絶望。

    他にもヨルサクハナのように一度脱落したら社会に復帰できないこと、家庭崩壊、派遣労働(偽装請負)、集団自殺に至るまでの必然的な過程など社会の闇の部分がかかれている。

  • 上巻の続き・・・
    http://booklog.jp/users/kickarm/archives/4022645547

    下巻では、ギンジの過去が見えて来ます。
    派遣として住み込みの寮生活と工場勤務。わけの分からない人間との同居生活。これもリアルで驚きます。

     私自身、本田技研と豊田自動車の期間工員として寮に詰め、夜勤をした経験があります。あの独特な感じ。金を作るためだけに集まる若者と、行き場を失い仕方なく来た年配者達。テレビとかヤカンとかトイレ掃除とか・・・驚くほどリアルだ。
     読んでる最中は気が付きませんでしたが振り返ると、どうやって取材したのだろう?と疑問が湧きます。

     結末は「えっ?」と言う感じです。
    圧倒的なリアリティーで描かれているのに、綴じ方がこれではちょっと不満。
     私的には、「もう一度生きて見よう!」と思って終わると予想してたので残念。
     桐野さんがこの小説で伝えたかったものとは、何なのだろう?

  • 久々の桐野夏生です。
    この人の作品も大好きで、購入出来るのは全て購入しております(古本屋だけど)。
    『顔に降りかかる雨』から読み始めて、かれこれ何冊になるんだろうかな?ってところです。
    最近益々アブラがのって、凄いなぁ、なのです。

    で、今回の『メタボラ』。
    これは職にあぶれた若者を描いた作品、って言っていいかな?
    記憶をなくした『僕』が森を抜ける導入部から、かなりハイテンションで話は始まります。
    そこで出会う女性、その女性のルームメイト、無一文からのサバイバル、と話は進んでいき、森で出会ったイケメン君の話と並行して話は進んでいきます。

    桐野ワールドにしてはややソフトかな?とも思ったのですが、やはり桐野さん。
    後半の『僕』の回想は、かなりドロドロになってきております。
    それでも最近の桐野さんの作品に比べれば、まだまだソフトな印象です。

    解説ではニートがどうのこうの言っておりましたが、個人的には本来そんなモンはない、自分を求めてもがいている人間を描きたいんだろうなぁと思っております。

    ここでも記憶という自分の根幹をなくした『僕』が、いつの間にか当座つけられた名前イコール人格(?)に馴染んできてしまい、記憶を失う前の人格よりも親しみをもってしまうとか、ある役割を振り当てられた人間が、その役割に振り回されて、本来の自分を失ってしまうとか、そんな話の流れになっております。

    その時々で非常に良いキャラの人物も出てきておりますが、桐野さんは、そういう良いキャラを惜しげもなく捨てていくところも、らしいなぁと思ってしまうのでした。

    足掻いて、足掻いて、それでも泥沼から抜け出せない。
    それなのに、なぜかそれを楽しんでいるようにも見える乾いた絶望。

    そこが桐野ワールドの魅力だと思います。

  • 子どもに塾行きなさいいい大学入りなさい言うより、これ読ませた方が効果的なんじゃない?普通の若者が大人になるまでに、少しでもレールを外れた時、そこから始まる無限地獄が事細かに描かれてる。これ、取材どれだけやったんだろうって感心します

  •  新聞連載で読んだときは『OUT』くらいスカッとするラストだったような気がしてたけど、結構救いがないというか、出口の見えない終わりだったなあ……。
     話が進んで、ギンジが自分の真実を取り戻せば取り戻すほど、追い詰められて逃げ場がなくなっていくような。

     終盤に出てくる2回のキスシーンがものすごく切ないです。あのキスは対になってる気がする。男と女、受動と能動、絶望と希望。
     あまりにも映像的なキスシーンなので、映画化すればいいのになあとか読みながら思ってしまいました。沖縄が舞台のロードムービー、結構いいと思うんだけど。

     ケンのかっこよさが異常だった……工場で奴隷同然に働かされてる中国人研修生をどうやったらあんなにかっこよく書けるのか。しかも新聞で読んだときはもっとすごい嫌な奴という印象で展開に唖然とした覚えがあったんだけど、「美しい象牙色の膚」とか「銀色のフレームの眼鏡」とかを読み飛ばしていたせいかなあ。いや、実際計算高くて嫌な奴なんですが。
     逆にジェイクは最後まであんまり垢抜けたヴィジュアルをイメージできませんでした。私の好みのタイプではないっていうだけかも知れない(笑)でも憎めないキャラでした。

  • これは面白かった。さすがは桐野夏生。派遣労働のところなんかは生々しくて、希望がなくて、出口がなくて、胸が痛かった。目の前を生きるしかない姿からは、目が離せなかった。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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