新幹線とナショナリズム (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022735195

作品紹介・あらすじ

【社会科学/社会科学総記】敗戦後、自信を失っていた日本人に希望を与え、ナショナルプライドを復活させた高速鉄道「新幹線」。鉄道や道路などのインフラを整備して国家を発展させた海外の例なども交えながら、ナショナルシンボルとしての新幹線を論じる。

感想・レビュー・書評

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  • 整備新幹線事業について、多くの乗客が乗っているにもかかわらず相変わらずバッシングが続く理由として、新幹線がナショナリズムを体現するものであり、マスコミ等はナショナリズムが拡大することを懸念しているがためにバッシングを行っていると考えている。著者はだが本来ナショナリズムは一意に否定されるべきものではないという、問題意識に基づき、国家の存続(国難への対応)のためにナショナリズムを認識し増幅させることを目的として、新幹線事業の拡大を論じている。著者の研究室に一時いた中野剛志の影響を強く受けているのだろうが、実態として国際経済においてナショナリズムベースで政策を検討することは理解できるが、理論ベースで語る場合にナショナリズムベースで語ることは適切であろうか?著者はナショナリズムが有効に機能した事業としてナショナルイメージの代表例として富士山と一緒に映る東海道新幹線建設事業を挙げているが、むしろ明治期の接道整備のほうがわかりやすかったのではないか?本文中でもリニア新幹線事業があまり進まない理由として、政府内での良い物を作り国民経済に資するというナショナリズムが十分にないことが原因としており、JR東海の肩を持つような論調になっていることから、おそらくJR東海に配慮して書いたのだろう。どうしても著者のナショナリズムのイメージが小林よしのりが昔書いたイメージと同レベルに見えてしまい、個人的には危険だなと考える。優等生的見解ではないが、超国家主義により翼賛体制で戦争に向かったという反省点が著者のナショナリズム論では全く考慮されていないようなので、そのあたりも懸念される。マスコミ等が整備新幹線事業について批判的であるのは、ナショナリズムが増大することを懸念しているというよりも、自分が受ける便益が小さいということではないだろうか?著者が引用しているメディアも、朝日や日経などいわゆる在京メディアである。実際整備新幹線事業を実施している地方の新聞ではさほど批判的な内容は少なくないようである。この点はあくまで推測なので、例えば整備新幹線事業を東京でやった場合にどのような論調が在京メディアから出るかによってわかるだろう。著者の論述は非常に明快である。私も本書を一読した時点では著者の論調に完全同意した。だが、土木学会における著者の明確な講演でも感じた他分野の理論を持ってきてそれが正当であると強引に進める点がどうしても違和感を感じるところであった、今回もそれを感じ一読では危ないなと感じ再読してみた。

  • 日本は自然災害大国で、大地震が起きれば東海道ベルト地帯は分断されてしまう危険性がある。そのためには東京一極集中を解消し国民が分散して住む必要がある。それには全国に新幹線ネットワークを整備するが必要であることを訴えている。その整備には国民のナショナリズムが必要である。当然の訴えである。

  • 新幹線はローマ時代から。全国を新幹線でつなげて、強く明るい日本へ

  • 日本の公共事業において誰もが成功と認めるものに「新幹線」があると思います。東海道新幹線が最大の成功例で、他の新幹線についてはもう少し長い目で見る必要があるかもしれませんね。

    この本では、新幹線を日本中にめぐらせる事で日本の都市が活性化することになるとい趣旨の本となっています。明治初期に栄えていた都市を見ると、新幹線の通っていない都市(函館、富山、金沢、和歌山、徳島、熊本、鹿児島)は没落して、新幹線の通った都市は政令都市にまで成長したと述べています(p31)。

    この延長線上に現在進行中の「リニア新幹線」も推進すべきという論調のようですが、新幹線以降につくられた「高速道路など」は、大きな赤字をだしているものもある事実を考えると、新幹線ならば良い!という考えは危険な気がします。

    しかしながら、新幹線が日本へもたらしたものは大きいので、この本で書かれていることは認識すべきと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・東日本大震災の翌日に営業開始した新幹線により、博多ー鹿児島間は、3時間40分が、1時間19分で行けるようになった、鉄道利用率も半年間で1.4倍となった(p28)

    ・欧州において、フランスでは全国の軌道約1割にあたる4000kmのレールが取り払われて自動車道路に切り替わった、イギリスも鉄道旅客が12→9.6億人になり、ドイツでは不採算の20支線区が閉鎖されて道路になった(p95)

    ・構想から9年、着工から5年で新幹線は開通した、プロジェクトを推進したのは「ナショナリズム」であった(p131)

    ・国力の源泉は、強大な軍事力や豊穣な生産力であるが、それを支えたのが「高水準の交通ネットワーク」であった(p137)

    ・ローマ帝国は、従来のほかの国とは方針を変えて、交流・コミュニケーションを促進する道路を築き上げることで国民統合を果たそうとした、そんな国民統合は、再三度外視でつくり続けた超高水準の道路ネットワークの整備によって支えられた(p139,141)

    2014年3月23日作成

  • 国家国民が一体となって短期間のうちに作り上げた東海道新幹線は、その後の日本経済をけん引する神経となり得た。整備新幹線、リニア新幹線においても否定的な世論を排除して建設を推進し、日本をより緊密な高速鉄道網で結ぶことで、さらなる経済発展を遂げよう。という内容。個々の論には賛否はわかれる。

  • 東海道新幹線の時のように国民あげて新幹線を作る機運がなくなっていることを嘆く一冊。どこまで新幹線が整備されるといいのか考えさせられます…

  • 内容はあっさりとしていた。
    要は新幹線を整備すれば日本が経済的にも文化的にも発展しますよ、ということ。
    最も印象に残った言葉は、(新幹線は貨物ではないのでモノは運ばない。しかし、東西の思想を運ぶ。)

    いわゆる域際関係を活発化させるのに有効である。
    人がいない地域に新幹線を建てても無駄である。その言葉は理解できる。しかし、新幹線が作られた場所に人が集まる。その言葉を尊重しなければ、地域は守れず、多様性がよりいっそう無くなってしまうだろう。
    精神面で日本をつなげなければ国土のよりいっそうの発展は考えられない。と、国民が感じ、行動に移すことができれば、東京一極集中のこの歪な成長にも歯止めをかけることができると思う。

    最後に、祝 九州には感動した。
    インフラが整っているところにすんでいる人は、恵まれています。日本全国をネットワーク化し、さらに恵まれた人が増えていくことを望みます。

  • 横浜旅行への渦中、ちょうど、藤井聡『新幹線とナショナリズム』(朝日新書)を読んだのだけど、ていよく裏切られた。世界に冠たる日本復活のために新幹線はナショナリズムで作られたけれども、その心象と政治思想史を腑分けするのかと思いきや、豊かさと絆再興のために新幹線で「日本を取り戻せ」だった。朝日らしくない。


    著者によれば、ナショナリズムとは否定的に捉えがちだけれども、「国」を「家族」とみなす「国家主義」としての佳い側面は評価すべきで、「ナショナリズムは努力なくしては成立し得ない」とか。残念のザブトン三枚で、安倍政権の国土強靭化が……うわやめろ、という話でありました。


    「ついては本書が一人でも多くの日本国民の目にとまり、この平成の御代に充満する浮ついた『空気』が、少しでも冷静で真っ当な『世論』(輿論)へと消化していくことを祈念しつつ…」。浮ついた空気も真っ当な世論も同じ人が設定するわけなんだがね。

    おっと、「第2次安倍内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)」だったか。自然科学の政治的中立性なんてあやしいものですよ。

    西暦の恣意性は先験的に自覚しているけれど、元号の無自覚な強要にはあきれかえる訳でね。西暦のアドバンテージは年代記の簡便さ。もっとも文化尊重として併記には異論はないけれども、教員公募の履歴書で元号を強いる大学には違和感を抱く。まあ、ぜんぶ、はじかれたけど、西暦で書いただけでないけど

  • 首都圏への一極化を解消するために全国への新幹線網の整備が必要。

  • 新幹線ネットワークに外れた金沢、和歌山、徳島、富山等の明治期の大都市が衰退しているという事実に驚いた。
     インフラの整備の重要性が改めて理解できたが、この20年ほど続いたマスコミの公共事業たたきにより国民に嫌悪感が染み付いてしまっているのでこれをどう払拭するかが問題だと思う。

    今現在の新幹線の重要性を認めない人はいないと思うが、当時の鉄道斜陽説を跳ね返し新幹線建設をやり遂げたことは非常に大変だったことが伺える。
     著者の藤井聡氏の国土強靭化計画に大いに期待するところです。氏の著作もそうだが、ネット上で見ることのできる動画を見ると氏の大変広く、深い思想、見識を垣間見ることができるのでお勧め。

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著者プロフィール

京都大学大学院工学研究科教授、1968年生。

京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学教授等を経て現職。

2012年から2018年まで安倍内閣・内閣官房参与としてアベノミクス、国土強靱化等の政策アドヴァイスを担当。

2018年より保守思想誌・『表現者クライテリオン』編集長。


「2024年 『「西部邁」を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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