こんな政権なら乗れる (朝日新書)

  • 朝日新聞出版
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022951342

作品紹介・あらすじ

迫る衆院総選挙。行き詰まる自公政権の受け皿はあるのか。保守論客の中島岳志氏が、コロナ対策や多摩川の防災、下北沢再開発等の区政10年で手腕を振るう保坂展人・東京都世田谷区長と、理論と実践の「リベラル保守政権」待望論を縦横に語り合う。

感想・レビュー・書評

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  •  自民党政治はあまりにひどいが、それに代わるべき野党も魅力を欠いていて選択肢にならない。しかし「こんな政権なら乗れる」という内容です。
     具体的な説明は次のようなもの→安倍晋三が示したヴィジョンである「トリクルダウン」に国民が幻想を持ったがすぐに幻滅に変わった。しかし(民主党系の)野党はそれに代わる魅力的なヴィジョンを示せていない。保坂区長の施策はまさに魅力的なヴィジョンの一つのありかたを示しているのではないか。

     この説明は説得的とは思えません。「トリクルダウン」とは言葉そのもの印象が恐ろしくショボいし、新自由主義的な匂いもプンプンする。民主党が大勝した2009年国政選挙で国民は「新自由主義にNO」を突き付けたと書いていますが、その国民が「トリクルダウン」に期待したとは考えられないですね。それに代わる説明が必要でしょう。また中島はまともなヴィジョンを示していた小沢・鳩山をまったく評価していない。小沢については強権的だと批判しているが、自民党は常に強権的だった。小沢一郎に対して毀誉褒貶はあるでしょうが、従来の利権を広い範囲で潰そうとした小沢一郎に対して、自民党を含む支配層がひどい反発をした。小沢一郎の政治団体に対して検察が強引な捜査を行ったのもその現れの一つ。結果は検察が完敗(つまり冤罪)だったのだが、「強権的」という言葉はこのような行為に使うべき。

     実際、中島は自民党に対して非常に甘い見方をしている。
      「自民党は公明党と成熟した関係を保っています(p42)」。
     忖度メディアはそういわないがこれは単なる野合です。票が貰えるなら組む相手は何でも良い、ということですが、統一協会問題と同じ構造がある。
     中島自身も自民党(あるいは一部の人たち)に対して成熟した関係を保っているので、その発言をちゃんとしておかないと…ということかなと疑ってしまいます。

     おもしろいと思った部分は、保守vsリベラルという従来の対立軸に替えて、「リベラルvsパターナル(権威主義)」と「リスクの社会化vsリスクの個人化(自己責任)」という対立軸を唱えているところ。
     また、保坂区政での「子どもの声は騒音なのか」という議論も興味深かった。もともとはドイツで行われた議論だが、日本でも取り入れれば良い。ただ、保坂は区長という立場上の宣伝的な意見がありそうなので、評価は保留です。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/761102

  • 2022.03.16 品川読書会で紹介を受ける。

  • 政治のことがわからないので勉強のために読みました。
    世田谷区の保坂区長の実績を振り返りつつ、自公政権のオルタナティブになるには、野党なにが足りないかを考えるという内容でした。

    印象に残ったのはパターナルvsリベラルとリスクの個人化vs社会化の2軸で政治のスタンスを整理する方法です。
    自民のやり方はパターナルかつリスク個人化に分類されているので、本当は、野党が逆張りで代替案を提示すべきなんだ、ということを知ることができました。

    保坂区長は区民との熟議を通して政策を考えたという話がありましたが、これはオードリー・タンの「傾聴」と同じスタンスだと思います。
    また、不動産を公共財として使うという政策も、さまざまな書籍で語られているポスト資本主義を体現するものだと感じました。
    自分はそんな価値観に共感できるので、この本で勉強した内容を頭に置きつつ、政治に参加していきたいと思います。

  •  強いリーダーシップの一方的な決断ではなく、
     「事態を正確に読み解く力」
     「現場からの声を傾聴する力」
     「自らと異なる主張や分析が正しければ受け入れる力」
     というのが、本書を貫くテーマ。

     具体的な実績を野党は、というけれど、
     与党も何も出来ていないのでは?
     

     

  • 東2法経図・6F開架:318.2A/N34k//K

  • リベラルの反対は保守ではなくパターナルか、なるほど。そしてパターナルな与党のオルタナティブであるべき野党もまた規模の小さいパターナルになっている、という点にはこれもまたうなずける観点だった

    今の体制にNOを攻撃的に突きつけたくなる。その方がカタルシスを感じられるからなのだろう

    毎日のように流れてくるニュースを見聞きしているとその不可解さに攻撃的な言動をしがちである。だがこの本を読んでると自分の眉間の皺が緩まっていくのがわかる。

    必要なのは時間をかけてでも対話しながら一緒に考えていく。民主主義を盾に強引に多数決という数の論理で押しきるんじゃついてこない

  • いつも冷静な中島さんだから読んでみた。保坂さんについては、どうもむかし「朝まで生テレビ」に出ていたころの印象が強くて、あまりいいイメージがない。で、本書を読んで変わったかというと、なかなかこのイメージは変えられない。が、熟議デモクラシーを実践されており、信頼に値するということはわかった。ところで、中島さんは保坂さんを再び国政へとお考えのようだけれど、一自治体の首長として成功された方が、はたして国のレベルでもうまくいくのか。規模の違い、人口の差というのは大きいのではないか。ずいぶん前のことだが、予備校で200人とかを相手にしている先生の講演を聞いたことがある。ふだん多人数を相手にして授業をしている先生は少人数でも対応できるが、逆は無理だろう、というようなことを言われていたと思う。本当にそうか? あなたは3人相手に授業ができるのか? レベルの差は歴然としてくるし、誰に合わせたとしても不満は出る。ひとりひとりをしっかり見るしかない。そんなことを考えていた。保坂さんが国政に打って出たときに、必要とされるスキルはいったい何なのだろう。その辺が聞きたいと思って、オンライン対談の質問事項にあげておいた。日曜日が楽しみだ。ところで、メロリンキューはどうしたんだろう? 中島さん、けっこう押してたと思うんだけれど。山本太郎は僕にはメロリンキューのイメージしかない。過去につくられたイメージはなかなか払拭できない。

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著者プロフィール

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『思いがけず利他』『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『保守のヒント』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『保守と立憲』『親鸞と日本主義』、共著に『料理と利他』『現代の超克』などがある。

「2022年 『ええかげん論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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