築地市場の文化団体「築地魚市場銀鱗会」の事務局長を2010年から務める著者は、元はファッション誌や料理本などを手がけるやり手編集者。それが、1998年に築地市場の水産仲卸「濱長」のチラシ作りを頼まれたことをきっかけに同店で働きはじめ、以降築地にどっぷりだとか。本書の内容もさることながら、著者自身に興味がわく。
そんな福地さんが、
「惚れて惚れて、20年近くベッタリ寄り添ってきた自慢のカレシ、築地市場の姿を、ただもう見てほしい一心で、誕生した本です。 」
と、今年(2016年)の3月発刊。
当然、年内の豊洲移転を視野に入れ、築地最後の姿を、その歴史と共に留めておこうという意図と内容となっている。直近の写真と記事に「2016年、築地最後の初市。」なんて文字が躍る。が、事態はその後一転、現在に至る。築地最後の初市は2017年、あるいはもっと先になるかもしれない(苦笑)
自分なりに築地強化週間の11月第1週、まずは映画『築地Wonderland』を鑑賞し(福地さんも登場している)、移転先の豊洲市場開業初日となる予定だった11月7日(月)に改めて築地市場を訪れて朝食を堪能@和食かとう。 そして、映画の内容を反芻するかのように本書を読んだ。
映画のほうは、築地そのものというより、築地と日本食文化の関わりに軸足があり、また歴史的変遷は昭和11年の市場開場の様子を捉えた貴重な映像は挿入されているが、江戸時代の話や日本橋魚河岸から築地への移転、また移転前後の騒動、あるいは1954年ビキニ環礁の水爆実験の影響等々、歴史的な話は比較的割愛されている。
本書では、そのあたりの変遷をじっくりと味わうことができる。日本橋からの移転にしても30年もスッタモンダがあったそうだ。現在の築地市場の機能、キャパシティを鑑みての移転、改良検討も1970年代から続く話。そう思うと都知事交替のタイミングでたまたま問題がクローズUpされているけど、世界唯一の巨大中央市場の移転だ、一朝一夕には行かないもの当然だろうと、なんだか達観して推移騒動を眺めることもできるかもしれない。
せっかくの猶予期間だ、映画や本書で学んだ内容を現場で確かめるように、またしばしば通いたいと思った。見慣れた場所もまた違った発見ができそうである。
資料としても一級品の本書。福地さんが惚れたカレシの見栄えを良くしようと、見開き1ページ毎に話題が簡潔にまとめられており、ほとんど写真集と見紛うような貴重な画像をふんだんに配した豪勢な作りが理解を一層助けてくれて読みやすい。きっと銀鱗文庫の貴重な蔵書の一部に加わっていくことだろう。