八月の光

著者 :
  • 偕成社
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  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784037441609

感想・レビュー・書評

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  • 8月6日のヒロシマが舞台となった、3つの短編。

    言葉が迫ってくる。

  • ぱせりさんのブログで見かける作家さんで読んでみたいと思っていました。
    図書館でこの本を見つけた時は、「あった!」と。
    8月の題名から今読むべき、と読み始めましたが、こんな軽い気持ちで読む本ではありませんでした。
    「八月の光」=原爆でした。
    広島出身ん作家さんで原爆2世とありました。
    作家さんの想いがストレートに伝わってきます。
    もう一度広島に行きたくなりました。
    「石の記憶」石の階段に人の影が残っていた。
    このことは知っていましたが、初めて知った物語でした。

  • 昭子の母の真知子には、予知能力のような不思議な力があると
    周囲に思われていた。
    美しく、おっとりした性格だったが、わがままな面もあった。

    8月6日、この日も真知子は仏壇の陰膳が落ちたからと言って
    勤労奉仕を休んだのだ。
    そのおかげで、原子爆弾の被害にあわなくてすんだのだが、翌日真知子は
    近所の人と一緒に、まだ帰ってこない人たちを探しに、市内に入って
    行ったのだ。
    真知子の母のタツは、こんなときこそ真知子を人々の看病に当たらせて
    日頃迷惑をかけていたことを補わせようと思っていた。

    しばらくして、真知子の体調が悪くなる。


    同じ日の朝の物語が、2編。

  • 八月の光 Flash in August

    「あの朝、ヒロシマでは一瞬で七万人の人びとの命が奪われた」

    生き残った人びとのために

    朽木 祥さんは、この本をこのように始めているのだが、読後にそれらの言葉に込められた意味を知るようになる。

    本編は、「雛の顔」「石の記憶」「水の緘黙(かんもく)」

    緘黙(かんもく)とは、「原因によらず、明瞭な言語反応が欠如した状態を指す」とのこと。

    とにかく、8月はひとりの人間として、過去を知り、自分で考えるべき月であるのだ。この作品を読み、心からそう思う。
    今年は67年目ということで、その時間経過の長さに驚いたが、こういう作品に出会い、私たちひとりひとりが記憶を上書きしていくことができるのは、幸いなことである(なんとも悲しい記憶の上書きだけれども、それは決して放棄してはいけない作業なのだと思う)

    【雛の顔】
    真知子(母)
    忠(ただし)
    タツ(祖母)
    昭子(あきこ)

    真知子は、気ままで愚かな、とびきりの器量、部屋にこもり「少女の友」を半日ながめていたり、いい匂いのするパフに顔をうずめていたり、髪をいじったりするのが好きな少女のような母。
    夫の陰膳が落ちたからだと、奉仕にでかけない真知子。
    それは8月6日の朝のこと。

    「真知子は生かしてもろうたんじゃけえ。あたりまえのことじゃがなあ。わしもじゃ。ほんまなら、あの日に亡いにしとったかもしれん命じゃ。あんたのもわしのも、真知子もなあ。」

    「もとおらん娘が、ほんのちいとでも、他人様のお役にたてばええと、そう思っただけじゃったんじゃ」

    【石の記憶】
    光子(みつこ)
    テルノ(母)二親を亡くし厳しかった伯母に育てられる。仕立て物で母子ふたりの暮らしが支えられる
    清司(せいじ)(父)泳ぎが達者 南方に向かう途中に船が撃沈して戦死

    7月の終わり近く、郵便局でこの市に恐ろしい攻撃が仕掛けられると噂。
    月が変わったころ、「にげなさい」のビラがまかれる

    疎開をせずに、清司がひょっこり帰ってくることを待っていたが、とうとう疎開を決める。
    月曜の朝、銀行でお金をおろし、疎開の準備をすすめようとして家を出るテルノ。
    「お母ちゃんがおらにょうになったら、どうするんかいね」と言葉を残して。

    黒い、小さな影。
    やせて小柄な、母のかたちの影だった。
    母の影が石段に腰かけている。

    【水の緘黙かんもく】

    教会でオルガンを弾いている娘さん
    K修道士(あの日ここにいなかった)
    P神父(外国人)

    修道士の手紙
    「そんな私があなたに思い出すことを強いるのは奇妙だと思われるでしょう。しかし、あなたはー私とちがってーあの日のとてつもない苦しみや悲しみをだれかと深く、おそらくおまりにも深く分ちあったために、じぶんがだれであるかを忘れ、名前さえなくしてしまったのではないかと、私には思われてならないのです。
    あなたが思いだせば、だれかの苦しみや悲しみもまたその人たちだけのものではなく、みんなのものとしてきっと記憶されていくでしょう。
    私のようなものでも、そのような記憶に支えられて、私だけの記憶を、いつの日か、“私たちの記憶”として語ることができr日がくるかもしれません」

    「とてつもない悲劇にあっても、たくましく悲劇を乗りこえていける人たちもいます。われわれはそのたくましさに励まされたり勇気づけられたりします」
    「しかし、乗りこえることができずに、心が死んでしまう人もいます。自分というものがsっかり壊れてしまうのが怖いので、あまりにも苦しいので、なにも見なかったことにして生きていくほかないような人たちが。…では、そんな人たちの苦しみには、なんの意味もないのでしょうか」
    「その人たちから私たちが知ることは、一発の爆弾のすさまじい暴力です。その暴力がどれほど人間を貶め、苦しめ、最後には人でさえなくしてしまったか、ということです。生きのびた人たちもー身体が生き残った人たちもー本当に生き残ったとは言えない。人のかたちは残っていても心は死んでしまったのだということをーそれほどの悲惨を、私たちはあなたやK修道士から知るでしょう」

    「よう来てくださったなあ」
    「恋の一つもせぬまま死んでしもうたけど、あれはだれだったろうと、こんな長いあいだ見も知らぬ人に思うてもろうてありがたいことです」

    夫婦が交々(こもごも)に語る娘の姿はどれも彼女の生きた証(あかし)なのだった。

    娘さんの“記憶”を語る言葉。

    「あなたでも私でもよかった。焼かれて死んだのも、鼻がもがれたのも、石に焼きつけられたのも。あなたでも、私でもあった。死ぬのはだれでもかまわなかった」
    「私にはいまだに、その答えがわらかないのです。…だからこそ、あの日を記憶しておかなければと思うのです。あの日を知らない人たちが、私たちの記憶を自分のものとして分ち持てるように」

    「あの人たちのことを、覚えていなければ」と僕は思わず言った。


    人であって人でない、人びとの群れ。
    完全な人のかたちをしているものは、ひとりとしていない。

    きらめく見ずに隠されてしまった記憶。

    「我生く、ゆえにわれ有罪なり。私がまだここにいるのは、友人が、仲間が、未知のだれかが、かわりに死んでくれたからだ」とアウシュビッツ強制収容所での心情を、エリ・ヴィーゼルが書いている。『死者の歌』晶文社

    ヒロシマ、アウシュビッツ、大震災、津波、原発事故

    この本が1000円であることに驚くばかり…そんなことに目が向く私も私なのだけれども。

  • ヒロシマ。原爆投下により世界に知られることになった名前。しかし、60年を過ぎた現代、はるかかなたの昔話のようになってはいないか。
    一瞬で亡くなった多くの人、長く後遺症に苦しんだ人、生き延びて伝える人…。そうした人々のことを知ることが「何だったのか」を考えることにつながる。一篇一篇は短く、有名なエピソードに肉付けしたものもあったが、そっと誰かに手渡して夏に一度は思いをはせたい一冊。

  • 【収録作品】雛の顔/石の記憶/水の緘黙
    それまであった日常。どこにでもある光景、人の思いが断たれる。忘れてはいけない、繰り返してはいけない。

  • ファンタジー世界に仮託しない、原爆を主題にした短編小説集。
    「助けて」と呼ぶ女子中学生を見捨てて逃げた青年の話が秀逸。
    本当は、人の心の綾を丁寧に書いた物語に「秀逸」なんてほめ言葉は使いたくないのですが、今は相応しい言葉がみつかりません。
    どの短編も辛い話ですが、読後感が暗くはありません。この悲劇を越えて生きてきた先人への尊敬と親炙を感じます。
    自分も、悲劇に負けなかった人たちに学びたいと思います。

  • 原爆投下から67年目 犠牲となった方々の一人ひとりに、それぞれの物語があったということが、淡々と語られている。

  • 8月になると、読まなくては、、、と思う本たちがあります。
    父の故郷が広島だからでしょうか。

  • あの夏、あの朝、ヒロシマで奪われたたくさんの命。
    とてつもない悲劇の中の虚無と絶望。
    気をゆるすと失われかねないその記憶は、伝え、残し、繋げなければならないのですね。
    「生き残った人びとのために。」
    これから生きてゆく人びとのために。
    原爆の無惨さも、そして、おそらくは原発の無情さも。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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