デルタの羊

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 727
感想 : 97
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040650647

感想・レビュー・書評

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  • 塩田武氏の最新作。アニメ、オタク、中国の脅威、技術の日本の生き残り方。そして、友情と、人生の勝負。
    中国の規制に翻弄される日本のアニメ業界。中国マネーに席巻されつつある中で、日本は中国の下請けになるという危機感。一方で、すごく世界が見えているなと思うのは、主人公は気が付いている。もう、日本だとか、中国だとか、国境で何かを差をつけるように、括る意味はほぼないということだ。中国にも、センスのある人が出てきているし、文化もファッションも文学も、そしてアニメでさえも、国策として開発していく中国人の能力と、人口。それには日本は、独自の生き方で戦うしかない。マーケットは一つ、グローバルであり、そこに挑むクリエーターを描いている。渡瀬智哉が仕掛けるSF小説アルカディアの翼のアニメ化。文月隼人は、フリーアニメーターとして仕事であり、人生であり、個人としての最適な解を求めていくが、大きな波紋を広げるアニメへの参画を決め人生が動いていく。アニメの描写は非常に難しい、ある意味でジャズのBlue Giantのような感じだろうか、スカイクロラの衝撃だろうか、ふとそいういうことを思い出す。それにしても、スタートゥインクルプリキュアが連続で出てきて、マクロス、ゾイド、ドラゴンボール、と懐かしすぎるアニメたち。少年たちが心から陶酔していたアニメワールドは、現実のVRやタブレット、スマホで大きく変革している。その中で、ノスタルジックに浸っていては絶滅を待つばかり、外へ、そして高みへ、ビジネスでも昭和から同じようなやり方が正と思っている人は絶滅する。決済はアファーム、ストライプ、漫画はサブスク、服はレンタル、お買い物はアマゾン、移動はUber。これがいいとか悪いとかではない、世界だから。

  • 劇中劇のような二重三重の入れ子構造のような物語で初めは混乱したがどんどん面白くなってきた.アニメ業界のきびしさや生活の大変さとともに,その楽しさなどが熱く伝わってきました.

  • カリスマ的な人気のあるSF小説「アルカディアの翼」。
    子供のときから熱狂的なファンだった渡瀬智哉はやがてアニメ制作プロデューサーとなり、満を持して熱愛するこの作品のアニメ化に挑む。

  • アニメや漫画は好きな方で、この本の帯にかかれていた「これが日本のアニメのリアル」という文言に惹かれて読みました。
    少し専門的な言葉や背景に戸惑い、読み進めるのに苦労しましたが、
    最期らへんの1番の盛り上がり話には、胸に込み上げるものがありました。

  • 「デルタの羊」
    アニメ界を題材にした作品。


    著者と言えば社会派小説。今回はアニメーション業界を舞台にした作品である。昨年は鬼滅の刃の劇場アニメ「劇場版『鬼滅の刃』 無限列車編」が公開から2か月あまりで興行収入が324億円を超え、日本映画史上興行収入1位となった。この大ヒットのきっかけの一つが、クオリティの高いアニメシリーズ。制作したのはufotableというアニメーションスタジオである。ufotableでの製作現場も、表に見えないだけでめちゃくちゃ大変に違いない。


    「デルタの羊」はufotableがいるアニメ業界の中身を描いている。もちろん小説なのでフィクションなのだが、描かれる問題(アニメ作りの現場を揺るがす配信サービスの台頭やチャイナリスク、やりがい搾取など)はフィクションではないだろう。


    物語の軸は「アルカディアの翼」である。ソフトメーカー東洋館に勤めるプロデューサーの渡瀬智哉は、中学1年の時に読んだファンタジー作品「アルカディアの翼」をいつかアニメ化したいと心に決め、3年かけて原作者を口説いてようやくアニメ化の許可を取り付けた。しかし、そこから製作現場を襲うチャイナショック、クリエイター離反、声優の不祥事。念願の夢に危機が訪れる。


    一方、警官上がりのアニメータ六月は、アニメ業界のある出来事をアニメ化する仕事を請け負う。アニメータは義理堅い。この人の作品ならば、この神アニメータと仕事が出来るならばやりたいと言うのがアニメータだ。その仕事はトータル・レポート。「アルカディアの翼」のアニメ化プロジェクトを題材にしたノンフィクションアニメだ。


    果たしてアニメータとしてこの仕事はやるべきなのか。仲間の為にやりたい気持ちとプロとしてやるべきではないと悩む六月。しかし、六月の職場にもチャイナショックが襲う。


    チャイナショックはどでかいのだが、やはりアニメ業界は大変だなと痛感する。背景を一つ書き上げるのに何時間もかける。一工程にはさらに細かい工程があり、それをぎりぎりの人材でやる。作画のデジタル化の話も出てくる。紙で書き上げ、かつ在宅であると作業進行管理者がアニメータの家を車で回り、原稿を回収しなくてはならないのだ。そこに人材不足が重なり、ストレスも溜まり、かつサラリーだって高いわけではない。そんな中ある事件が起きてしまう。根本的な改革が必要だろう。


    逆転要素と書いたが、これは見事な逆転劇。「アルカディアの翼」が繋いだ二人の縁が綺麗に着地。アニメファンはもちろん、著者ファンも必読な一冊。

  • 伝説の原作をアニメ化する為に東奔西走する渡瀬。だが様々なトラブルにより計画は頓挫し、彼は復讐戦を誓う。
    アニメの作画をになう「制作」よりもグランド整理をする縁の下の力持ち、「製作」に焦点を当てているところが今までのアニメ業界者と一線を画している。
    「制作」のこだわり、「製作」の葛藤。中国市場の不安定さや製作委員会の限界といった事柄が迫る中、それでも現場の人間たちはひりつくような現実の中で理想を形にしようともがき続ける、その尊さ。一筋縄ではいかないアニメ業界のリアル。
    「俺たちはあまりに善人だ。すぐに「好きなアニメが作れるだけでも」って考えてしまう羊だよ。もちろん、俺はそんなアニメ人が嫌いじゃない。でも、誰かが羊飼いにならなきゃ、日本のアニメは地盤沈下していく」
    ラストのどんでん返しも見事で、楽しめました。

  • 塩田武士は対話や人間関係を通じて人を描くのがとても上手だと思う。仕事に対する人の熱量を感じた。仕掛けも沢山あって一気読み。

  • 5章まで我慢…1章から4章までは5章でジャンプするための序章。アニメ業界の描写が詳しく書かれているので興味のない方は、きびしいかなとも思うけれど、有名な作品のセリフが各所に出てきてアニメファンとしてはニヤリとしてしまう。5章以降どんどん伏線を回収し見事な着地に拍手。NHKで実写化お願いします。

  • 2020.12.27

  • とても深い内容でした。
    アニメ業界のみならず、日本企業の未来を憂いました。
    日本の経済が落ち込んできて、一人当たりの所得も低下してきて、お金で足元を見られてる現状が悔しいですね。
    オールジャパンでアニメ制作が出来る環境作りが必要だと感じました。
    やはり、自国できちんとアニメ制作の給与体系を整える必要があり、可能な限りアニメーターや動画マンにお金を回す仕組みを作って欲しいです。
    やはり、お金と環境づくりをこれからの日本ですべきことだと思いました。

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著者プロフィール

1979年、兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2011年、『盤上のアルファ』でデビュー。2016年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞し、“「週刊文春」ミステリーベスト10 2016”国内部門第1位、2017年本屋大賞3位に輝く。2018年には俳優・大泉洋をあてがきした小説『騙し絵の牙』が話題となり、本屋大賞6位と2年連続本屋大賞ランクイン。2019年、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞受賞。2020年、21年には『罪の声』『騙し絵の牙』がそれぞれ映画化された。

「2022年 『朱色の化身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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