勇者、辞めます3 ~次の職場は魔王城~ (カドカワBOOKS)
- KADOKAWA (2018年10月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784040729268
作品紹介・あらすじ
遂に魔界へたどり着いた魔王一行。そこでレオが見たものは、水も土も重度に汚染され、滅びの間際にある魔界だった。
残された時間は後一年。しかも、同時にエキドナもある悩みを抱えていて、このままでは魔界崩壊の危機!?
こうなったら、どちらもまとめて救ってしまえ! 農作物の品種改良に、精霊を鎮めて水質改善! 魔界を現代知識で楽園に作り替えろ!
引退勇者の魔王城立て直しファンタジー、魔王&魔界救済の第三巻!
感想・レビュー・書評
-
元勇者、魔王軍で活躍する。
魔素で汚染された魔界の原因は水だった?ということで今回は魔界にて元勇者レオが魔界を良くするために奮闘しています。
前巻は四天王が、今巻は魔王エキドナが目立つ作品となります。レオくんは良い仲間を持ちましたね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
湖はとこしえに、湖の騎士もとわに。勇者もここに、魔王のそばに。
激闘を繰り広げた人間界と別れを告げて、元勇者レオを伴っての堂々の凱旋と相成った魔王エキドナ。
けれども今回は一人の王としての威風を取り払い、ひとり理想を追い求め周囲を巻き込んでいく少女としてのエキドナに注目した『ゆうやめ』第三巻となります。
戦乱に明け暮れたツケが回りに回ってきた、故郷魔界、改めて平和を望もうにも修羅の大地に住まう者たちの民意が読めない中、古今東西為政者の第一の仕事は民を食わせること。
今度の舞台は軍のみならず、食糧問題、それを育む大地、突き詰めていけば水源の汚濁問題へとレオたちは切り込むことになります。
水の水の奥底、そうして命育むはずの水底には五百年前に時を止められてしまい、淀んでいった乙女たちの友情がありました。
さぁ、水の檻に目を背けるはここまでだ!
ヴァルゴに続き二番目に再会するきょうだいは【DH-12】アクエリアス。
レオの知るかつての面影そのままに、氷雪を舞わせる神秘性を纏い、窮地にあって不敵に笑む「男装の麗人」。
ついでに言えば、彼女の主成分は「英国紳士」。
茶目っ気溢れる言動と仰々しい身振りが嫌味にならずとも、絶妙に含みを感じさせる、実に真っ当な曲者です。
水を司る精霊であり自然の一側面「ウンディーネ」。
その断片と友誼を結んだアクエリアスですが、奸計にはめられて、友を封じる羽目になり、自身も動けずに五百年という時を無為に過ごすことと相成りました。
そして、機が巡ってきたのが奇しくも魔界の滅亡が数えられるほど目前に迫ってきた今だからというのだから、なかなかに運命というものも乙な真似をしてくれます。
けれど、それが父から娘へ、先代から当代の魔王エキドナに受け継がれた願いと、地盤あってのものと考えると運命という陳腐ワードで片づけるのは野暮ですね。
そんなわけで三巻はウンディーネとアクエリアス、エキドナとレオの関係に、双方の親族が関わってくるというストーリーラインとなっています。
この巻で初登場、実質二人二役を演じたエキドナの妹「イリス」も一粒で二度美味しい役回りで、実に面白かったですね。
あと、ヴァルゴも相変わらずの存在感を示しつつ、一定の枷をはめられつつ本領発揮の機会も与えてもらえたりしていたので、ニ巻の悲壮感を引きずり過ぎるようなことにならなくてよかったです。
白眉となる戦闘シーンは、今回も王道の大団円を演出してくれました。話の前提は読めなくても、最後はこう着地してくれるのだという信頼感ですね。
万全な迎撃態勢を整え、話の前提もクリアし、正直、全く負ける気がしなかったので緊張感はゆるかったんですが、ちゃんと見せ場を作りつつ別種の危機も作ってくれたので、緩み過ぎることなく最後は〆てくれました。
魔法の詠唱がカッコよすぎるんですよ、正直。
時に、先程は今に至る流れを陳腐と言いましたが、ここはもっと陳腐な言葉でラストへ続く流れを片づけることとしましょう。
魔王の側にいたい勇者、愛の告白よりももっと深い男女の縁、永遠を文字通り誓ってしまった! です。
いやー、為政者として大を取るか小を取るかって問いかけへの答えもさながら彼女らしく、レオもレオでらしかったんですが、悩み迷い、エピローグでこの言葉に至ったことに対して脱帽せざるを得ません。
一人でなんでもできる勇者の対比で、合縁奇縁を引き寄せ、一人だった勇者をも取り込んだ魔王って意味で改めて一巻を読み返してみると、表紙で二人が並び立つ構図が本当に様になっていて、何より美しくて素晴らしいのですよ。
ヒロインという言葉もヒーローの相方という言葉に留まらず、女主人公としての意味合いも強めている昨今ですが、両方の意味を取ってやろうというパワーをエキドナから感じます。
今回の物語を牽引したエキドナの理想は、レオが担保してくれるでしょう。
今回は「氷」から「水」へ、停滞からの打破が実に軽やかな展開であったと感じます。
もちろん劇的な展開ばかりでなく、一旦立ち止まっての地歩固めも効いてきたので、一巻二巻の章立てを踏まえつつ、三巻目でスローテンポからの切り返しも冴えていてまた少し違った読後感かもしれませんが、私は好きです。
ところで、この手の経営・内政パートの楽しさといえば収穫量が増えるとか税収が増えるとか、そういう目に見える数字が増えていく喜びだけとは限りませんね。
もっといえば、世界が豊かになっていく。
メイン格のみならず、サブ、モブ格にまで関係者が増えいき、世界が、歴史が広がりを見せる。
未だ書かれていない白紙の物語を開拓していくようで、本当に面白い。
「勇者」と「魔王」、「四天王」といった最小単位からはじまった物語がどこまで広がりを見せるか、今後も楽しみに待たせていただきます。