ウソつきの構造 法と道徳のあいだ (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040822792

作品紹介・あらすじ

これほどのウソがまかり通っているのに、なぜわれわれは子どもに「ウソをついてはいけない」と教え続けるのか。この矛盾こそ、哲学者が引き受けるべき問題なのだ。哲学者の使命としてこの問題に取り組む。

感想・レビュー・書評

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  • 自分としては嘘をつくことと、人間が理性的であることは別に矛盾していないように思うが。
    立派な嘘話を作れるのも人間が理性的であるからこその話なのでは。
    もし自分がカントが言ったように、敵に対して本当のことを言ったら、心が痛むだろう。「違う、私はこんな人間じゃない、こういうことをしたくない」と私がきっとそう思う。多くの人もそうなのではないか。
    なので敵に対して嘘をつく方が合理的で自分の一貫性も保てるように思う。

    その人が後悔しない、後ろめたさを感じないやり方でやれば、その人は「うそつき」じゃないということと思うけれど…浅い考え方かな…

    ーーー
    カントについての解説がよかったと思う。

    「外形的ウソをつくことに厳しい制裁が科せられていればいるほど、そして市民がそれに従順であればあるほど、人間の欲望はほとんど限りがないので、それを充たすには、膨大な内面的ウソをつかざるをえなくなるのである。  このダイナミズムをカントは見抜き、「文化の悪徳(das Laster der Kultur)」と呼んだ。」
    「「もし~~ならば~~である」という細かい計算に基づいてみずからに命じることを、カントは「仮言命法(hypothetischer Imperativ)」と呼ぶ。これに対して、後者の道徳的行為は一切のソン・トクを考えずに、ただ真実を語るべきだという動機のもとに真実を語ることであり、これは「十歳の男児」でもわかるほど簡単である。カントはこれを「定言命法(kategorischer Imperativ)」と呼び」
    「すべての人間が「幸福への真実性の優位」という原理を実現できないとしても、依然としてこの原理が正しいことは、人間が理性的である限り否定されることはないのだ。よって、この原理は依然として人間にとっての原理なのであるが、すべての人間はこの原理を転倒して「根本悪」に陥るのである。そして、人間が不可避的に根本悪に陥るのは、あらゆる人間が、生まれつき「悪への性癖(Hang)」を有しているからである。」

    ーーー
    本書の中で、「あれ 中島さんめっちゃいい人じゃない?( ・`o・´;;)」と思わせるところが多かった。
    例えば、
    「カラマーゾフの兄弟」の話のあたり:
    「現代日本における幼児虐待についても、イワンとまったく同じように叫ぶことができよう。その固有の虐待によって死んだ少女の苦しみに対しては、いかなる償いもできないし償いをしたつもりになってもならない、ということを喉の嗄れるまで言い続けなければならない。」

    後は、もし自分の子供がいじめられて死なれた場合、自分が加害者に同じような苦しみを味わわせたいとか…

  • 東2法経図・6F開架:158A/N34u//K

  • 世間というか、報道された「社会」のうち、法的に処理される問題や形式的な対応に見られるウソについて考察した本。刑事事件や契約などの問題の処理において、言った/言わない、謝ったなどの対応が関係者(や野次馬)の感情を逆なでしたり、心情的な処理には全く役に立たないことを、著者が当事者となった朝日カルチャー事件をも引き合いに出して述べている。
    法的責任は有限にとどめなければ社会が成り立たない。したがって仇討ちしたい感情を汲み取って誰かが制裁に手を貸す必要はないし、国や組織が加担するのはもっての外である。権力が疑わしきを罰しないのも当然の道理だ。そういう考えからすると著者の言い分は独りよがりに思える。
    著者が言いたかったのは、法的措置の運用上の穴、トリガーの重さを利用して真実を知る者を封殺し平気な顔で過ごす人たちが許せないということだろう。
    この著者にしては珍しく迂遠で、哲学を離れた本だと感じた。

  • 中島節バリバリの箇所もあれば、著者の法学への見識を組み合わせて、内面的な真実・道徳性を分離させて論じている。卑近な話題が多く登場するが、それへの憤りと同時に、つきない自分への問いも続いていく。「許されるウソを許していないか?」と。

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著者プロフィール

中島 義道(なかじま・よしみち):1946年福岡県生まれ。東京大学法学部卒。同大学院人文科学研究科修士課程修了。ウィーン大学基礎総合学部修了(哲学博士)。電気通信大学教授を経て、現在は哲学塾主宰。著書に『不在の哲学』(ちくま学芸文庫)、『反〈絆〉論』(ちくま新書)、『私の嫌いな10の言葉』『私の嫌いな10の人びと』(以上、新潮文庫)、『生き生きとした過去――大森荘蔵の時間論、その批判的解読』(河出書房新社)などがある。


「2024年 『時間と死 不在と無のあいだで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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