海上護衛戦 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041015988

作品紹介・あらすじ

海軍で海上護衛総司令部参謀をつとめ、シーレーン(海上交通線)確保の最前線に立っていた著者がその戦略を綴った護衛戦の貴重な体験記。現代日本の防衛を考える上でも欠くことのできない記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 書店在庫なくA経由購入。「決戦」「決戦」の連合艦隊。「総力戦」と上段に構えるまでもなく、国家同士がぶつかり合うことを想像する能力において劣っていたということか。先方だって決して最初から戦争の構図を理解していたわけではないだろうし、失敗だってあったはず。貧すれば鈍する。知れば知るほど、「頑張ったけど…」「陰謀が…」「ああすれば…」というレベルではなかったことが。自虐とか言ってないで、冷静に見つめてみたら。

  • 大井さんの恨み節だらけ

  • kindle版が108円だったので、つい買ってしまったもの。
    太平洋戦争で艦隊決戦主義であった日本が、商船の護衛などをないがしろにして輸入に頼らざるをえない石油、鉄などがどんどん不足していくさまが描かれています。

    スマホで読み上げさせて聴きましたが、うわ〜、うわ〜と心のなかで叫びながら聴きました(^_^;)

    今の社会にも通じるものがあり、お薦めです。

  • 海上交通路の保護という観点から見た太平洋戦争。
    海軍に海上護衛総司令部というのがあったということも初耳だったので、興味深く読めた。
    (特に島国にとっての)総力戦における海上交通路の防護の重要性への無理解が、いかに国家の滅亡に繋がっていったかということが、海上護衛総司令部の参謀の目線から語られる。
    明治期は人口も少なく、国内自給も比較的容易であったが、昭和にかけて人口増加や産業発展により海上交通路の保護の重要性が高まってきたにもかかわらず、海軍は、艦隊決戦思想から脱却することができなかった。そういう意味では、シーレーン防衛というのを掲げてきた海自は、明治以来の日本の海上軍事組織の歴史の中でようやく誕生した、日本の海軍の本来あるべき姿なのかもしれない。
    この本を読んで海上護衛戦における敗北が何をもたらすかということがわかると、本質的にはあの辺りのシーレーンのイニシアチブをどちらが握るかという争いでもある南シナ海をめぐる米中の対立の背景の理解にも資する。
    同時に現在進行形の中国による南シナ海における軍事的支配の拡大強化が我が国の安全保障にいかに深刻な問題であるかもわかってくるだろう。

  • ローマ帝国一千年の礎は諺にもある通り「全ての道はローマに通ず」である。即ち平時においても戦時においても兵站・輸送は国体の護持に欠かさざるものであることを歴史において証明している。著者は、日本という海洋国家がいかに海上輸送を確かにしなければ開戦な能わずを主張していた。当時の日本の才ある人々が帝国海軍の中にあり、様々なデータを元に日本が戦うべきか戦うとしたらどのように戦うべきかを論じていた。後世から観ると軍の暴走やメンツばかりで論理的な勝算があったかわからない先の大戦であるが、開戦の是非は別にしても少なくとも数字的な根拠はあったことが本書によりわかる。おそらくこの数字的なベースが山本五十六をして短期決戦を条件に開戦に踏み切らせたが、その数字的な根拠もかなり条件が規定されていて、緒戦の好結果で浮足だち足元を忘れた帝国陸海軍のますますの専横、特に連合艦隊本部の決戦志向が海上護衛による輸送の確実化を阻み、輸送路の遮断による後方の国体の維持を不可能にしていったことが本書によりこくめに描かれる。この南方輸送の遮断は、原料不足による工業力衰退、そして支援物資の欠乏を出来させて敗戦への一本道へ誘ったのである。対する米国は、日本という国家を知悉しており、海上輸送こそが国家の生命線であり、これを破壊することこそが勝利への道であることを開戦より心得ており、これを徹底した。その本気度は米国潜水艦による補給線の遮断に投入された潜水艦数からも明白であり、しかも投入された潜水艦隊がドイツが得意としたウルフパック戦法を習熟していたとなれば質・量ともに日本を圧倒していたということになる。一方、護る日本の方は海上護衛というには護衛艦艇の割り振りや対潜水艦戦の習熟度と全てに後手を踏んでおり、ほぼ丸裸に近い状態でこれでは輸送していたのが実態であり、これでは先細るのも必定であった。
    本書を戦記として読むのもいいが需要と供給の供給側の戦略として読むと啓示に富む。売り上げが亢進すると生産量が上がり、既存生産力や原材料供給では足りなくなり、その確保がないと早晩売り上げが落ちていくという経営工学にも相通ずるところがあり、大戦という国家を上げた一大プロジェクトにおいてもその原理原則は変わらないという証左である。勿論、戦争というプロジェクトはやらないという選択肢を選べなかったことが最大の間違いであったわけであることは揺るがないのであるが。

  • こちらを読了。

    大変に読み応えがあるとともに、非常に興味深く読みました。
    このような名著があることをこれまで知らずにいました。

    先の戦争(太平洋戦争/大東亜戦争)の開戦の直接のきっかけについて、私たちは学校の教科書においても「ABCD包囲網による経済封鎖により資源の確保が死活問題となったため南方資源(ボーキサイトや鉄鉱石等も含むがなかんずく何よりも「石油」)の確保が必要となり、開戦の已むなきに至った」と教わりました。

    であれば、当時の日本の戦略上の最優先事項は何か?と言えば当然ながら

    『南方における資源開発とその「輸送ルートの確保」』

    であることに異論は無い「はず」でしょう。

    満州等からの資源輸送においては船舶による輸送だけではなく、鉄道を中心とした陸路による輸送も可能です。
    しかし、南洋から資源(石油)を持ってくるには「海上」ルートしかあり得ない。

    なのに、当時の海軍における戦略上の優先は、その組織を見てもまた今から歴史を振り返ってみても「艦隊決戦」であり、「海上護衛」は二の次だったことは明らか。戦況が進むにつれ海上護衛の重要性にさすがに気づいた感はあるものの時既に遅し、かつ対応も(この期に及んで)中途半端…

    結果、資源を輸送するためのタンカーを始めとした船舶は米軍潜水艦や航空機に次々と沈められ、戦争を続けるに必要な量の資源は日本に届かず…これでは長期戦を戦えるはずがありません。

    読んでいてもどかしいことこの上ないのですが、日本人として、「日本人による組織にまま起こりがち」なこととして笑い事でも他人事でもなく、重く受け止めざるを得ませんでした。

    本書は、その海軍内の対応と戦況の推移を当時の海上護衛担当の参謀がまさに内から描いたもの。
    ネット上で同書の書評を見ますと、本書を「補給」に関する戦史と表現しているものを見かけます。通常は戦争における「補給」というと「兵站」のことを指すかと思いますが、本書で言う「海上護衛」とははもっと広く「日本全体の補給」をどう守るか?という問題の話。

    先の大戦における日本軍の組織的失敗を考察したものとしては『失敗の本質』を始めとした名著がありますが、本書はもう1つの「失敗の本質」を描いたものであり、もしかするとより根源的な「失敗の本質」が描かれているのではないかと個人的には思います。

    日本人による組織が犯しがちな根本的な問題…について多少なりとも関心のある向きには「必読」の書と思われます。

  • 戦争は前線の軍人だけでするものに非ず…
    日本は甘い認識やら戦略ミスも重なり後半に行けば行くほど悲惨になっていってもうさっさと降伏しちゃえよ状態だし、アメリカは民間人まで空襲してくるし、どっちも最低だねほんと。
    戦争犠牲者は軍籍の人ばかりでなく、商船やら移動船に乗っていた人も数多いらっしゃるんだよね…
    しかも海に沈むと骨も残らない。
    酷い戦いをしたものです…

  • 日本海軍にとってはむしろ大艦隊を持つことよりもその分の油を使って飛行機や潜水艦を動かしたほうが効率的だったという悲しさ

  • 復刊ありがたし。

  • 資源(石油)獲得の為に、始まった戦争であるにも関わらず、決戦重視で資源輸送への意識の低さの実態がよくわかる本。
    戦争当初から、海上護衛やロジスティクスに対する意識が高かったとすると、どういうような戦争過程になっていたかという想像にかられる。
    潜水艦による商船・タンカーへの攻撃が、日本のロジスティクスを破壊していったことがわかるが、当初から護衛&護衛戦略をつけていたら、潜水艦からの被害がどこまで減らせたか興味がさらにわきました。

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著者プロフィール

大井篤
一九〇二年(明治三五)山形県鶴岡市生まれ。二三年(大正一二)、海軍兵学校(五一期)卒業。三〇年(昭和五)から三二年まで米国バージニア大学、ノースウェスタン大学に学ぶ。上海事変勃発とともに駐米大使館海軍武官室勤務となる。その後、中国沿岸警備艦隊参謀、華南沿岸封鎖艦隊参謀などを経て四三年から終戦まで海上護衛総司令部参謀を務める。海軍大佐。終戦後は、戦史研究家、軍事および国際政治評論家として活躍。九四年(平成六)没。主著に『海上護衛戦』、『大井篤海軍大尉アメリカ留学記 保科さんと私』(解説・阿川尚之)など。

「2022年 『統帥乱れて 北部仏印進駐事件の回想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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