- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041020494
感想・レビュー・書評
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明暦の大火により、尾張義直公や儒家林羅山が編纂しつつあった貴重な歴史資料が焼失。また、光國の身近な者(妻泰姫、朋友読耕斎、厳父頼房、母久子)に相次ぐ死が訪れる。そして小心の綱吉が将軍を襲名した後は幕府政治が乱れ、豪快な光國へ庶民の人気が集まる分だけ光國と綱吉の間が緊張するなど、下巻では終始重苦しく不穏な空気が漂う。
そんな中、光國は尾張直義公の遺志を継いだ史書の編纂事業への着手、水戸藩主への就任を期とした兄頼重との子の交換(己の義の貫徹)、朱舜水の教え(治道の要諦)に従った藩政改革、そして全国各地への史料探訪隊の派遣と、縦横無尽に活躍していく。
本書では、虚実織り混ぜたエンタテインメント系の歴史小説を堪能することができた。なお、上巻の無鉄砲で躍動感ある光國の方が、老成した下巻の光國より楽しめた。なので下巻は星4つ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この作品の大きな主題には、大義と、人の死生観というものが見受けられる。新たに出てきた登場人物たちに対し、読む側としても、徐々に感情を移入していくうちに、次々と世の中を去っていくことに、戸惑いと、寂寞感を打ち付けられる。そのことはこの時代においては、今よりも死が身近で現実的なものであるとともに、生き物、特に人が死ぬという当たり前のことを忘れている現代人に対しての「少しの」警鐘を鳴らしつつ、作品全体としての深みを持たせてくれる。
そしてその死という絶対的ものは、人によってもたらされるべきものなのか?その死はそうなれば絶対的なものでなくなるのではないかという些かの矛盾を孕みつつ、人による死ならば、その理由を大義に求めなければならないのか、大義と大義の対立なら死という回答しか見出せなかったのかと、泰平の世を築く上での「生」を抉り出している。
そして最終的に本来の絶対的な死に、主人公の光圀自身が至ることで幾分かの拭えない晦冥さがあるも、史書を通して続いていくであろう人の世、人の生に対しての一筋の光明を見せつつ作品を結んでいることに、絶妙な読後感がある。 -
(上下巻合わせてのレビューです。)
テレビドラマ「水戸黄門」で有名な水戸光圀の伝記小説。
伝記と言っても、史実を元に著者が空想を加えたフィクションです。
著者は、冲方丁で、「天地明察」について、読むのは2冊目になります。
前回の「天地明察」を読んだのがはるか昔(数年前)だったのですが、
あのころの記憶がよみがえってくるような本でした。
「天地明察」の主人公同様、光圀が大きな「志」を抱いていく様に
どんどん引き込まれていきます。」
上巻最初の100ページほどは本当につまらなくて、
「あれ、今回は(本選びに)失敗したのかな?」と思っていたのですが、
いやはや全くの誤解でした。
フィクションと言っても著者はとても
史実の元ネタとなっている原著をよく読みこんでいる様子が分かります。
もともとあるファクトに著者オリジナルの空想を振りかけ、
大作を紡ぎ出しているのでしょう。
著者のボキャブラリーの豊富さに圧倒され、
よく理解できない単語や漢字の読み方、和歌などたくさん出てきますが、
それでも大きな「志」に向かっていく光圀を見ると、
彼の生きざまを最後まで見届けたいという気持ちになってきます。
自分の「志」とは何か?と考えさせられる小説です。 -
下巻では水戸光圀が魅力的なキャラクターのまま、年を重ねていって藩の、幕府の重鎮となってゆく様子が描かれる。物語の一番最初から、光圀が誰か重要な人物を殺害することがこの物語の重要な場面であることが描かれているが、後半に向けてその真相も明らかになってゆく。最後の最後はやや物語の展開を急ぎすぎているようにも思われたが、そこをあまりくどくどを描いても退屈したのかもしれない。最後まで面白い物語だった。
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面白い。夢中で読み続けて、突然涙したりともう忙しいくらいに心を動かされ続ける下巻でした。
水戸黄門ってこんな人だったのか。
と。初めて知ったばりの内容。めっちゃ強いんじゃん!しかもイケメンだったの!?っていう。なんかもう旅好きの爺さんのイメージしかわからなかったし、なんかきっと位の高そうな人。みたいな感じだったけど、こんなつながりがあったなんて!!!
そして、前回読んだ冲方丁の算哲まで出てきて、そういえば!光圀に会いに行ってた!!!!と、思い出して、前回は算哲側から見た光圀、今回は光圀側から見た算哲を読み、さらに面白さ倍増。
同じ時代にこんなにすごいことを成し遂げた人がいたことがすごいなぁ。と感じながら、今もこんな人がどこかで活躍してるかもしれないなぁ。と、ふと思う。
面白い。男らしい。素敵。
光圀。素敵です。
勉学に励みに励む姿は見習いたくおもいまする。 -
これまで歴史小説は戦国・幕末専門だったが、この小説は合戦がなくても抜群におもしろかった。
特にバラエティに富んだ登場人物たちが素晴らしい。
水戸徳川家・徳川御三家・将軍家・朝廷・儒学者・歌人など。 光圀は政治の舞台でも、学問・文化の振興でも多くの者と関わるがみな個性豊かで魅力的な人物ばかり。
読み終わった人はお気に入りのキャラが1人・2人はいたはず。(自分の場合は林読耕斎と「宰相」保科正之)
「この小説を原作に大河ドラマを」とついつい考えてしまうようなスケールの大きい快作。 -
TVの水戸黄門は作り物だとは知っていたが、実在の徳川光圀が、こんなにも努力家であり、勉強家で文学にすぐれていたとは。異文化も真っ先に取り入れ、変化を楽しむことができる藩主。
光圀のテーマである”義”を貫く様が、最初はまどろっこしく感じるが、その生き様が痛快で格好いい。
友や嫁との出会いはちょっと変で、別れのシーンは静かで残酷で。
最後まで飽きさせない痛快な小説。 -
徳川幕府体制で御三家と称された将軍家の一つ、水戸藩藩主、水戸光圀の一生を辿った物語です。テレビドラマで知っているキャラクター水戸の黄門様は悪人を懲らしめる正義の人ですが、この小説を貫くテーマも大義でした。
出自を問うあまりの父との確執、兄への敬慕、有り余るエネルギーを注いだ詩歌の道。三男に生まれながら世子とされた立場に半ば自暴自棄になりかけながらも自らの生き方を模索する青年時代。出会いは最悪でありながらも心から理解し合える友に恵まれます。さらに老兵法者、宮本武蔵との出会いなど様々な人々との交流により光圀は詩で天下を取ることを決意していきます。正妻をめとるまいと決めていた光圀の縁談の相手は、朝廷と縁の濃い近衛家の姫でした。教養も申し分なく人柄もすぐれていた泰姫は、光圀にとってやがてなくてはならない存在になっていきます。しかし、その妻は子を成さぬまま若くして病で逝き、親友や師と仰いだ人とも相次いで病魔に引き離されてしまうのでした。
この時代の人としては長寿と云える73歳の生涯を生き抜き、義を貫いた分、光圀は血縁関係を問わず、数々の人物を見送ることになります。その意味では出会いと別れを繰り返す起伏に富んだ一生でした。その中には自分が才能を見抜き少年の頃から育てた者も含まれていました。。結末につながる冒頭の場面は、非情とも思えるのですが、この時代の武士としての揺るぎない信念に基づくものなのでしょう。 -
一昼夜で上下二冊、読み切ってしまった。
権力に近い立場であればあるほど、権謀術数に巻き込まれ、読んでいてつらくなるのではないかと思ったけれど、何か妙にさわやかな読後感だった。
「天地明察」を読んだときと同じような感覚。
(主人公のキャラクターは恐ろしく違うのに…)
若いころ仰ぎ見た人たちや、切磋琢磨した仲間たちをどんどん見送って、悲しみに耐えながらこの世でやれることを全うするという生き方は、「天地明察」の安井算哲と同じに見えてくる。