くらやみ坂の料理番 包丁人侍事件帖 (6) (角川文庫)
- KADOKAWA/角川書店 (2016年2月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041024256
作品紹介・あらすじ
江戸城の料理人、鮎川惣介は、持ち前の嗅覚で数々の難事件を解決してきた。ある日、将軍家斉から西の丸で起きているいじめの詳細を知りたいと異動を言い渡される。事件の全容を詳らかにすべく奔走したのだが――。
感想・レビュー・書評
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江戸城の台所人で嗅覚に優れた鮎川惣介と大奥添番・片桐隼人の幼なじみコンビシリーズ第六作。
ついに隼人の妻・八重が無事に出産。しかも男女の双子でめでたさも二倍…と思いきや、この時代は双子は忌み嫌われていたために隼人の母・伊知代が八重に心ない言葉をかけたことをきっかけにまたもやバトルが勃発。堪えかねた隼人はなんと男児をお寺に捨てに行くという暴挙に出る(後に考えあってのことと分かるが)。惣介は隼人に内緒で雪之丞に男児を預かってもらうよう計らったのだが、その雪之丞が何者かに襲われ男児が拐われてしまう。
時を同じくして惣介は突然西の丸御膳所(家斉の嫡男・家慶の食事を作る場所)へ異動させられる。そこでは陰湿ないじめが横行していて自殺者まででたことで、将軍・家斉から調査を依頼されたのだった。
このシリーズの主役二人、惣介も隼人も器用な人物では決してないし人間としても出来ているとは言い難い。
隼人は嫁・姑戦争を諌める術を知らず放っておくのみだし生まれた双子が戦争の道具になれば片方を捨てるという暴挙に出る。
惣介は食欲を我慢する積もりも武士らしく体を鍛える積もりもなくすくすく育った腹を更に育てるつもりらしいし、妻の志織に不用意な一言を言っては怒らせる。
しかしどちらも正直だし一定の義や道徳心を以て行動しているので好意的に見られる。
今回のテーマである職場のいじめシーンについてはただ気分が悪かった。相手が憎くて嫌がらせをするとかライバルを蹴落とすために嫌がらせをするなどの明確な動機があるなら分かるが、単なる愉快犯的な嫌がらせというのは不気味で恐怖でしかない。
家斉に頼まれたからには何とか事態を収拾しようと、曲亭馬琴に知恵を借りてまで惣介と隼人は奔走するが、その結末はまたもや苦いものだった。
個人的には溜飲が下がる部分もあるが命が失われているのだから手放しでは喜べない。それでも惣介が西の丸の若い台所人たちに料理人としての自覚を促せたのは良かっただろうか。
終盤、まだ十五歳の娘・鈴菜に縁談話が持ち上がる。しかしこれもまた西の丸事件の余韻だった。相手があまりに家格の高い旗本だけに断るのも難しいが、鈴菜は自ら断りに行くという破天荒振りを発揮。
だがこれまた思わぬ展開で惣介は戸惑う。さらには隼人の親バカが炸裂。隼人の口から赤ちゃん言葉が出て来るとは。男児を捨てようとするかと思えば一生手元に置くと言い、振り幅の激しさに笑える。
久しぶりの大鷹源吾登場だったが相変わらずの如才なさと怖さ。その奥にいる水野和泉守の狙いも目が離せない。
この源吾と鈴菜が最終話で…というのがこの時点では全く想像できなかった。人と人との縁は面白い。
鈴菜の縁談相手、近森銀治郎も魅力的な人物。今後も出て来るだろうか。
ままならぬことの一方で思わずほっこりすることもあるのがこのシリーズの面白さ。次はどんな事件が待っているのか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸城の料理人、ぽっちゃり癒し系・鮎川惣介(あゆかわ そうすけ)と、幼馴染で大奥の警護係を務める片桐隼人(かたぎり はやと)のシリーズ、第6弾。
惣介は、家斉からまたも、内密の調査を命じられる。
職場でのいじめ・・・自殺・・・
現実でも、学校のいじめで先生も一緒に葬式ごっことか、あったなあ・・・
隼人の見ている大奥でのドロドロは、江戸城内での特殊感があるが、今回の西の丸御膳所のケースは、現代に通じるものがあって、とてもリアルに感じられる。
そして、惣介たちに家庭内の悩みもあり。
隼人の妻・八重がやっと子宝に恵まれ、無事に赤子を産み落としたが、双子だったために悶着になる。
この姑の要らん発言と言ったら・・・
もう、本当に隼人に同情する。
けど、その後の行動はどうよ?
意外とアホでしたな。
雪之丞は意外に漢でしたが・・・こちらも、このやり方は良かったのかどうか。
でも、あの時はそうするしかなかったのかな・・・
そしてなんと、惣介の娘・鈴菜(すずな)に縁談が持ち上がる!
第一話 雪之丞ご難
第二話 惣介の鼻
第三話 鈴菜の縁談
第二話までで西の丸御膳所の騒動は一旦収まったものの、第三話では、今後の新たな騒動に発展しそうな煙がぶすぶすとくすぶってきた。
上に立つものは、諦めてはならない。そうですね。