虹色の童話 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041026335

作品紹介・あらすじ

民生委員の千加子は、「レインボーハイツ」をたびたび訪れる。その名が虚しく響く、くすんだ灰色のマンション。そこに住む、なかば育児放棄された5歳児・瑠衣を世話するためだ。他の住人たちも生活に倦み疲れ、暗い陰をまとっていたが、やがて必然のように不幸が打ち続く。その裏にちらつく小さな影は一体……日常にじわりと滲み出す闇を生々しく描く、長編ホラーミステリー。解説:千街晶之

感想・レビュー・書評

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  • 主人公はボランティアで民生委員をしている女性。
    彼女が民生委員として定期的に訪問しているのはレインボーハイツという寂れたマンション。
    3階建のそのマンションには5世帯しか入っておらず、それぞれが問題を抱えている。
    1階には保育園に通ってない祖父と二人暮らしの5歳の男の子がおり、他にも赤ん坊が別れた夫とその家族に取られると怯えている女性、夫のDVに悩む主婦、妻の不倫を疑う失業中の男性、義理の娘との関係に悩む主婦が入居している。
    やがて、それらの問題が表層化した時に事件が起きるー。

    ページ数が少なく薄い本なのですぐに読める。
    内容も中々面白かった。

  • ホラーサスペンス面白かった。朽ちていくだけのマンションに住んでいる5軒の家族とそこを担当している民生委員の千加子。だれもがそれぞれ生活に疲れ不幸と不穏をまとっていて、必然のように事件が続きだす。不幸な事件の連鎖の影にあるものが浮かび上がっていく。心の中で密かに倦んだ「狂気」の背中を押すものは、誰かの声なのか、自分の心の声なのか。最後の最後までしっかりまとめらてとても面白かった~。

  • 2022.07.29.読了
    230ページ、厚さ1センチに満たない文庫本。中編。
    グリム童話と地方都市のレインボーハイツをめぐるおはなし。
    さすが宇佐美まこと。
    サラッと読めちゃうけど、しっかりホラー。

  • レインボーハイツ、虹色からはほど遠い灰色のひび割れだらけの空室が目立つマンション。

    一枚のドアを閉めれば、その中で何がおこなわれているかなんて誰もわからない。

    天職だと思っていた千加子は、住人と環境に振り回されるのだが…
    鬱屈した気持ちは、誰かにトンっと背中を押されただけで、堕ちていくのかもしれない。
    心の育て方って大事。
    突発的な悪意ではなく、日々少しずつ、でも確実、着実に根づいた悪が息をしたときに発生する物語。
    じわじわ来る恐怖。 人間の心に棲む悪意。

    赤ちゃんの存在は、思っていた通り。
    164ページの4の表現がよい。


  • 読みやすいホラー。
    千加子は仕事熱心な民生委員。
    度々〈レインボーハイツ〉を訪れては
    親身になって相談に乗っていたが…。

    102号室/アルコール依存症気味の祖父と5歳の孫。
    201号室/夫・普二からDVを受けていてた妻。
    203号室/リストラされ妻に養われている夫。
    303号室/子供を外に連れ出さそうとしない母親。
    304号室反抗的な娘との関係に悩んでいた継母。

    〈レインボーハイツ〉で次々と起こる殺人事件。
    心の隙間に‶魔〟が!!

    「あの土地はね――」

    住んでる場所も大事だよね、
    千加子さんも幸せな人ではなかったんだなぁ……

  • この直前に読んだのが『むかしむかしあるところに、死体がありました。』でした。意識して選んだわけではなかったけれど、昔話からグリム童話へ。

    呪われたかのようなアパートの名前はレインボーハイツ。濁点が外れた「レインホー」の看板を想像して少し笑ったものの、おぞましさは昔話の倍以上。入居者の間で次々と起こる惨殺事件のトリガーになっているとおぼしき5歳児。

    救いようのない話をそれほど怖いと思ったつもりはなかったのに、昨晩その男の子が夢の中に出てきてうなされました。自分の叫び声に驚いて起きる始末。それぐらい不気味(泣)。

  • 世の中から突き離されたかのように手入れされていない家屋を目にすることがある。誰がどう住んでいるんだろう。空き家寸前の魂を抜かれたような、生きる気力を失った廃屋のような賃貸マンションが舞台。住人達それぞれの不幸、憎悪、失望がそこに形を成し存在する。惨めさを認めたくなくて、なのに前にも後ろにも動けなくなっている人々の描写に心を掴まれる。DVの夫婦、虐待が疑われる母親、失業中の夫等の何処かに私も重なる。結末の狂気に圧倒されるが、筋や仕掛けのみならず、宇佐美さんの描く醜く弱い人間がたまらない。

  • 相変わらず、宇佐美氏は誰にでもある闇の部分を、
    キチンと分かりやすく巧く描かれる。
    魔に取り憑かれる弱い箇所を、どんな風に味付けをしても、
    リアリティがあり、自分の深淵を覗かれている気持ちになる。
    グリム童話を絡ませて、
    物語の謎解きとしてホラー仕立てにされているが、
    グリム童話はそのもの次第、
    人の噂や実際に起こった殺人を土台にしているから、
    常に人の世は悪意ある口伝えや魔に取り憑かれてしまうという、
    この本も現代のグリム童話でもある。
    不穏な闇に取り込まれないように気をつけて。

  • 「愚者の毒」と同じ作者だったので。

    さらに作者のやり口(?)になじんできたので、
    腰を抜かすほどの驚きはなかったし、
    童話になぞらえた展開は目新しい物でもないが、
    静かに楽しめた。

    でも、さすがにオオカミはねー。

  • 『愚者の毒』『入らずの森』の作者ということで自然に高まる期待と七色の題名とは裏腹に、心荒ぶ家族関係の毒気に当てられて全体を覆う灰色の閉塞感に息苦しくなっていく。
    千加子さん…怖いよ。瑠衣くんには、大家が言いかけていた「あの土地はね」の続きも影響を及ぼしていたのかな。各家庭燻る火種はあったにせよ、やはり人が住んじゃいけない土地ってあるんだと神妙な心境になった。話に粗さを感じるものの野犬や赤いスカーフの伏線の繋がりは巧妙。
    きっとあの後彼だけは生きている…そんな気がして仕方ない。

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著者プロフィール

(うさみ・まこと)1957年、愛媛県生まれ。2007年、『るんびにの子供』でデビュー。2017年に『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞。2020年、『ボニン浄土』で第23回大藪春彦賞候補に、『展望塔のラプンツェル』で第33回山本周五郎賞候補に選ばれる。2021年『黒鳥の湖』がWOWOWでテレビドラマ化。著書には他に『熟れた月』『骨を弔う』『羊は安らかに草を食み』『子供は怖い夢を見る』『月の光の届く距離』『夢伝い』『ドラゴンズ・タン』などがある。

「2023年 『逆転のバラッド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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