楽園ジューシー

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 799
感想 : 104
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041032107

作品紹介・あらすじ

「いつか絶対、三人で行こう」。親友と誓い合った思い出を胸に沖縄の安宿でバイトすることになった大学生のザッくん。待ち受けていたのは、おいしい料理と超アバウトなスタッフ、それに個性的すぎる宿泊客たちで!?

感想・レビュー・書評

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  • ハートフル青春物語ですね。
    日常の謎も楽しめます。
    主人公の松田英太は大学一年生。バイト先の弁当屋がしばらく休業することに、長い春休みのバイトを探してひょんな事から沖縄の「ホテルジューシー」のバイトが決まり、いざ沖縄へ、ということから物語は始まる。
    英太は祖母がロシア人、両親も色々な国をルーツにもついわゆるミックス。その事からいじめや勘違いに悩まされてきた。この物語は問題点を探りながら、成長物語でもあります。
    坂木さんの小説は、登場人物の問題点を浮かび上がらせ、同時に社会の問題点も絡めながら、ポジティブに家庭的雰囲気で描いてみせる。
    悩みにくじけそうになっても、前を向いてあるく勇気ある登場人物が特長なので、とても好きな作家さんです。
    今回も色々と考えさせられましたし、英太にエールを送りながら、楽しく読了しました。
    沖縄の「ホテルジューシー」、行ってみたいですね。
    三作目が楽しみです。

  • 「ホテルジューシー」から15年、続編という位置づけだと思っているのだがあとがきによると『姉弟本』とのこと。
    なぜこれだけの時を経て今?という疑問についてはあとがきには書かれていなかった。
    ただ2018年の雑誌連載中に首里城が消失したということで首里城についての記述が多い。いろいろと勉強になった。

    今回の主人公は松田英太。通称ザッくん。
    分かっているだけで五か国の血が流れているのだが、生まれた時から日本で暮らしているために日本語しか話せない。
    あだ名の由来は残念なパーマまたは残念なハーフ(本当はミックスだが)。ずっといじめられていたのだが、大学生になると一転モテ始めた。だが元からのいじめられ体質で友達は作れない。
    そんな彼がなぜ沖縄の<ホテルジューシー>で働くことになったのかは読まれて確認していただくことにして。

    前作で浩美がアルバイト期間終了を前にせっせと作っていたマニュアルがまだあり、歴代アルバイトたちが更新してくれているのにニンマリ。
    調理担当の比嘉さんは変わらず手際よく美味しい料理を作ってくれているし、クメばあセンばあの清掃コンビも変わらず元気。
    そしてオーナー代理の安城もやはり天気のよい昼間は使い物にならないし、あちこちの店にツケを溜めているし、隣のバーは闇営業だし。

    今回も様々な客たちがやって来るのだが、あとがきにあるような『光と闇』というほどのことはなかった。
    それよりも主人公の英太がどう変わっていくのかと思いながら読んでいた。

    英太は自身を『うすしお』というだけあって、こだわりなし、のめり込むものなし、自信もなしなのだが、安城が言うように意外と『見た目に囚われ』ていた。被害者体質というか『仕方ないじゃないか』の言い訳で人との付き合い方や距離の置き方がチグハグな部分があった。
    この辺りは言いたいことをズバズバ言っていた前作の浩美とはかなり違う。

    そのツケが最後の最後に英太へドッと押し寄せる。この展開は読んでいて辛かった。何もここまで畳みかけなくても…と思ってしまった。

    <ホテルジューシー>に来るまでの英太の世界は実に狭かった。その環境の中で生きていくうちに固まった固定観念や価値観や距離感が彼を作っていたのだから、英太のそうしたチグハグさはある程度仕方のない部分もある。もちろん言い訳で済まない場面もあるのだが。
    だが<ホテルジューシー>に来て、それは大きくひっくり返された。それは英太の世界が広がった、または経験値が増えたという良いことではある。
    そこで英太が思い切り凹んで歪んで…で終わらなかったのはホッとした。

    せっかくだから家族に頼んで様々な国の言語を教えてもらったらどうだろう…と思うのだが。もっと彼の世界は広がるかも知れない。

  • 約2年前に読んだ『ホテルジューシー』の続編。主人公は異なるが、舞台となる沖縄本島にあるホテル(ホテルジューシー)は同じ。東京の男子大学生の通称「ザック」がホテルジューシーの住み込み冬季短期アルバイトに成り行きで応募。生きづらさや見た目・性格にコンプレックスを抱えているが、ホテルジューシーのオーナー代理をはじめ従業員はそんなものは一切気にせず温かく受け入れてくれる。他方、観光だけでは分からない沖縄の意外な一面(陰の部分)も垣間見られる。どんな場所でも光と陰はあるのだなぁと思わさせられた。坂木司さんの小説はほっこりした雰囲気のものが多いが、本書はほろ苦い要素も含んでいた。東京に戻ったザッくんが親友2人との絆を取り戻し、再び楽しくやっていけると良いなと思う。

  • 大好きだった『ホテルジューシー』の続編!!
    というか姉弟本だそうです
    舞台や周りの人達は変わらないけど、主人公が変わった。
    前作では元気な女の子ヒロちゃんが主人公だったけど、今作の主人公はいじめられっ子で若いくせに人生諦めムードなザッくん!
    そんなザッくんの成長物語でした。

    大学の長期休暇の間、ひょんな事から沖縄のホテルでリゾートバイトする事になったザッくん。
    今回もどこか不思議なお客さん達がやってきて、ちょっとした日常ミステリも絡めながら話は進んでいく。

    私のイメージでは開放的でまさに楽園って感じの沖縄だけど、まったく知らなかった根深い問題というか、ちょっと"黒沖縄"な部分も描かれていたと思う。

    正直なところ前作が大好きだったので、かなり期待値上げすぎててちょっと物足りなかったな〜
    ザッくんの煮え切らない感じにも少しモヤモヤ、、
    双子のおばあちゃんとか比喜さんも今回キャラ薄かったような、、
    そんな中オーナー代理だけは、相変わらず美味しいとこ持っていってました笑

    坂木さんがちょうどこの本を執筆してる時に首里城が焼失したそうです。
    私はまだ行った事がないので、いつか建て替えられた首里城やこの本に出てきた路地裏みたいな所を散策してみたいな〜。

  • 主人公のザッくんに共感しました。やり過ぎても行けないけど相手の気持ちを思わないとなって。自己中に気がつかないうちになってる。後、沖縄の事少し考えさせられました。

  • 【収録作品】約束/風の音/境界/ローリングカラーストーン/フェア/君ではない/眩しさ

    「残念なパーマの、残念なハーフ」という意味で「ザンパ」と呼ばれ、いじめられて過ごしたミックスの青年ザッくん。どん底のときに出会った親友たちとの約束を頼りに「余生」を生きているつもりでいる。そんな彼が、弾みで沖縄のホテルジューシーでバイトをすることになる。

    クセの強いオーナー代理・安城に振り回されながら、周りの人たちとの関わりのなかで、自分の甘えや偏見に気づかされていくザッくん。ほろ苦い成長物語だ。彼の欠点を指摘する人たちも、自分の傷に囚われている。

    被害者意識をこじらせて何にも関心をもたずに薄く生きていけるのは、それだけで恵まれていると思う。

    なお、あとがきによると、連載途中で首里城が火災によって焼損したため、その姿を物語の中に残そうと考えて「ローリングカラーストーン」を書いたとのこと。

  • 野性時代2018年1月号:約束、3,7,9,11月号:風の音、11月号、2019年1,3,6,8,111月号:境界、2020年2,5,7,9月号:ローリングカラーストーン、2020年11月号、2021年1,3,6月号:フェア、6,8月号君ではない、8月号:眩しさ、に加筆修正し、あとがきを加えて、2022年2月角川書店刊。シリーズ2作目。前作と同様に一夏の出来事。大学生だが幼ない主人公の沖縄アルバイトストーリー。少しぬるい話で、あまり共感できませんでした。

  • 前作より面白く感じるのはラスト近くがリアルなのかな。
    主人公の辛さもわかるし周りの気持ちも分かる。
    楽園ジューシーの楽園を考えてしまいますね。

  • ホテルジューシーの姉妹編だそうだ。
    前作を読んでいなくても楽しめると思います。
    「楽園」とつけた作者の意図がわかる気がします。

    首里城には行ったが、ここまで深く見ていなかったな。残念。また復元されたら是非行きたいです。

  •  何と何と、14年ぶりとなる『ホテル・ジューシー』の続編が届けられた。オーナー代理を筆頭に、宿泊客も訳ありの人物ばかりなホテル・ジューシー。那覇の国際通りからほど近いこのホテルに、今回アルバイトとして飛び込んだのは…。

     前作の主人公・柿生浩美は、一言で言えば超しっかり者。今回の主人公はハーフのザッくん。外見をからかわれ、暗黒の少年時代を過ごした彼は、万事に前向きになれない。浩美から見るとかなりイライラさせられるキャラクターだろう。

     一念発起して那覇まで来たザッ君だが、そんな彼にも、おいおい大丈夫か?と思わせるオーナー代理。前作を読んでいれば、只者ではないのはわかっている。浩美と同様に昼と夜のギャップに戸惑うザッくんだが、浩美よりも順応は速いか?

     事件らしい事件が起きるわけでもなく、日常の中で価値観を揺さぶられるエピソードが多いのは前作に共通する。浩美のような明確な価値観を持っていないザッくんにも、先入観はある。辛い少年時代を過ごしたザッくんだけに、世の中こんなもんという思い込みは、ある意味誰よりも強いかもしれない。

     ザッくんだって時には客の態度に腹を立てるし、オーナー代理の「大人」の対応に違和感も抱くが、浩美のように口には出さないのでモヤモヤが蓄積していく。そんな彼の内面は、オーナー代理にしっかりと見抜かれていた。

     自分自身、ザッくんに共感できる面もある。彼だって殻を破りたいという願望は無意識に持っているはずだ。だからこそ、沖縄行きを決断した。沖縄という土地柄が、個性的な人物たちが、頑ななザッくんの心に少しずつ変化をもたらす。

     ホテル・ジューシーでの業務に慣れていく中で、終盤にはガツンとやられる展開が待っていた。一緒に出かけた「彼」にぶつけられた言葉。どうすればよかったのか? しかし、ザッくんが何よりショックを受けたのは…。

     自分の良いところを認めてあげるのは難しいが、見ている人は見ている。おそらく、謎のオーナー代理も。なかなか自分を肯定できないザッくん。もう少し時間はかかりそうだが、この体験が、さらなる一歩踏み出すきっかけになれば。

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著者プロフィール

一九六九年、東京都生まれ。二〇〇二年『青空の卵』で〈覆面作家〉としてデビュー。一三年『和菓子のアン』で第二回静岡書店大賞・映像化したい文庫部門大賞を受賞。主な著書に『ワーキング・ホリデー』『ホテルジューシー』『大きな音が聞こえるか』『肉小説集』『鶏小説集』『女子的生活』など。

「2022年 『おいしい旅 初めて編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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