残業禁止 (角川文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041083130

作品紹介・あらすじ

成瀬和正、46歳。準大手ゼネコンの工事部担当課長。ホテル建設現場を取り仕切る成瀬の元に、残業時間上限規制の指示が舞い込む。綱渡りのスケジュール、急な仕様変更……残業せずに、ホテルは建つのか?

感想・レビュー・書評

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  • 働き方改革が声高に叫ばれる昨今、ワークライフバランスを無視したような過剰な残業は決して許されることではありません。
    とはいえ、どうしても対応しなければならないこともあるでしょうし、「仕事が終わらないままになっている」ということをストレスに感じる人もいるでしょう。

    体調を崩すことがなく、個々人の人生を尊重しながら、適切な時間や負担で回せる労働管理が必要なのだ、というのは理想論としてはわかります。
    この物語の舞台は建築現場ですから、建物の完成時期は決まっていますし、天候などの影響を受けながら工事のやりくりをしなければならず、どうしても現場の管理者となる社員たちは残業が多くなります。
    事故を起こさず、適切な仕事をしながら労働者の権利を守ること、それを会社(管理職)が十分に認識するとともに、働いている労働者の側にも「過剰な残業をすることは決して「偉い」ことではない」という考えを持つことが必要なのだと思います。

    どうしても人が他人を見る視点は一面的になりがちですし、自分の価値観と異なる生き方をしている人間のことは認めにくいものです。物語を通して主人公の考え方が変わってゆくところは印象的ですし、生きてゆく中で避けては通れない「働く」ということを考えさせてくれる小説だと感じます。

  • 成瀬さんが良い上司。

  • 刺激的なタイトルに惹かれて手に取った本。
    小説だけど、しっかり現実に沿った社会問題と具体的な解決がストーリーに盛り込まれていて、お仕事エンタメ小説で終わっていない。  

    大手ゼネコンの社員・成瀬が現場所長を務める横浜のホテル建設工事は、東京オリンピックを目前にして工期がギリギリな上、現場監督の人手不足、急な仕様変更、労使協定による残業規制、近隣住民からのクレームと問題だらけ。
    本社、管理部門に解決策を求めても聞く耳は持たず、現場は疲弊、混乱。そして部下が倒れたり、残業時間の隠蔽を余儀なくされたり、部下が自殺をはかって左遷されるという、もう大混乱の展開。

    後半は、少し無理やりな現場復帰と別の問題勃発、予想外な助っ人などドタバタだったけど、成瀬がただ問題を嘆いて終わるのではなく、自分自身の過去、時代の変化と向きあい、1つずつできることから確実に変えていく姿は良かった。

    働き方改革、ワークライフバランスは本当に実現できるのか、という成瀬の悩みがすごくリアルで、組織の実働部隊・現場と、上層部・管理部門との問題認識レベルの格差が生々しく伝わった。残業を減らし、働き方を変えることで、仕事の質やプロセスなど妥協するところも出てくるという気付きも、働き方改革の理想を打ち上げて終わりでないところが良い。
    また、残業を減らすことで守るもの、それは健康と家族だが、夫の家事への意識改革も必要なことに触れていたのが良かった。家庭での家事分担、夫の子育て参加が実現してこそ、社会全体としての働き方改革といえるんだろうなぁ、と思う。

  • おかんが図書館で借りて面白かったと言うので。

    建設現場の残業と働き方改革の話。

    似た業界だから辛いなーと思うとこがちょこちょこ。

    成瀬さんみたいなこんな良い上司、なかなかいないよ。
    常に部下のこととか周りのこと考えてて、会社全体のことも自分なりに考えて、ちゃんと行動できる人。上司の鏡。こんな上司になりたいし、こんな上司の下で働きたい。
    ルールとか決まりを守るっていう視点では問題もあったと思うけど、この話のシチュエーションだとそうなるよ、って理解できた。
    でもこの感覚もそのうち古い考えってなるのかな。

    最後の結末はまじか!!っと。そこは全く予想してなかった!

  • 残業に関するグレーな部分が鮮明に描写されていました。経営者としては話の分かる内容で参考になりました。

  • 成瀬和正49歳、ゼネコン「ヤマジュウ建設」の現場事務所長。15階建てのホテル建設現場を取り仕切る成瀬のもとに、残業時間上限規制の指示が舞い込む。ただし納期は延ばせないという。無理難題に挑むのは、保育園の迎えがあり残業できないイクメン社員に、史上最高に使えない新人。綱渡りのスケジュールをこなすチームに容赦なく降りかかる理不尽な仕様変更、近隣住民のクレームーー。残業せずに、果たしてホテルは建つのか?
    (2019年)
    --- 目次 ---
    残業禁止

  • 冒頭「朝の冷え込みが強く残るまだ八時きっかり、鉄柱の天辺のスピーカーから割れた音でラジオ体操の音楽が流れだした。」
    末尾「魂を抜かれたような顔のまま、砂場がこくこくとうなずいた。」

    先週、たまたまネット検索で存在を知ったところに、古本屋で50円で売っていたため迷わず購入。

    主人公はゼネコンに勤める現場事務所長。ホテル建設の現場を取り仕切っているところに、それまで青天井につけていた残業の上限規制が始まる。そして納期は延ばせない。

    部下の病気、残業できないイクメン部下、使えない新人、近隣十人からのクレーム、理不尽な仕様変更、挙句の果てには左遷。
    途中まで現場の苦労に共感しながら読み進め、最後ハッピーエンドで良かったんだけど、最後はあれよあれよという感じで、もうちょっとページ数をかけてもいいんじゃない?と思うほど。

    建設業界のことは全然知らなかったけど、ゼネコンとサブコンの関係とか、今年家を建ててもらったけど、あの人たちもこういう感じだったのかなと思った。

    自分たちの業界でも働き方改革が叫ばれるけど、ただ残業するなとか言われても正直戸惑ってしまう。本作での加藤の働き方(働かせ方)などを見ても思うことが多かった。仕事の質と効率のバランスは難しい。

    単なる「お仕事小説」にとどまることのない、考えさせられる小説だった。

  • ストーリーが身近だからか、すごく苦しかった。

  • 建設業界の働き方改革。
    前半の実情に共感するほど、後半の展開にはスッキリ感がないのでは?と思える、お仕事ややハッピーストーリー。
    市場や顧客へアピールのために、みたいな流れが強くなる中、エンジニアがそれ見落としちゃ、ダメじゃんというのを思い出させる、現場の目線、みたいなところ、よかった。こういう人達が幸せに暮らしたい。

  • いい話だった。成瀬が、最初は残業時間の上限をいかに切り抜けるばかり考えていたのが、高塚の自殺未遂などをきっかけに、完全にすぐにはなくせないが、無くす方法を模索していく姿を見て、そう思った。
    最後の、高塚の浅田がくっついたのはクスリときた。

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著者プロフィール

1964年、京都府生まれ。東京大学文学部仏文科卒、朝日新聞社に入社。2003年『骨ん中』でデビュー。2010年『ちょんまげぷりん』が錦戸亮主演で映画化され、2016年には『オケ老人!』が杏主演で映画化された。著書に『探検隊の栄光』『けいどろ』『大脱走』『ヘビメタ中年!』『独裁者ですが、なにか?』『早期退職』など。

「2019年 『残業禁止』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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