居心地の悪い部屋

制作 : 岸本 佐知子 
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.47
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本棚登録 : 532
感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041101278

感想・レビュー・書評

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  • 12編の短編集。この中ではアンナ・カヴァン『あざ』、ルイス・ロビンソン『潜水夫』が印象に残った。今まで出会ったことのない作家の作品にもふれ、さすがの岸本さんです。

  • ゾワゾワとする気味の悪さがあった。
    ホラーとも違うしこの不気味な感じはクセになる。
    『あざ』『来訪者』『ささやき』『ケーキ』の、
    最後どうなっちゃったのと読んでから言わずに居られない結末が面白い。
    何作品かは解説を読んでもやっぱりよく分からない話だったけど、そのよく分からなさが個人的に気持ち良かった。
    黒いユーモアも多く、その面白おかしさが一層気持ち悪くさせていて、それが気持ちいい読後感を抱かせた。

    『来訪者』は電話の相手が両親なのだけど、自分の知っている両親と違う気がする…あの人たちは誰?…と追いながら何かすごく不安で居心地の悪いいやな錯覚を持ちました。
    『ケーキ』については、よく分からないまま始まりよく分からないまま終わった。不思議と爽快感があって楽しめた。犬と猫についてもおかしいけど「わたしは丸々となりたかった」からはじまり、だからケーキを買い込んで部屋の一周にケーキの棚を並べたという前提からして狂っている。そこにきて猫と犬が窓の外から二匹並んでずっと見てる、あいつらに見られてるから食べられない…という感じで物語が進んでいくけど、どこからつっこめば良いのやらといった感じで愉快なお話だった。そもそも読んでいてほんとうに猫や犬なの?と思うけど、丸々となりたいからケーキを部屋に並べるという時点でよくわからんし…あぁもう楽しい!
    『潜水夫』は中でもお気に入りの作品。
    スクリューに何かが絡まり船が動かなくなってダイバーに仕事を頼む話だけど、この頼んだダイバーが仕事を終えてからなかなか帰ろうとせず妻に言い寄るお話。いつ潜水夫が豹変しないか寝取られないかとピーターともども不安にさせられた。潜水夫の冗談がどこまで冗談かが分からず、ページを捲るたびにハラハラした。それにしてもこの潜水夫が本当にしつこい。途中で主人公のピーターに出来心が芽生えて殺しそうになるのだけど、それを武器になかなか帰ろうとしない。潜水夫のねっとり感に読んでいてイライラさせられながらも不思議と不快ではなくて、むしろ早く帰れという気持ちに同居した居心地の悪いながらもクセになる心地良さが満足の作品だった。

    なんだろうか。この作品は読者に話の外でも想像を膨らませようとしてくる。
    だから読んだあとも脳裏にあのとき読んだ感覚や気持ちが残っていて、何度も反芻させてくる。
    居心地の悪さがありながらも読ませるのは、そういうところだと思う。
    バッドエンドともホラーとも鬱とも違う。
    暗くも怖くも悲しくもない。
    でも背筋がゾゾゾっとくる、そんな読後感を求める人にはおすすめの作品です。

  • ステイシー・レヴィーンという作家についてのレビューを読んで興味を持ったので、手にとってみた本作。

    アンソロジーという情報以外何も仕入れず、レヴィーンは後ろの方か、と頭から読んでいきました。

    初手から

    ザワザワ…
    ????
    ん? え??

    となりまして、次、次と読むうちにタイトルの意味するところがわかりました(遅い)

    突然目の前の扉が開いて私は今何を読ませられているのだ?という不穏さ、親切心のカケラもない不可解さ、そして何もわからぬまま突然にまた扉を閉められる後味の悪さ。
    まさに居心地の悪い部屋を見て回るよう。

    各作者、その不穏さもやはりそれぞれ個性があり、これを小説と読んでいいの?そうかこれでいいのか。やったもん勝ちか、というなんか現代アートを前にした時と同じような気分。
    わかったようなわかんないような。いや、私には結局「好み」かどうかしかわからないけど。

    お目当てのステイシー・レヴィーンは、なかなかどうして強烈でした。訳が悪いんじゃないかと思えるほどの執拗な繰り返しと重複、あっちの世界に片足突っ込んだ人の文章に思える。山岸涼子の『スピンクス』とかちょっと思い出す。悪夢と奇想と現実と。そのどれもが本人にしか意味がなく(もしくは本人にすら意味はなく)、他人が入り込む余地がない。

    個人的にブライアン・エヴンソンが気に入りました。
    『へべはジャリを殺す』は瞼を縫うところから始まって再び瞼を縫うところで終わる。は?って感じでしょ?説明がなさ過ぎて何が起こっているのかさっぱりわからない。ただそこでは確実に「何か」が起こっていて、そしてそれはかなり絵になる。切り出した場面が抜群なのだ。映像が浮かんでくる。語られていない部分を想像したくなる。(ほとんど何も語られてはいない)『父、まばたきもせず』もそう。

    ルイス・ロビンソンの『潜水夫』はなんだかすごく読んだことがある感じがするなー村上春樹っぽいなーと思ったら『バースディ・ストーリーズ』にも別の作品が収録されているとあとがきにあった。自分、読んでいる。名前、覚えてなかったけど。見覚えあるはずだ。

    久々にスカッとしないものを読んだ。
    こういうのもたまにいい。
    不穏で不吉で得体の知れないものからはなるべく遠ざかって生きていきたいと普段は願っているけれど、でもそれは、すぐ近くにいつもいるんだということも私はよく知っている。
    だからたまにそんな居心地の悪い部屋をこそっと覗いて確かめずにはいられないのだ、と思う。

  • 文学

  • 文庫版に収められなかった「来訪者」は「元気で大きいアメリカの赤ちゃん」の作家さんかぁ。ザワザワするねぇ〜。

  • これぞ短編集。「潜水夫」と「やあ!やってるかい!」が印象的だった。

  • で、どうなったの?
    解説してほしい。・・とモヤモヤします。
    「ささやき」とか「来訪者」は特に。
    「潜水夫」はクセの強いオヤジを懲らしめたくなるピーターの衝動があるあるですが、その後の展開がヒヤヒヤでまさにお題目通りでした。

  • 20161101
    表紙とタイトルに惹かれて読んだが、本当にただ居心地の悪くなる話が多かった。自分で言うのもどうかと思うが、わたしを持ってしてもこれほど「非倫理的でシュール」な短編集には出会ったことがない。そして面白いかと聞かれると、オチがなくて戸惑う

  • 据わりの悪い、ぐらぐらした赤ちゃんの首のような短編集。
    不安になる。

    冒頭、「へべはジャリを殺す」のなんとも不穏で、それでいて共犯めいた二人の関係がいい。

    どれもこれも粒ぞろいの気味の悪さ。
    「来訪者」が一番気持ち悪かったかも。
    「えっ?ど、どうなったの!!」て思った……

  • 奇妙な物語の奇妙な設定って、言葉を尽くして説明されればそれでも腑に落ちるとは思うんです。あ、そういう変な設定の世界観なのね了解ですー、って。
    ところが本作に収められた短編達は、そんな世界観の説明を一切していません。不親切なくらいに言葉を尽くしません。容赦ないくらいに、読者に無理解のままで奇妙な世界観に興じることを求める作品群です。

    「何これ意味わかんないんですけど」

    と徹底的に白けるか、

    「何これ意味わかんない面白い!」

    と理解できないことそのものを楽しめるか。

    読む人を選ぶというよりは、読む人の読書の楽しみ方のメジャーが試される作品と言えるかもしれません(どっちが正しいとか優劣があるとかいうことではなく)。

    うーん、本ってほんとに色々あって楽しいね〜(浅


    【内容まとめ:とも言えないような箇条書き】

    ◉へべはジャリを殺す…まぶたを××男、××××男。延々と続く、理不尽な暴力の予感。

    ◉チャメトラ…銃撃で友人の頭にポッカリと空いた穴からポロポロとこぼれ落ちる夢と記憶、それを食べる俺と犬。

    ◉あざ…優秀なのに、決して一番にはなれない彼女と同じあざが、何故「地下牢に幽閉された人物」の手にあったのか。

    ◉来訪者…いっこうに到着しない両親に何が起こったのか?

    ◉どう眠った?…2人の男が延々と自分の見た夢を建造物に見立てて会話する。

    ◉父、まばたきもせず…義理の娘の死体を埋める男の話。

    ◉分身…ある朝、目をさますと、足が取れていた。

    ◉潜水夫…故障した船の修理のために助けを依頼した男との暴力の予感を秘めた駆け引き。

    ◉やあ!やってるかい!…って言ってるだけの青年の末路。句点のないリズム感は、ジョギングのリズム?

    ◉ささやき…俺のいびきはどうやらうるさいらしい。恋人に指摘され、確認のために寝ている時に録音をすることにしたが、テープに収録されていたのは、何者かの「ささやき」だった。

    ◉ケーキ…まんまると太るために、部屋の壁にケーキを並べた女が直面した思わぬ障害。

    ◉喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ…野球を題に取ったホラ話。

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