眠りの庭 (単行本)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041106129

作品紹介・あらすじ

白い肌に、長い髪、そして細い身体。彼女に関わる男たちは、みないつのまにか魅了されていく。そしてやがて明らかになる彼女に隠された真実。2つの物語がひとつにつながったとき、衝撃の真実が明らかになる。

感想・レビュー・書評

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  • 千早茜さんの長編小説。
    一卵性父娘に翻弄される二人の男の恋愛小説。
    前編『アカイツタ』、後編『イヌガン』の二部構成。
    前編『アカイツタ』は、美術教師である萩原と、美術界で権威のある真壁秋霖の娘の小波(さなみ)との溺れるような恋愛。
    後編『イヌガン』は、大学時代のバイトを通して知り合った耀と澪(小波)のおままごとのような平穏な恋愛…とはいかず…。

    直近読んだ千早さんの作品2冊は穏やか系だったので、"地獄に近い"恋愛作品は久しぶり。
    本作の地獄要素は、父による娘への性的虐待かつ共依存。

    『アカイツタ』で印象に残った言葉が、
    ・"「だって、暴力なら拒めばいい。でも、愛されたら、受け入れるしかないですよね」"
    ・"きっと、幼い彼女にとっては父親を肯定することが生きる術だった。ずっとそうして生きてきたから、父親を捨てることは今までの自分を全否定することになってしまう。全てを捨てろと言われてできる人間なんかいない"
     この言葉に、歪んだ愛、束縛的な愛の恐ろしさが表れているなと思った。萩原が真壁教授を殺したことで、2人に平穏な日々が訪れるかなと思っていたが、後編のラストで、萩原が変貌してしまっていたことが明かされ、小波がサロメ(運命の女)のような女性になってしまったこと、そして、萩原さえも彼女を救うことができなかったこと、二つの意味でショックだった。

    『イヌガン』で印象に残った言葉が、
    ・"「信じるのって相手に失礼じゃない?」と澪が言った。みんな、きょとんとした顔をした。
    「だって、人って刻一刻と変化するのに。信じられたら変われないじゃない。それってちょっと重荷じゃないかな」"
    ・"「ショックなのはわかるけど、嘘をつくのは絶対にいけないこと?全部話さなきゃいけないの?話したら話したで咎められるような過去を、わざわざ?」"
    ・"「許すだなんて、なんだか傲慢だわ。 悪いことだって決めつけてる。許している方は気持ちがいいかもしれないけど、許される方はたまったもんじゃないわ。仮に罪だったとしても、その人がいる限り、忘れられないのよ。ずっと許されたことを意識しながら過ごすのよ。一度でも罪を犯した人間はずっと許しを請いながら生きなきゃいけないの?しかも、まったく関係のない人にまで?」"
     確かに、「信じてるよ」という言葉の重さ、「許してあげる」という言葉の傲慢さ、すごくよくわかる。心で思っている分にはまだ良いけれど、口に出すとどうしてこんなにも毒味を含んだ言葉に感じてしまうのか不思議。
     知られたくない過去を背負うのって辛い。孤独に耐えながら一人で墓場まで持っていく覚悟を取るか、孤独から解放される為に他人と共有するリスクを取るかの選択のような気がする。
     また、嘘は(嘘をつく側の精神衛生的にも)あまりよろしくないけれど、秘密はそこまで悪いことではないと思う。

    千早さんの作品は「食」にまつわるものが多かったが、今回は「美術」が物語の軸になっている。サロメに関する美術史の背景は、物語の根幹であり、自画像の起源等の知識も、作品に深みを増しているなと感じた。

  • 「アカイツタ」、「イヌガン」の2編から成る作品。

    高級住宅の並ぶ丘の上に建つお嬢様高校に産休代理の美術教師として赴任してきた萩原。
    美術部の顧問も任されることになった萩原は、美術準備室に転がる卒業生の作品の中に気になる自画像を発見する。
    だが、その絵を描いた生徒はもうこの世にはいないという。

    自宅に持ち帰り眺めるくらいその絵に捕われ始めた矢先、亡くなった生徒の代理で絵を受け取りに来た人物は絵の中の少女その人物だった。
    しかも聞けば、この学校への赴任に口利きしてくれた、大学時代の恩師の娘。
    こうしてファムファタル(運命の女)に出会った萩原は、いつしか彼女に溺れていくことになる。。。

    という「アカイツタ」。

    導入部の不穏な空気感、いわくあり気な残された絵画という設定に引き込まれたものの、「アカイツタ」そのものは正直、次第にアウトローぶった萩原の身勝手な言動が鼻についてくるし、何かちょっと非凡な境遇に陶酔しているかのような肉欲的な展開が好みでなかった。
    けれども、「イヌガン」に入り、「アカイツタ」は魔性の女の物語のためのただのお膳立てに過ぎなかったことに気づかされたとき、評価はがらっと変わった。

    怖い、怖すぎる。

    しかも”信じられたら変われない。かえって重荷”とか”人の心は無理に暴いてはいけない”とかある意味真っ当な理論を吐き出しながらの展開だけに、真意が掴みきれず余計に怖い。
    欲を言えば、最後完全にそっち側に振り切って欲しかったなぁと。

    全体的な読後感として、とあるABサイドを描いた恋愛ミステリのホラー色強め、大人感強め、という印象を受けました。

  • 悪女のイメージでいえぱ『白夜行』ですが、
    そこまで唸らされる悪女でもなく、お話的にも何を軸にしているのかなぁ、という印象てした。
    でも千早茜さんのよい意味での鬱蒼とした感じは好きです。

  • 初めましての作家さん。
    この本を手にしたのは、先日の「新井賞」の影響です。
    『男ともだち』を読みたかったのですが、まずは手に入ったこちらから。

    なかなか読み進めることができない。
    正直、あまり好みではなく…

    『男ともだち』への気持ちが薄れていく…

  • 魔性の女、と言っていいのか。とにかく怖い話という印象。

    ヒロインが恐ろしい。彼女に「狂わされた」男たちも、常軌を逸している。そして父娘の異常な関係が恐怖。
    そういう父でなければこんなふうにはならなかったのかもしれず、彼女もある意味可哀想なのかも。

    読後もゾワゾワする。

  • 初めての作家さん。他のを読みたかったが、軒並み貸し出し中だったので、こちらを読んでみた。
    なんとも言えない救いのない世界観。
    ただただ静かな文章で、静かにその世界を覗き見ているような感覚だった。
    この方の文章が好きだ。他のを読んでみたい。

  • すごい世界観、恋愛観。
    千早さんの筆力に圧倒されます。
    恋愛モノは好きではないのですが、千早さん作品は、恋愛という枠を超えた、情念を巧く描いていて、読み始めるとすぐに千早ワールドの住人になってしまいます。
    女に囚われる男も、様々なパターンが描かれています。女性作家の描く男性像、私は唸らされますが、実際の男性が読んだらどうなのか知りたいところです。
    2篇収録ですが、連作と知った時は衝撃が走りましたσ(^-^;)
    読み応えはありましたが、千早作品でなければ読まないであろうモチーフだったので、☆3つ。

  • 千早さん好きなのですが、ちょっと入っていけなかったです。狂気…ファム・ファタール。

  • 読了後に最初のページを見るとゾクゾクが止まらない。怖い話は苦手だけど千早さんの文章なら手が勝手にページを捲ってしまう。”狂気”と”赤”が似合う一冊。

  • *白い肌に、長い髪、そして細い身体。彼女に関わる男たちは、みないつのまにか魅了されていく。そしてやがて明らかになる彼女に隠された真実。2つの物語がひとつにつながったとき、衝撃の真実が明らかになる*

    「アカイツタ」「イヌガン」の二編からなる物語。続き物と知らずに読んだので、「イヌガン」の途中で二つの物語が繋がっていることに気付いた時の衝撃…!そこからは、完全に堕ちました。全てを奪う、捧げる、祈る、忘れる…いくつもの複雑な形に絡み合う「愛」と、その闇に絡めとられるような苦しみ。緻密で独特の世界観と、そこここに敷かれた伏線を確かめるために、何度も読み返してしまう。「僕は記憶喪失になるよ」が心に染みる。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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