- Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041109908
作品紹介・あらすじ
古くからの友人も、ノーベル賞作家も、その「岬」に消えた――
この物語はあなたを、思いもよらぬところまで連れて行く。
人が人であるというのは、どういうことなのか。
練熟の著者が今の時代に問う、神無き時代の新たな黙示録。
以前から美都子が夫婦ぐるみで付き合ってきた、憧れの存在である友人・清花。だが近年、清花夫妻の暮らしぶりが以前とは異なる漂白感を感じさせるようになり、付き合いも拒否されるようになったのち連絡がつかなくなった。清花たちは北海道に転居後、一人娘・愛子に「岬に行く」というメッセージを残し失踪したようだ。彼女の変貌と失踪には肇子という女性が関わっているようだが、その女性の正体も分からない。
時は流れ約二十年後の二〇二九年、ノーベル文学賞を受賞した日本人作家・一ノ瀬和紀が、その授賞式の前日にストックホルムで失踪してしまった。彼は、「もう一つの世界に入る」という書置きを残していた。担当編集者である駒形書林の相沢礼治は、さまざまな手段で一ノ瀬の足取りを追うなかで、北海道のある岬に辿りつくが――。
やがて明らかになる、この岬の謎。そこでは特別な薬草が栽培され、ある薬が精製されているようで……。
近未来から戦時中にも遡る、この国の現実の様相。
岬に引き寄せられる人々の姿を通して人間の欲望の行き着く先を予見した、著者畢生の大作。
感想・レビュー・書評
-
本作、近未来小説であり、SFチックであり、スピリチュアル系(ないしカルト宗教)の要素あり、失踪の謎を追うミステリーであり、と色んな要素が詰め込まれた力作。終盤、やや失速感はあるものの、読み応えのある作品だった。
北海道、最果ての漁師町に隣接するカムイヌフ岬は、密集するハイマツの灌木と海沿いの絶壁、生息する獰猛なヒグマ、荒れる海と冬の厳しい気候が人の侵入を頑なに拒んできた。そしてこの数十年、悟りを開くかのように人格変容した人々が、その岬へ忽然と消えていた。
キーワードは、不老長寿、人格変容、虚無の病、兵士用覚醒剤などなど。これ以上書くと、本作のネタが…。
悪化する国際情勢、平和ボケした日本を嘲笑うかのように日本を侵食しようとする隣国。近未来(2029年)のリアルな日本の姿にも身震いした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
古くからの友人が、少しずつ生活の質を変えていっていることに気づく…。
そのうち連絡も途絶えてしまう。
そこから始まる謎の岬の様子。
不可解な失踪。
これは、人生をどのように過ごすのか…と問われているような気がした。
さまざまな欲望を捨てて生きるのが正解だとは思えないのだが。
無欲に粛々と…自分を律することも厳しい。
現実をしっかりと見て…と言われた気がする。 -
❇︎
篠田節子/失われた岬
全575ページ
あまりにも壮大。
いくつもの時代を跨いだ歯車が噛み合い
ながら同時に狂いあった深淵な物語でした。
薬物、カルト、戦争、相当複雑でした。
-
戦争前から過去にわたる長い期間、岬にまつわる生薬の謎を解いてゆく長編。
冒頭はサスペンス的に後半は薬の開発について。
将来の日本の様子や諸外国の様子の描かれかたが篠田さんらしい批判を映したものになっておりとても共感した。
欲が抑えられないのは不幸だけど、何も欲しなくなるのも不幸に見える。どちらも病に思えてしまう。
欲深い大国によって今現在侵略戦争が起きているけど、これもまた欲が抑えられない病なんだろうな。
人間って愚かだな。
前半の神秘的な話が(大変面白い)
後半は記者が取材して得た情報のみになる。後半が主な説明なのだけど長いうえに知りたかったことがかかれなかったので★3つ -
各章ごとに語り手と時間軸や時代背景が異なり、頭を整理しながら読まないと迷子になる。
中盤以降は、薬の教科書かと思うくらい細かく難しい事が書いてあり中々読み進まなかった。
薬物、カルト宗教、戦争の歴史から現在未来の日本人への警鐘。600ページ弱の超大作ではあるけど、いろんな事が詰め込まれすぎてて、久しぶりの長編だったせいもあり疲れ果ててしまった。
-
人間が生を受けて生きるとはどういうことなのか。学び、結婚し子供を作り、金を稼ぎ欲しいものを買う、それが集合すれば文化や文明、国家となる。一方、ただ一本の草のように自然の一部となって暮らす、そういう選択もあるんじゃないの? しかしその選択はどうなのか、そんな問いを、北海道の岬にまつわる謎とからめ、1945年から2029年と84年の時空を渡り、サスペンスフルに描きだす。
冒頭、慕っていた友の生活がだんだんシンプルになりついには連絡がとれなくなる様に何だ?となり、そして後半の岬の謎が明かされていく様にぐんぐんひかれ、最後の2029年の社会設定にうなる。現在でもいやな片鱗はあるが、それがちょっと進んでしまっている。
篠田氏の短編「エデン」もちょっと思い浮かべた。
北海道の旭川から日本海に抜けたカムイヌフ岬。ここが舞台。
前半は、だんだん物の無い生活になってゆき、愛犬さえも手放した母から「自分の居るべき場所がみつかった」という手紙を受け取った娘、また恋人を追って岬に入り、両目を熊にえぐられた青年実業家、などが出てきて、謎の岬と、物の無い生活、の疑問がふくらむ。岬は戦時中日本軍の毒ガス工場があった、という噂を村人は口にする。
展開は後半、時は2029年、ノーベル賞の受賞式直前に行方不明となった作家が、どうやらその岬にいったようだ、と出版社の社員とフリー記者が作家を見つけ出す過程で、カムイヌフ岬の謎が露わになる。やはり岬には何かあり、ある製薬会社の研究者でアイヌの村にはいった男に行きつく。男に何があったのか、何を見つけたのか・・・ 製薬会社社長の孫、孫と大学院の同窓生、アラスカの植物研究家、などが連なり、戦後の岬の系譜がつながってゆく。
最後に辿り着いた高樹博士の人生語りの報告書が頂点でありこの物語の原点だと思った。戦争にともなう思想がもたらすもの、もたらされたもの、だ。
おもしろかったのが、この近未来の2029年の設定だ。北朝鮮の爆弾は日本に着弾している、池袋ではイスラム系の寺院が増え、そこにテロの爆弾が降る、といった具合。最後にはある火山が爆発するのだ。「ブレードランナー」のあの荒廃した世界をも思わせるが、人々は携帯のアラートにちょっとびっくりはするが、少したつと落ち着いて、日常の生活に戻るのだ。
また、岬に入る者は、物欲や食欲、性欲も無くなっているようなのだ。それが「自然の一部として生きる」といえばそうともいえるが、クラークなどSF小説でかなりな未来になると、子供も生まれなくなり停滞している静かな世界、といった設定がいくつかあり、そんな遠未来もちょっと思い浮かべてしまった。・・が篠田氏の描いた岬はちょっとちがうかな。
2021.10.29初版 図書館
篠田氏インタビュー 本が好き
https://honsuki.jp/pickup/50268.html
「肥大化した欲望の先には一体何があるのか。そこを探ってみたくて」
「謎の場所や得体の知れない何かに心惹かれます。それで、自分に近い人が病気や死ではない何かに奪われていくというシチュエーションを、SF的解明ではない手法で書いてみたい、そこに滅びゆく文明や産業問題、資源戦争といった視点を結びつけたいと考えました」
今週はこれを読め (牧眞司)web本の雑誌
https://news.ameba.jp/entry/20211116-1000/