失われた岬

著者 :
  • KADOKAWA
3.28
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本棚登録 : 435
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109908

作品紹介・あらすじ

古くからの友人も、ノーベル賞作家も、その「岬」に消えた――

この物語はあなたを、思いもよらぬところまで連れて行く。

人が人であるというのは、どういうことなのか。
練熟の著者が今の時代に問う、神無き時代の新たな黙示録。


 以前から美都子が夫婦ぐるみで付き合ってきた、憧れの存在である友人・清花。だが近年、清花夫妻の暮らしぶりが以前とは異なる漂白感を感じさせるようになり、付き合いも拒否されるようになったのち連絡がつかなくなった。清花たちは北海道に転居後、一人娘・愛子に「岬に行く」というメッセージを残し失踪したようだ。彼女の変貌と失踪には肇子という女性が関わっているようだが、その女性の正体も分からない。
 時は流れ約二十年後の二〇二九年、ノーベル文学賞を受賞した日本人作家・一ノ瀬和紀が、その授賞式の前日にストックホルムで失踪してしまった。彼は、「もう一つの世界に入る」という書置きを残していた。担当編集者である駒形書林の相沢礼治は、さまざまな手段で一ノ瀬の足取りを追うなかで、北海道のある岬に辿りつくが――。

 やがて明らかになる、この岬の謎。そこでは特別な薬草が栽培され、ある薬が精製されているようで……。
 近未来から戦時中にも遡る、この国の現実の様相。

 岬に引き寄せられる人々の姿を通して人間の欲望の行き着く先を予見した、著者畢生の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 本作、近未来小説であり、SFチックであり、スピリチュアル系(ないしカルト宗教)の要素あり、失踪の謎を追うミステリーであり、と色んな要素が詰め込まれた力作。終盤、やや失速感はあるものの、読み応えのある作品だった。

    北海道、最果ての漁師町に隣接するカムイヌフ岬は、密集するハイマツの灌木と海沿いの絶壁、生息する獰猛なヒグマ、荒れる海と冬の厳しい気候が人の侵入を頑なに拒んできた。そしてこの数十年、悟りを開くかのように人格変容した人々が、その岬へ忽然と消えていた。

    キーワードは、不老長寿、人格変容、虚無の病、兵士用覚醒剤などなど。これ以上書くと、本作のネタが…。

    悪化する国際情勢、平和ボケした日本を嘲笑うかのように日本を侵食しようとする隣国。近未来(2029年)のリアルな日本の姿にも身震いした。

  • 古くからの友人が、少しずつ生活の質を変えていっていることに気づく…。
    そのうち連絡も途絶えてしまう。

    そこから始まる謎の岬の様子。
    不可解な失踪。

    これは、人生をどのように過ごすのか…と問われているような気がした。

    さまざまな欲望を捨てて生きるのが正解だとは思えないのだが。
    無欲に粛々と…自分を律することも厳しい。
    現実をしっかりと見て…と言われた気がする。

  • このままの状況で文明が行き着く先とは――?|篠田節子さん新刊『失われた岬』 | 本がすき。
    https://honsuki.jp/pickup/50268.html

    「失われた岬」 篠田 節子[文芸書] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000356/

  • ❇︎
    篠田節子/失われた岬

    全575ページ
    あまりにも壮大。
    いくつもの時代を跨いだ歯車が噛み合い
    ながら同時に狂いあった深淵な物語でした。

    薬物、カルト、戦争、相当複雑でした。

  • 友人夫婦、若手実業家の恋人、ノーベル文学賞受賞作家が次々に謎の失踪。
    彼らは北の、「とある岬」に向かったことがわかる。
    どんな理由で、なぜ北海道のこの岬だったのか、その真実を追うストーリー。

    子供は親を若手実業家は恋人を探しに岬へ向かう。熊がでるこの土地は地元の人でも近寄らない。
    ハイマツだらけの獣道のような一体を歩き、必死に探しに行く家族や友人。筆力のある著者の緊張感のある描写は、若手実業家が熊に襲われるシーンでは、リアルで思わず本を閉じてしまいたくなるほどだ。

    時代は20年後、ノーベル平和賞を受賞した作家もこの岬へ向かい行方不明に。
    この岬に何があるのか、謎が更に増していく。
    やがて、この岬は特殊な力がある風土で動植物から新薬を作っていることがわかる。
    そこは、静寂な不老長寿の死の国だった。
    岬へ向かい「向こうの世界」へ足を踏み込んだ人、その人を助けたい人、
    戦時中の薬剤会社、研究者、恋人を救いたい男、それぞれの思いと欲望が歴史や文化、哲学とともに複合的に絡み、約20年の時を経て謎が少しずつ紐解かれていく。
    人や社会に役立てたい個々の思いは、時の流れと共に歪んだ物欲や保身に変わっていた。それは人の命を奪い、自然や産業を壊し、領土の奪い合いにもなることも。
    物語の終焉は、隣国との緊張感が更に高まっている近未来だ。

    謎の岬から国家間の緊張状態が深刻化するまで、時代を大きく渡り物語は展開される。
    生きることの辛さや、生きるために闘う、その思いの先にあったものとは、、、
    ここに描かれる人々の「欲」や「念望」「苦しみ」を通して人間的に生きるとは?今、その時代を生きることは?を根底から考えさせられる長編大作。

  • 最初はごく自然を愛するやれハーブだの持たない暮らしだのから始まり、徐々に宗教チックな物語化と思ったらすごく壮大な話だった。
    戦時中~近未来までの話がまさか、ここまでつながっているとは。
    あと岬って何のことだろうかと思ていたら製薬が関係していたなんて…とか
    とにかく予想以上にスケールがでかい。
    薬物中毒等でもう人間として終わってると言ってしまっても過言ではない人々が
    欲望を全て失う代わりに聖人のようなある種の廃人間になっていく様、という言葉がぴったりなのかもしれないけれど。
    読み進めるうちに、ふと原作版ナウシカの「清浄と汚濁こそ生命だ」というセリフと読みながら思い出した。
    人間ってまさに清浄と汚濁だ。

  • 戦争前から過去にわたる長い期間、岬にまつわる生薬の謎を解いてゆく長編。
    冒頭はサスペンス的に後半は薬の開発について。

    将来の日本の様子や諸外国の様子の描かれかたが篠田さんらしい批判を映したものになっておりとても共感した。

    欲が抑えられないのは不幸だけど、何も欲しなくなるのも不幸に見える。どちらも病に思えてしまう。
    欲深い大国によって今現在侵略戦争が起きているけど、これもまた欲が抑えられない病なんだろうな。

    人間って愚かだな。

    前半の神秘的な話が(大変面白い)
    後半は記者が取材して得た情報のみになる。後半が主な説明なのだけど長いうえに知りたかったことがかかれなかったので★3つ

  • 現代から戦後、近未来までを描く、長大なスケールの物語でした。
    前半はぐいぐい引き込まれましたが、後半スローダウン気味に…果たして作者は何を言いたいのか?失われた岬とは何なのか?
    一読した自分なりの感想ですが、幸福とは何か、人々の欲望の行き着く先はどうなるのか、を考えさせられました。人の欲望は歯止めがきかないもので、他者を侵略してまで満たそうとする。
    対立国に脅かされる近未来はぞっとするものがありました。
    岬で調合された薬、サラームは欲望を失くし人を「覚者」にする効能があるらしい。その仙人のような生活を静穏と見るか、究極の引きこもりと見るかは別として。
    岬とは、人が人としてあるがままに自然を受け入れ静謐に生きる、ある種の理想郷だったのかもしれません。その結末は、タイトル通り失われてしまいましたが。

  • 各章ごとに語り手と時間軸や時代背景が異なり、頭を整理しながら読まないと迷子になる。
    中盤以降は、薬の教科書かと思うくらい細かく難しい事が書いてあり中々読み進まなかった。
    薬物、カルト宗教、戦争の歴史から現在未来の日本人への警鐘。600ページ弱の超大作ではあるけど、いろんな事が詰め込まれすぎてて、久しぶりの長編だったせいもあり疲れ果ててしまった。

  • 人間が生を受けて生きるとはどういうことなのか。学び、結婚し子供を作り、金を稼ぎ欲しいものを買う、それが集合すれば文化や文明、国家となる。一方、ただ一本の草のように自然の一部となって暮らす、そういう選択もあるんじゃないの? しかしその選択はどうなのか、そんな問いを、北海道の岬にまつわる謎とからめ、1945年から2029年と84年の時空を渡り、サスペンスフルに描きだす。

    冒頭、慕っていた友の生活がだんだんシンプルになりついには連絡がとれなくなる様に何だ?となり、そして後半の岬の謎が明かされていく様にぐんぐんひかれ、最後の2029年の社会設定にうなる。現在でもいやな片鱗はあるが、それがちょっと進んでしまっている。
    篠田氏の短編「エデン」もちょっと思い浮かべた。

    北海道の旭川から日本海に抜けたカムイヌフ岬。ここが舞台。

    前半は、だんだん物の無い生活になってゆき、愛犬さえも手放した母から「自分の居るべき場所がみつかった」という手紙を受け取った娘、また恋人を追って岬に入り、両目を熊にえぐられた青年実業家、などが出てきて、謎の岬と、物の無い生活、の疑問がふくらむ。岬は戦時中日本軍の毒ガス工場があった、という噂を村人は口にする。

    展開は後半、時は2029年、ノーベル賞の受賞式直前に行方不明となった作家が、どうやらその岬にいったようだ、と出版社の社員とフリー記者が作家を見つけ出す過程で、カムイヌフ岬の謎が露わになる。やはり岬には何かあり、ある製薬会社の研究者でアイヌの村にはいった男に行きつく。男に何があったのか、何を見つけたのか・・・ 製薬会社社長の孫、孫と大学院の同窓生、アラスカの植物研究家、などが連なり、戦後の岬の系譜がつながってゆく。

    最後に辿り着いた高樹博士の人生語りの報告書が頂点でありこの物語の原点だと思った。戦争にともなう思想がもたらすもの、もたらされたもの、だ。

    おもしろかったのが、この近未来の2029年の設定だ。北朝鮮の爆弾は日本に着弾している、池袋ではイスラム系の寺院が増え、そこにテロの爆弾が降る、といった具合。最後にはある火山が爆発するのだ。「ブレードランナー」のあの荒廃した世界をも思わせるが、人々は携帯のアラートにちょっとびっくりはするが、少したつと落ち着いて、日常の生活に戻るのだ。

    また、岬に入る者は、物欲や食欲、性欲も無くなっているようなのだ。それが「自然の一部として生きる」といえばそうともいえるが、クラークなどSF小説でかなりな未来になると、子供も生まれなくなり停滞している静かな世界、といった設定がいくつかあり、そんな遠未来もちょっと思い浮かべてしまった。・・が篠田氏の描いた岬はちょっとちがうかな。

    2021.10.29初版 図書館

    篠田氏インタビュー 本が好き
    https://honsuki.jp/pickup/50268.html
    「肥大化した欲望の先には一体何があるのか。そこを探ってみたくて」
    「謎の場所や得体の知れない何かに心惹かれます。それで、自分に近い人が病気や死ではない何かに奪われていくというシチュエーションを、SF的解明ではない手法で書いてみたい、そこに滅びゆく文明や産業問題、資源戦争といった視点を結びつけたいと考えました」

    今週はこれを読め (牧眞司)web本の雑誌
    https://news.ameba.jp/entry/20211116-1000/

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田節子の作品

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