- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041111680
作品紹介・あらすじ
人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。わたしは、そんな厄介な性質を抱えている。
高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。(「イミテーション・ガールズ」)
探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい――。(「スケーターズ・ワルツ」)
精緻なミステリ×重厚な人間ドラマ。じんわりほろ苦い連作短編集。
感想・レビュー・書評
-
本格探偵推理小説ですね。
「星空の16進数」の私立探偵みどりの五話の成長物語。
高校時代に初めて探偵の真似事を経験。
この頃から真相の究明に必要以上の好奇心に駆られることに気付く。
二話の大学時代にも友達から真相の究明を頼まれるのを切っ掛けに乗り出すが、解決が人を傷付ける事になっても、謎解きの解明に躍起に成ることに気付く。
殺人事件の話はありませんが、探偵に夢中になって危ない目にあったり、無茶な捜査にのめり込み性格が顔を出す。
探偵のジレンマをテーマにしているように思える作品です。
読みやすい作家さんなのですが、あまり後味が良くないかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
普通のミステリーかと思いきや依頼者のほうも癖があり、物語が二転三転して面白かった!
鍵の話はその後犯人は捕まったのかドキドキした展開。
ピアニストの叙述トリックにはまんまと嵌められて悔しかった~。主人公の好奇心はまさに、深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいている でした。 -
自身が気になったことは、周りにどう思われるかがストッパーにはならず、とことん解明する。
そんなところにヒヤヒヤしたり、自分が依頼した側だとしたらなんて事してくれるんだという気持ちにもなる。
しかし!鍵の話の結末では、この後どうなる!?と好奇心全開となってしまった。
どの話も全くトリックは見破れなかったどころか、全く違った予想をしていたりだったので、ほほ〜となるばかりだった。 -
❇︎
逸木裕さんの小説、2冊目を読了。
イミテーション・ガールズ 2002年 春
龍の残り香 2007年 夏
解錠の音が 2009年 秋
スケーターズ・ワルツ 2012年 冬
ゴーストの雫 2018年 春
一人の人間の年を経ても変わらない本性と、
様々な経験を積むことで得る成長と変化の物語。
人の隠された謎を暴くことに魅せられたみどり。
例え、相手が不幸になるとしても、
謎を暴くことがやめられない。
それはまるで、流行り熱のようでもあるし、
これまで気づかなかったみどりという人間の
秘めた本性だったのかもしれない。
人の謎を暴く、という行為への執着に共感は
出来ませんでしたが、
その衝動を止められない、と言い放つみどりの
自分勝手さに嫌悪感を感じつつも、
何かを失っても手放せないぐらいに
夢中になるとは一体はなんだろう
と考えさせられました。
表紙のデジカメは人生の友か戦利品か、
もしくは自分への戒めか。
-
高校時代に同級生から頼まれた尾行をきっかけに、榊原みどりは人の本性を見ることに喜びを感じる自分に気づいた。探偵となった彼女が巡る季節の中で関わる事件を描いた連作短編ミステリ。
季節とリンクする短編に加え、みどりが学生時代から探偵としてキャリアを積む姿までを連作で描くという構成になっている。主人公が人の本性を暴く性質を持つというだけあって読後感は苦め。ただ、その苦さが人と時の雫に穿たれて徐々に変わっていくところが見どころでもある。イヤミスではなく、ラストはスッキリ。
個人的に『解錠の音が』が断トツで好き。予想外の展開にオチまで奇麗に決まっていて、相棒の奥野とのかけ合いもドラマ性があってよかった。
『イミテーション・ガールズ』
高校生・本谷(もとや)怜は、親が私立探偵を営むクラスメート・榊原みどりにある調査を依頼する。好美のグループから受けているいじめを解決するために、取り合ってくれない清田先生の弱みを握ってほしい。みどりは自分には探偵はできないと断るも、調査してくれないなら家に火をつけると脅され──。
脅されたのをきっかけに初めての探偵業を経験するみどり。彼女は右も左もわからない中で、探偵の資質を少しずつ開花させ、隠された人の本性を覗き見る喜びに目覚めていく。怜の狂気を上回る狂気をもって事態を解決するという手法に血の気が引いた。偽物で塗り固められた関係の中で、剥き出しになる本性が蠱惑的。
『龍の残り香』
京大薬学部の松浦保奈美は、文学部のみどりに相談を持ちかけた。保奈美が通う香道の教室に希少な龍涎香(りゅうぜんこう)を持って行った帰り、それが盗まれてしまったのだという。犯人は君島(きみじま)芳乃先生だと確信しているのだが──。
マッコウクジラの結石・龍涎香。芳乃は龍涎香にある思い出と執着を持っていた。それをいかに穏便に取り返すかという流れから、香道の基礎、香りを当てる組香なども鮮やかに描かれてとても興味深いテーマだった。しかし、人の心ではなく、人の本性を「聞く」ことに目覚めてしまったみどりの背負う業が香る作品に。
「世界とつながるための窓がひとつしかない状態を、人は<才能>と呼ぶのかもしれない」
『解錠の音が』
みどりは大学卒業後、父の探偵会社「サカキ・エージェンシー」で働くようになった。ある時、笠井満(みつる)が依頼したストーカー調査へと着手する。自転車にかけたダイヤル式のワイヤーロックが壊された上にパンクさせられ、駐輪場の中を移動させられていたという不可解な嫌がらせの意味とは──。
みどりとペアになるのは元警官の奥野。危険地帯に踏み込みすぎるみどりに釘を刺しながら調査を進めていく。鍵の脆弱性や対策などが語られていて勉強になる。一番に鍵をかけなきゃいけないのは、みどりの好奇心だよなあって感じられる一作。オチにニヤニヤしてしまう。周りの人はやれやれ…としか思えないだろうけど(笑)
「犯罪の動機なんて、大きく分ければ<利害>か<信仰>のどちらかです。一連の犯行からは、利益が生まれているようには見えない。他人の信仰について考えてみても、馬鹿を見るだけですよ」
奥野のこの言葉は確かにそうだなと。まあ、その信仰が気になっちゃうみどりには、探偵は天職ではなくて身を滅ぼすものになってしまいそうで怖い。
『スケーターズ・ワルツ』
みどりが探偵になって六年目。彼女が休暇をとって訪れたのは軽井沢のとあるドイツ料理店だった。そこでピアノを弾いていた土屋尚子(なおこ)と思いがけず意気投合。みどりが探偵だと知ると、尚子はとある指揮者とピアノ売りの思い出話を語り出した──。
「スケーターズ・ワルツ」に端を発した過去の語りが中心。クラシックの物語が大半なので、詳しい方が楽しめそう。指揮者の苦悩、それを支えるピアノ売りの献身。その最果てに訪れた悲劇。そこからみどりが導き出した答えは、悲しいけれど希望に満ち溢れたものだった。
『ゴーストの雫』
みどりと探偵見習いの須見要(すみかなめ)が受けた依頼──それはリベンジポルノの調査だった。垣内(かきうち)健太の妹・羽衣(うい)は、恋人の鈴木和也にエアドロップで画像をバラまかれる被害に遭っていた。しかし、その恋人はいくら捜してもどこにも見当たらない男で──。
物語は新人の女性探偵見習い・要の視点で描かれる。先輩に誘われて入ったとび職で、女性という引け目から退職してしまった過去。そこから探偵へと転身した迷いをドラマで絡めながら、消息を掴めない和也を追う。要がいたからこそ、事件は報告だけではなく解決することができたというのが熱い。すべての話を読み終えて、表紙を見るとグッとくる。 -
他作品で登場する女探偵が如何なる軌跡を描いて現在に到達するかを時代を追って描かれている。
女探偵といえば、葉村晶。こちらはみどりさん。どちらもグリーンなイメージでいて、貪欲でタフで安全装置がどこかぶっ壊れている人物描写。どちらも好ましい。 -
相談相手は私立探偵
世間は様々な悩み事で相談できる相手が必要な社会となりつつある。この書では「私立探偵」として人々の悩み、相談を解決していくが、ケースによっては依頼者が「被害妄想」から「偽装」させ、「優越感」を持つ様なものまであるのが現代だ。「独りよがり」で「自己満足」の目的で仲間でも犠牲にできる人間が現存し、増えていることが悲しい。それは現代社会の所為だろうか。 -
父親が探偵のみどり。高校、大学、父親の会社に就職、そして探偵になり、課長になり。「人の本性を見たい」という欲求はいつまでも変わらないけど、だんだん大人の振る舞いにはなってるんだなーと。
「龍の残り香」と「解錠の音が」が良かった。
-
榊原みどりは、探偵の父親の影響で、高校生の頃から探偵をはじめ、大学時代、社会人と、各章、探偵調査に関わる人間関係が語られる。
調査内容、結果ともに探偵業らしく、興味深く読んだ。
最後の話の語り手は新人探偵で、みどりは育休明けだった。
一冊の中で、みどりが、高校生、大学生、社会人から主婦へと成長して、面白かった。
みどりの恋愛については何も語られてないので、そこの部分が気になる。