人間腸詰 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041123256

作品紹介・あらすじ

あっしの洋行の土産話ですか。何なら御勘弁願いたいもんで。明治時代末期、大工の治吉はセントルイスで開かれる大博覧会で働くため、アメリカへ旅立った。ある夜、職場で出会った美しい中国人女性に誘われるがまま街へ出ると、不気味な地下室に連れ込まれる。そこで治吉が眼にしたのは、ガリガリと耳障りな音を立てて稼働する謎の肉挽機械だった……。幻想と猟奇趣味に彩られた粒ぞろいの短編全8編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 本書も図書館でお借りした一冊です。
    貸出期間が15日までの為、実質的に明日の返却を予定している中、なんとか読了間に合いました^^;
    いつもギリギリなんですよね(^_^;)

    「人間腸詰」「木魂」「無系統虎列剌」「近眼芸妓と迷宮事件」「S岬西洋婦人絞殺事件」「髪切虫」「悪魔祈禱書」「戦場」の8作がおさめられた短編集ですが、表題作からしてなんとな~く不気味な要素が...((( ´ºωº `)))ガタガタ

    まぁ、でもこうでなくっちゃ夢野久作じゃないですよね。


    <あらすじ>
    「人間腸詰」は、明治時代の大工がセントルイス万国博覧会で働いていたときに、ギャングの罠にはまり、恐ろしい体験をするという物語です。主人公の治吉は、台湾館の建設に携わり、博覧会の客引きもしていました。そこで、中国人とイタリア人の混血の美女チイチイに誘惑され、彼女の恋人であるギャングの親分カント・デックのアジトに連れて行かれます。デックは、治吉に盗んだ宝石を隠すためのカラクリ箱を作らせようとしますが、治吉は拒否します。すると、デックは治吉を脅迫するために、人間を肉挽き機械にかけてソーセージにするという残虐な見せしめを行います。治吉は気絶し、目覚めるとコンクリートの部屋に閉じ込められていました。そこで、台湾館での呼び込みの言葉を繰り返し唱えるのでした。

    「木魂」は、数学が好きな小学校教師の物語です。主人公は、妻と子を相次いで亡くした後、自分の声に呼びかけられる感覚に悩まされます。その声は、数学の着想に熱中しているときや、汽車に轢かれそうになるときに聞こえます。主人公は、その声が自分の心の中にある「木魂」という存在であると考えます。木魂とは、自分の人生の選択肢や可能性を表すもので、主人公は自分の木魂を探求しようとします。しかし、その過程で、自分の過去や現実に直面することになります。

    「無系統虎列剌」は、法医学者が記者に語る、福岡県のB町で起きた虎列(コレラ)事件の真相を描いた物語です。主人公の法医学者は、B町の警察署に呼ばれて、斎藤という開業医の死体を検死します。斎藤は、親友の西木という獣医の家で酒を飲んだ後、虎列に感染して死亡したというのです。しかし、その時期には県下に虎列の発生はなく、斎藤がどこで感染したのか不明でした。法医学者は、斎藤の吐瀉物を検査すると、虎列菌ではなく、獣医が使う狂犬病ワクチンに含まれる犬の腸の細胞を発見します。これが斎藤の死因であることを突き止めます。法医学者は、西木が斎藤に狂犬病ワクチンを注射したのではないかと疑います。西木は、斎藤の息子と娘の婚約を反対していたからです。法医学者は、西木の家に行って、彼に事情を聞こうとしますが、西木は狂犬病にかかって発狂していました。西木は、自分も狂犬病ワクチンを注射したのだと告白します。彼は、斎藤に復讐するために、酒に混ぜたワクチンを飲ませたのです。しかし、自分も同じ酒を飲んでしまったのです。西木は、法医学者に襲いかかりますが、警察に射殺されます。法医学者は、この事件の真相を記者に話しますが、県の圧力で記事にはなりませんでした。

    「近眼芸妓と迷宮事件」は、元刑事が記者に語る、飯田町の材木屋の主人が殺害された事件の真相です。被害者の金兵衛は、無尽講の計算に行くと言って家を出たが、その夜は帰って来ませんでした。翌朝、自宅の材木置場で頭を割られた死体となって発見されました。現場には兇器や足跡などの証拠物件がなく、警察は手がかりに困りました。金兵衛には妻と一人息子がいましたが、彼らには不審な点はありませんでした。しかし、金兵衛には芳町の芸妓である友口愛子という妾がいました。愛子は強度の近眼で、メガネをかけていました。彼女は金兵衛との関係を隠していましたが、警察に尋問されると、金兵衛が殺された夜に彼と会っていたことを白状しました。愛子は、金兵衛が無尽講の計算を済ませた後、彼女の待つ花柳界へ向かう途中で、材木置場の近くで別れたと言いました。そのとき、愛子はメガネを落としてしまいました。メガネを拾おうとしたとき、彼女は材木置場の中で何かが動くのを見ました。しかし、近眼のためにはっきりとは見えませんでした。愛子は、その動くものが金兵衛の殺害現場を目撃したのだと気づきました。しかし、彼女は犯人の顔を見ることができませんでした。愛子は、金兵衛の死を知っても、自分の関係を隠すために黙っていましたが、警察に追い詰められて、やっと話しました。警察は、愛子のメガネを探しに材木置場へ行きました。すると、メガネの近くに、金兵衛の頭を割ったと思われる金属板がありました。金属板には、金兵衛の血と、犯人の指紋が付いていました。指紋から、犯人は金兵衛の息子である長男だと判明しました。長男は、父親が妾を持っていることに腹を立てて、殺害を計画したのです。長男は、父親が無尽講の計算に行くときに、金庫から金を持ち出すのを見て、それを奪おうとしました。長男は、父親が芸妓と別れた後に、材木置場で待ち伏せして、金属板で頭を殴りました。長男は、金と金属板を持って逃げようとしましたが、愛子のメガネを踏んでしまいました。長男は、メガネを拾って、金属板と一緒に材木置場の中に隠しました。しかし、そのときにはすでに愛子に目撃されていたのです。長男は、警察に逮捕されて、殺人強盗の罪で起訴されました。

    「S岬西洋婦人絞殺事件」は、大正時代にR市のS岬で起きた西洋婦人の殺人事件を題材にした短編小説です。事件の被害者は、石油会社の支配人であるJ・P・ロスコー氏の妻マリイ・ロスコー夫人で、彼女は自宅の寝室で絞殺され、暴行を受けた後に刺青を施されていました。事件の犯人は、万能鍵で玄関の扉を開けて侵入し、何も盗まずに逃走したと推定されます。事件の捜査には、倫陀病院の助手で探偵小説のファンである弓削医学士が関わります。彼は、ロスコー家のコック兼小使である東作爺を発見し、彼が事件の重要な証人であることを突き止めます。弓削医学士は、東作爺の証言や現場の状況から、事件の真相に迫っていきますが、その過程で驚くべき事実が明らかになります。

    「髪切虫」は、触角で宇宙の波動を受ける髪切虫が、クレオパトラの生まれ変わりだと思い込んで、彼女の髪を食べるという奇妙な物語です。髪切虫は、エジプトの女王の悲哀と恋心を感じ取り、自分も彼女に恋をするようになります。しかし、彼女は髪切虫をただのおもちゃとして扱い、死んだ後も彼を木乃伊にして棺に納めます。髪切虫は、来世で彼女と再会することを夢見ながら、永遠に髪を食べ続けるのでした。
    この物語は、夢野久作の代表作の一つで、彼の独特な幻想と風刺が見られます。髪切虫は、人間の愚かさや虚しさを暴く存在として描かれています。また、髪切虫の触角は、宇宙の神秘や超自然の力を象徴しています。この作品で、人間と虫の境界を曖昧にし、人間の本質を問いかけています。

    「悪魔祈禱書」は、雨宿りに立ち寄った古書店で、店主から不思議な話を聞くことになります。店主は、ある日、聖書のような本を買い取ったが、それが本物の悪魔祈祷書だと気づいたと言います。悪魔祈祷書とは、堕天使ルシファーを召喚して書かせた悪魔の聖書で、世界は原子と悪によって構成されており、人間の歴史は悪徳と欲望の歴史だと主張しているというのです。店主は、その本を読んでいるうちに、自分の心にも悪の種が芽生えてきたと感じるようになります。そして、その本の最後には、悪魔祈祷書の読者に対する恐ろしい呪いが書かれていることを明かします。
    夢野久作の悪魔祈禱書は、悪魔やオカルトに関する作品の先駆けとして、日本の幻想文学に大きな影響を与えた作品です。夢野久作の他の作品と同様に、現実と非現実の境界が曖昧になり、人間の心の闇が浮かび上がるという特徴があります。

    「戦場」は、第一次世界大戦中にヴェルダンの戦闘に参加したドイツ軍医の体験を描いた短編小説です。著者は、この作品をポーランド生まれのドイツ医学博士オルクス・クラデル氏から送られた論文として紹介しています。物語は、クラデル氏が1916年にベルリンの市役所から軍医中尉として戦線に赴くところから始まります。彼は白樺の林にある衛生隊のキャンプに到着し、そこで戦争の恐怖と悲惨さに直面します。彼は死傷者の手当てや運搬に追われながら、戦争の無意味さや残酷さに嘆き、呪咀します。物語は、彼が戦場で見た光景や感じた感情を詳細に描写しながら、彼の心理的な苦悩と崩壊を描き出していきます。


    全身が粟立つ、恐怖世界の万華鏡!

    あっしの洋行の土産話ですか。何なら御勘弁願いたいもんで。明治時代末期、大工の治吉はセントルイスで開かれる大博覧会で働くため、アメリカへ旅立った。ある夜、職場で出会った美しい中国人女性に誘われるがまま街へ出ると、不気味な地下室に連れ込まれる。そこで治吉が眼にしたのは、ガリガリと耳障りな音を立てて稼働する謎の肉挽機械だった……。幻想と猟奇趣味に彩られた粒ぞろいの短編全8編を収録。

    著者について

    ●夢野 久作:1889年、福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇味と幻想性の色濃い作風で名高い。1936年歿。

  • 文体に時間の流れ、落語っぽさを感じた。

  • 再読本
    と言っても、読んだのはもうふた昔も前になる。
    ただ、奥付を見たら改版初版のようだ。
    もちろん違いなんて分かるはずもなく(笑

    かなり久しぶりの再読なんだけど「人間腸詰」「木魂」はなんとなく読んだ記憶があった。
    なんとなくのイメージとしての記憶だけど。

    一番好きなのは「戦場」
    とにかく引き込まれる。そして感情が忙しい。
    迫力のリアリティで戦争を語ったかと思えば、ハインリヒとの神秘的な交流が始まる。と思ったらまた戦争の恐ろしい描写が始まり……と、展開が目まぐるしいけどとても面白い!

    作品によっては思ってた以上に装飾過多な文章でとても驚いた。
    (というか、作品ごとに語り口が違いすぎるのよね)
    「髪切虫」のポエムは半分流し読んでしまったよ……ごめんね……

  • なんというひどいタイトル笑
    しかも比喩的表現かと思いきや、マジメに人間ソーセージでした。恐ろしい。
    いつも度肝を抜いてくれる夢野久作先生です。

  • 913-Y
    リクエスト図書展示コーナー

  • 表題作のタイトルのインパクトよ。
    殺人事件を扱っている作品もあるがミステリーというより猟奇サスペンスの方に片寄っている感がある。『戦場』は『西部戦線異状ない』から想を得たのだろうか。
    この人の作風なのか、独白形式が多いがそれもあってか読みやすい。

  • 夢野久作お得意の独白体の物語。
    独白体故、事実か嘘か読者に決定は出来ない。
    だが、誇張の入った面白い話は全てこうしたパラドックスを含んでいるものだ。

    アメリカが遥かなる国であった時代。
    遥かなる国は、想像の国でもある。
    想像には羽根がつくので、想像力はドンドン飛翔していく。
    ましてや、この語りを確かめることはだれにも出来ないのだ。
    語り手が調子に乗って、あることあること、あることないこと、そしてないことないことをいくら喋っても、それは違うとは誰も言えないのだ

    物語に登場するアル•カポネのようなギャングが「カント•ディック」と命名されているのが笑ってしまう。
    アメリカに行った語り手の主人公が、アメリカでまっさきに覚えたスラングに違いない。
    何せ、「カント•ディック」とは、直訳すると、「ま◯こ•ち◯こ」なのだから。
    彼(?)はきっとアンドロギュヌスに違いない。
    聞き手に、「カント•ディックは日本名だと何と言うのか」と問われて、語り手はニヤリと笑って、嬉しそうに答えるのだ。
    そして、語り手、聞き手共に大笑いをすると言う寸法だ。

    表題の「人間腸詰」はそのアンドロギュヌス•ギャングが、語り手である主人公を脅すために使うミンチ用の巨大な機械から来ている。
    (語り手によれば)主人公を救うために、美女がその機械に放り込まれて、ミンチ美人になってしまうと言うブラック•ユーモアだ。
    夢野久作の作品はこうしたブラック•ユーモアのレベルで終わる短編が多い。
    しかし、彼の真骨頂は、「ドグラ•マグラ」や「押絵の奇蹟」のように、同じ一人称独白体の自己言及パラドックス構造を持ちながらも、ブラック•ユーモアの地平を超えて、真に狂気のレベルに達する作品にある。
    夢野のブラック•ユーモア作品に飽きたら、「ドグラ•マグラ」に赴くべし。

  • おもしろかった〜!!!
    特に人間腸詰がすき
    普通にグロいしフイちゃんがひき肉になるとこ「オオ……」ってなっちゃった
    あと木魂……!
    最後…!めっちゃ気持ち悪く(いい意味)終わったぁ〜!!!
    ああいう終わり方大好き!!!!
    自分が電車に轢き殺されたの分かってないじゃん…。
    ただ狂気。すごい。
    そして戦場…!
    言葉の言い回しがン〜!!!ステキ!!!!
    やっぱり夢野久作はいいなぁ

  • 読む時代を間違えた

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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