THE LEGEND & BUTTERFLY (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041132104

作品紹介・あらすじ

尾張の大うつけ・織田信長のもとに、美濃の濃姫が嫁いできた。
和睦のための政略結婚。
偉ぶる信長と気の強い濃姫がうまくいくはずもなかった。
しかし桶狭間の戦いを皮切りに、敵だらけの戦国の世をともに駆け上がるうち、
ふたりはいつしか強い絆で結ばれていく。
そこには魔王と呼ばれながらもひとりの人間として悩みもがく信長と、彼の隣に立ち続ける濃姫の姿があった。

歴史の謎につつまれた、信長と濃姫の愛と激動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 信長は病になった濃姫を看病する。現代風に言えばワークライフバランスの介護休暇である。この時期の信長は柴田勝家を北陸方面、羽柴秀吉を中国方面、佐久間信盛を大阪方面、光秀を畿内方面、滝川一益を関東方面と、方面軍制度を進めた。信長自身が陣頭指揮せずに各地で並行的に領土拡大を進める画期的な仕組みである。実は信長自身の負担を減らすワークライフバランスのための発明となると面白い。

    光秀は信長が帰蝶を看病することに不満である。ワークライフバランスを認めようとしない。1992年のNHK大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』では光秀が信長に働かされ過ぎて過労死寸前に追い込まれて本能寺の変を起こしたと解釈した。過労死が社会問題化した時代を反映している。『レジェンド&バタフライ』では逆に光秀が信長を頑張らせようとしている。信長のようなトップでも組織から見れば役割を果たすことが求められる歯車になる。

    『どうする家康』との対比では徳川家康にも注目である。斎藤工さん演じる家康は本能寺の変直前の安土城での饗応で登場する。光秀が饗応役となり、信長からパワハラを受ける展開が定番である。『麒麟がくる』の信長は卑怯にも徳川家康の反応を見るための演技だったと言い訳した。『レジェンド&バタフライ』も単純なパワハラではなかった。

    ここでの家康は織田家の事情を見透かす大物感たっぷりである。天下人になるだけの存在と思わせる。『どうする家康』の松本潤さん演じる序盤の家康からは想像できない。『どうする家康』の家康も変貌していくのか、それとも「どうする?」状態のままなのだろうか。

    『レジェンド&バタフライ』には映画『タイタニック』を連想させる演出がある。2023年2月は映画『タイタニック』の劇場公開25周年を記念した『タイタニック ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』が上映された。

    本格時代劇を期待する向きには『タイタニック』的演出に異論があるかもしれない。『どうする家康』は第5回「瀬名奪還作戦」の駿府での瀬名奪還作戦や第7回「わしの家」の本證寺潜入と創作話を入れている。創作話を入れる点が古沢脚本の時代劇の特徴だろうか。

    『タイタニック』的演出に賛否はあるだろう。終盤に登場するため、映画そのものの印象が恋愛映画となる。しかし、本当にやりたいことは天下統一の役割を果たすことではなく、社会の制約から抜け出すことが自由と言いたいのだろう。それは21世紀人の価値観を戦国時代に押し付けることとの批判が出るかもしれないが、戦国時代にも荒木村重という、それまでの人生を捨てて生きた人物がいる。信長と濃姫の夢を出鱈目と切り捨てる方が逆に歴史に浅いかもしれない。

  • 題名は「レジェンド・アンド・バタフライ」と読む。英語の題なのだが、実はこれが“時代モノ”なのである。
    本作は「織田信長夫妻」の物語である。
    織田信長と言えば、虚実入り混じって色々なことが伝わっていて、劇中人物として登場する小説や映像作品は夥しい数になると思う。そうした小説や映像作品には多く触れているが、それでも網羅しているのでもない。伝わっている様々な行動に関しても、多様な解釈が在り得て、興味尽きないという人物であると思う。
    美濃国から尾張国へ、信長に嫁いだ女性は「美濃」から採った“濃”という呼び名で知られている。幾つか名が伝わっているようではあるのだが、彼女についても劇中人物として登場する小説や映像作品は夥しい数になると思う。本作では専ら濃という呼称だ。夫の信長に関しては、吏僚として近侍していたという人物が綴ったとされる伝記的な記録や、軍事紛争の指揮官として、為政者として前面に出ている関係上、伝わっている事柄も豊富だ。対して濃という女性に関しては、詳しく色々な事が伝わっているのでもない。有名な武将の周辺に在った女性―妻や娘―に関しては、年齢を重ねて“〇〇院”等と号しての活動が伝えられている例も在るが、この濃に関してはそういう話しは聞かない。故に「想像の翼が羽ばたく」という余地も大きいかもしれない人物であるとも思う。
    本作はこの“織田信長”と“濃”との「夫婦としての歩み」に光を当て、嫁いだ際に出会って以降の信長の歩みの中での「夫婦」の経過を描いている。“織田信長”と“濃”の2人が主要視点人物で、信長目線の部分と濃目線の部分とが概ね交互に折重なっている。出会いと、そこからの年月の経過の中、互いに互いの存在に関する意識が変遷し、信長が「途轍もない“ビッグネーム”」になって行く中で、互いに「直截に語り合い悪い」というようになって行く関係性というように物語が展開する。凄く惹かれた。
    実は本作は、「近く公開される映画のノベライズ」なのだそうだ。映画の脚本を下敷きに綴られた小説である。それ故か「画が思い浮かぶ描写」が連なっている。そういう中で、“合戦絵巻”というのとも一味違う具合で、「覇道を往く魔王」という振舞いをしようとする信長と、その陰に在った濃という「夫婦の物語」が展開する。本作だが、映画と無関係に「やや新しい着想」の時代モノという感じで愉しかった。その他方、本作の下敷きになった脚本を使う映画も、機会が在れば観たいというようにも思った。所謂「メディアミックス」というようなことで本作は登場したのかもしれないが、本作も御薦めしたい。

  • (2023日)
    映画ノベライズ

    信長と濃は夫婦となった。
    しかし、弱味を見せられぬ二人は、お互いの気持ちを誤解したまますれ違っていく。
    同じ目線で物事を捉え、対等に話せる二人は共に歩めたはずなのに…
    素直になれない夫婦が、すれ違いと共に歩む覇道物語。



    (同じ脚本家の)大河ドラマの信長との差別化なのか、こちらの信長はイメージが違って戸惑いました。(むしろ大河ドラマの信長でも良かったような…?)
    信長は、ハイスペックで無敵の魔王であってほしい。

    逆に、女子であることを悔しく思う程に気の強い濃姫に惹かれました。
    気が強くないと、きっと魔王の妻なんてできない。

    でも、私が今まで見た小説やドラマやゲームの信長は最初から最後まで“魔王”だったので、“魔王で在ろうとする信長”を見たのは初めてかもしれません。

    そして、意地っ張りな二人がようやく素直になれてきたところに起きた歴史的大事件。

    南蛮エンドかと思いきや、まさかの夢オチ!?

    南蛮の夢がとても幸せだっただけに、実際の終わりは切なく苦いものでした…

  • 信長と濃姫の関係を軸に進む物語。

    映画も絶対に見ます。

    映画の予告編を劇場で見て興味を持ち、本屋でたまたまノベライズを発見したので購入。

    歴史小説あまり読んだことがなく、
    とっつきづらいイメージを持っていた。

    と思いきや
    一文一文が短くて、リズミカル、心理描写も簡潔であり、胸にぐさっとくる。
    読んでいて感情移入がしやすかった。

    歴史上の人物って、なんか、尊大なというか、すげえ人だったんだっていう側面だけ見てしまいがちだけど、
    そんなことはないなって気付かせてくれる物語でした。

    普通に悩むし、夫婦関係もなかなかうまくいかんし、もがきながら生きてたんだろうなあと、
    すこし解像度があがったような気がする。

    自信持ってオススメできます。
    登場人物が多いので、整理しながら読むといいと思います。

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著者プロフィール

1976年福岡県生まれ。2008年『蛇衆』で第21回小説すばる新人賞を受賞。その後、『無頼無頼(ぶらぶら)ッ!』『兇』『勝負(ガチ)!』など、ニューウェーブ時代小説と呼ばれる作品を手がける。また、『戦国BASARA3 伊達政宗の章』『NARUTO-ナルト- シカマル新伝』といった、ゲームやコミックのノベライズ作品も執筆して注目される。’21年から始まった「戦百景」シリーズ(本書を含む)は、第4回細谷正充賞を受賞するなど高い評価を得ている。また’22年に『琉球建国記』で第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。他の著書に『清正を破った男』『生きる故』『我が名は秀秋』『戦始末』『鬼神』『山よ奔(はし)れ』『大ぼら吹きの城』『朝嵐(あさあらし)』『至誠の残滓(ざんし)』『源匣記(げんこうき) 獲生伝(かくしょうでん)』『とんちき 耕書堂青春譜 』『さみだれ』『戦神(いくさがみ)の裔(すえ)』および『THE LEGEND&BUTTERTLY』(ノベライズ)などがある。

「2023年 『戦百景 大坂冬の陣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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