キッチン常夜灯 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 1286
感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041139875

作品紹介・あらすじ

35歳の南雲みもざは、「女性活躍」の風潮に乗り、勤務先のレストランチェーン店の店長になるも、自分には向いていないことがわかっている。かといって、自分の夢と呼べるものもない。このままでいいのかと自問自答する毎日だ。レストランを閉めるともう深夜に近い。空腹を抱えて帰っていた彼女は、ある時、いい店があると教えてもらう。みもざは、温かな灯りが灯った店立ち寄る。看板には「キッチン常夜灯」とあった。こぢんまりとした店内では、女性の一人客がスープを飲んでいた。同じものをオーダーすると、スタッフから「シェフのスペシャルテのガルビュール」だと教えられる。疲れた体に染み渡るようなスープと丁寧な接客、そして閉店時間を気にせずゆったりできるこの店が気に入ったみもざは、ちょこちょこ足を運ぶようになった。そして、“スープの女性”が抱えた秘密を知る……。都会で働くさまざまな年代の人々が一瞬すれ違う温かなお店。シェフが提供する料理と客のエピソードによる心温まる物語。

感想・レビュー・書評

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  • 昨日書いたレビューに『多分、今年最後の一冊』と書いてしまったが、ようやく落ち着いた大晦日、TVも観たい番組が全くなく、速攻でもう一冊読み終えることが出来た。
    「ほどなく、お別れです」の作者さんになるこの本、一年の終わりに、来年もまた頑張ろうと思える、とてもよい話を読めて良かった。

    チェーン系レストランで店長を務める南雲みもざが、上階の火事のせいでマンションの部屋を焼け出されるところから始まる物語。
    仮住まいの会社の倉庫の一室での勝手が違う生活に疲れがピークに達する中、路地裏で夜から朝にかけて営業するレストラン「キッチン常夜灯」にたどり着く。

    無理やり押し付けられた「店長」という鎧が『店では分不相応な責任感を与え、店を出ても緩やかに私を締めつづけていて、少しの弱音も吐かせてくれない』というみもざの心情は、同じように背伸びをしながら仕事を続けてきた身としてはとてもよく分かる。
    だからなのだろうか、寡黙なシェフが作る温かくてやさしい料理とそれを食べているみもざの様子を読んでいるだけで、心の中にじんわり暖かいものが広がっていく。
    至福の料理とそこに集まる様々な人たちと交わることで心を溶かしたみもざが、唯一の社員である永倉との関係を作り上げながら、その鎧を緩やかに脱ぎ捨てていく過程にも共感。
    みもざと中華料理店を営む父、シェフとその母、訳ありの客・奈々子さんとその夫など、折々に語られるそれぞれの人間関係は物語の背景として活きていて、且つ仕事と家庭ということについて考えさせられた。

  • 夜中に営業しているキッチン常夜灯。
    お客さんにそっと寄り添い、温かで美味しい料理を出してくれる。
    料理小説が好きでよく読んでいるけど、最近こういう設定の小説が多い気がするなぁ。
    「同物同治」という、体の悪い部分を他の動物の同じ部分で補うという薬膳の考え方は、初めて知った。
    同物同治だと言ってトリップを食べる奈々子さんが切なかった。

  • 『キッチン常夜灯』|本のあらすじ・感想・レビュー・試し読み - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/21502030

    Tomoko Hara Illustration Portfolio
    https://tomokohara.tumblr.com/

    「キッチン常夜灯」長月天音 [角川文庫] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322304000216/

  • 水道橋にある夜21時から朝7時まで営業するビストロ「常夜灯」を主な舞台とした物語。夜間営業のレストランという点では、先日読んだ秋川滝美さんの『深夜カフェ・ポラリス』と似た設定だった。主人公のみもざは勤務先のチェーン系飲食店店長の仕事が激務でボロボロになっていた中、常夜灯に出会い徐々に元気を取り戻していく。実際にこんなお店があって常連客になれたらきっと楽しいし救われるだろうなと思った。他方、ビストロとはいえ本格フレンチを提供するお店に週に何度も通うのは経済的に厳しくないのかななどと考えてしまった。やはり自分を労ることは何より大事で、その中核には食事があると思った。

  • 初読みの作家さん。

    日々、生きていると誰もが疲れを感じる。
    でも、そこに”責任”という重い重い荷物を持たされたら
    身も心も悲鳴を上げてしまう。
    その悲鳴に気付くことさえできないことがある。
    いやいや、気付くことができないのではなくて
    全力で耳を塞いでいるのかもしれない。
    そんな時に、ほっとできる空間に出会えたら
    それはどんなに幸せで心強いことだろう。
    その空間が心身をいやしてくれる温かくて美味しい料理を出してくれる場所だったら…

    「キッチン常夜灯」はまさにそんな場所。
    一人でいることが怖くて心細い夜に
    ドアを開けると迎えてくれる人がいて、
    心まで満たしてくれる料理がある。

    『キッチン常夜灯』は美味しくて温かい時間だった。

  • 物語の始まり、プロローグ3ページ目からもう既に、この後どうなる!?な関心がぶわ〜っと膨らんだ。
    主人公の仕事が大変そうで、職場のシーンの割合は少ないのにしっかりその背景が馴染んで入っているような感じがした。
    そのうえで、キッチン常夜灯で過ごす時間や感じたことが読み手の私にもじんわり染み渡った。
    心があったかく膨らみ、物語から元気な1歩を進める力を分けてもらった気持ちになった。

  • こんなお店近くにあったらなぁ。
    気持ちがあたたかく前向きになれる。
    シェフの作るスープとアップルパイが食べてみたいなぁ。
    奈々子さんの話は泣きそうになってしまった。

  • 常夜灯というタイトルとレトロなレストランの表紙に惹かれて購入。美味しそうな料理とあたたかい人柄のシェフとスタッフがいるお店。こんなレストランが近くにあったらいいなとおもう。
    物語は特に波風がないが、登場人物の人生が語られる。それぞれがそれぞれの物語を生きており、おたがいに持ち寄って共感することで癒される。人は本能的にそういう場所を求めているのかもしれない。私もそんな場所が欲しいのと同時に、常夜灯のような存在になりたいと思った。

  • 食べ物を題材にした作品を初めて手に取ってみた。似たような作風の作品は他にもあると思うので読んでみたくなった。

    深夜から朝方まで営業している「キッチン常夜灯」。シェフの城崎さんや堤さんの人柄、店の雰囲気や料理が素敵で自分も食べに行ってみたくなった。主人公のみもざちゃんと城崎さんや堤さんの間で交わされる会話に癒され、常連客同士で繋がりができてくるのも素敵な出会いの場だと思った。個人的には、奈々子さんの話が切なくて印象的だった。彼女に安らげる場所があって良かったと心から思った(涙)

    やはり、人間にとって"食べる"ことは生きていくうえで欠かせないものであることを教えてくれた。

  • 南雲みもざにとっての、大切な場所のひとつ『キッチン常夜灯』。この店は、路地裏で夜の9時から朝の7時までオープンしている。彼女にとっては、荷が重い店長の仕事の癒し場所。眠れない夜やストレスがたまりすぎたときに、こんな場所があればいいなと思った。

    シェフが「忙しい日々こそ、丁寧に自分と向き合う時間が必要。そして、大切な相手を考えるなら、まずは自分を大切にすること」と語った言葉に同感。

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