虚像淫楽 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041356548

作品紹介・あらすじ

晩春の夜更け、聖ミカエル病院に瀕死の女性が担ぎこまれた。女はかつて病院で看護師を務めていた森弓子で、昇汞を呑んでしまったという。千明医学士は手当てを始めるが、弓子の肢体に数条のみみず張れを発見する。直後、弓子の夫が同じく昇汞を呑んで自殺。夫婦に何が起こったのか?刻一刻と弓子の様態が悪化する中、驚愕の真相が明らかになる…(『虚像淫楽』)。探偵作家クラブ賞受賞の表題作を含む初期ミステリー傑作選。

感想・レビュー・書評

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  • 「眼中の悪魔」……久生十蘭 「湖畔」みたいな手紙犯行告白ミステリー。『チーム・バチスタ』みたいな視界の欠損がからんでくる。

    「虚像淫楽」……「外科室」みたいな医師と患者の秘められた想い。「D坂」みたいなSM趣味が裏にある。

    「厨子家の悪霊」……「藪の中」みたいに事件の真相が複数の視点から異なって語られる。f.v.d.g.スティーヴンソン「ハーフ・ホワイト」みたいにハンセン病が簡単に伝染しているが実際はそんなことはない。

    「黒衣の聖母」……閨室で明かりを消してしまっただけで、ほんとに右も左もわからなくなってしまうものなのか?『エム・バタフライ』みたいに。

    「死者の呼び声」……これにも書簡が登場するが、書簡の中に書簡が、さらにまた意表を突く書簡が……。『カササギ殺人事件』みたいな多重入れ子細工ミステリー。

    「黄色い下宿人」……ホームズのパスティーシュ。漱石が出てきて推理で活躍する。”アレ”とか”アレ”みたいに。だが本作はなんと昭和28年の作品。

  • 山田風太郎の傑作短編ミステリ集である。十分面白かったが、忍法帖や明治物に比べると、今ひとつ物足りない。これが短編を積み重ねて一つの物語にする連作のスタイルならば、満足感が大きいのだが、単発で終わると物足りなく感じてしまう。ちょっと贅沢かもしれないけど。

  • 「黄色い下宿人」目当てで読む。ミステリーの中に、中国人を入れるなよ、というなんちゃらの法則を逆手にとった感じだった。

    その病気は感染しないよな……と思ったらちゃんと注意書きがありました。よかった。

    「恋罪」「死者の呼び声」はオチがよかった。

  • 黒衣の聖母が一番好き。切なさとゾッとする感じが最後心に残る。

  • 山田風太郎のミステリー傑作集。山風入門編に編んだ作品集ということで粒ぞろいの小品を集めてます。が、小品といっても侮るなかれ。氏の代表作でベストセラーにもなった忍法帖シリーズにも共通する奇想が詰まってます。
    以下簡単に雑感。

    「眼中の悪魔」。
    医師の弟から兄へ、手紙の形を借りて綴る恐ろしき計画犯罪。
    遺書であり告解であり告発。文字通り盲点を突いた話。
    彼のしたことは暗示か殺人教唆か。
    自分の手は一切汚さず憎むべき者を破滅に追いやった男を待ち受ける非業の末路とは。
    医学的知識がなければ解けないトリックより痴情の縺れを起点とする心理の倒錯を楽しみたいところ。

    「虚像淫楽」。
    過去、自分のもとで働いていた看護婦が自殺未遂の急患として運ばれてきた。
    治療にあたった医師の千明は、その全身に鞭打たれたあとだろう無数のみみず腫れを発見し……
    夫と妻、どちらがマゾでサドなのか。兄嫁を慕う紅顔の美少年をも巻き込んだ倒錯性愛の極北。

    「厨子家の悪霊」
    横溝正史か江戸川乱歩か、深い雪に閉ざされた地方の豪家で起きた凄惨な殺人事件ははたして片目の悪霊の祟りなのか?
    どんでん返しに次ぐどんでん返しで目が廻る。厨子家の後妻を惨殺した真犯人はだれだ?
    策に溺れた犯人を待ち受けるのは皮肉な運命であった。

    「蝋人」
    被害者に同情できない。

    「黒衣の聖母」
    天使のような悪魔がいるなら聖母のような悪女もいるわけでして。
    そして娼婦が聖母だったりするんだなこれが。

    「恋罪」
    駆け出し小説家のもとにかつての旧友から届いた手紙にしるされた驚くべき内容とは。
    山田風太郎はどうやらサドマゾ嗜好に興味があるご様子で、「虚像淫楽」に引き続きこちらも夫婦間の倒錯した性生活に焦点を当てている。それを目撃した男の悲劇。山田風太郎への手紙の形式をとって綴られるのだが、作者への呼びかけに透けて見える屈折した羨望や憧れに萌えてしまった。

    「死者の呼び声」
    騙すものは騙されるもの、殺されるものは殺したもの。二重三重の傀儡悲喜劇。あえて無関係な第三者を冒頭の語り手に指定する導入部が上手い。
    「封筒の中の探偵小説」「封筒の中の封筒の中の探偵小説」というサブタイトルの仕掛けが憎い。
    話が入れ子細工になっているので次第に虚実の境が曖昧になってくる。

    「さようなら」
    これもまた愛の形。警察はやっぱ身内殺しに厳しいのか。

    「黄色い下宿人」
    ホームズパスティッシュの傑作。本家では言及されるだけで終わる事件を扱って読者を納得させるだけの説得力をもたせるのもすごい。ドイルの訳文を意識してるのか、文章もまた本家と比較して遜色ない。
    原作のホームズはつんと澄ました、見ようによってはやな奴なんですが(そこが素敵)山田風太郎のホームズは愛嬌があって憎めない。
    しかしかの名探偵ホームズが一杯食わされる話でもあるので、本家ホームズファンの中には怒る人もいるかも。
    謎の日本人留学生・棗の正体にも注目。

  • 忍者の話ばっかりというイメージがあり、短編は意外と作者の力量が表れるところがあるので正直あまり期待していなかった。
    しかし読み始めて見たら内容の秀逸さに驚き、集中力をもってして一気読みしてしまった。
    戦後あたりの時代を私が好きなのもあるが、黒衣の聖母が一番残酷な結末だった。

  • 山田風太郎は本物のストーリーテラーであることが分かるし、本当に文章が上手い。長いことずっと忍法帖のイメージしかなかったのだが、ここ何冊かでそれは大きく覆った。ここには9つの短編が収録されているが、いずれもが変幻自在なアイデアに満ちている。その視点は人間の深層を探り、戦争を憎み、何よりも小説的な面白さの追求に向けられている。
    「厨子家の悪霊」と「黒衣の聖母」が好きだ。

  •  山田風太郎の初期ミステリー傑作選。

     今まで作者の忍者物と明治物ばかり読み漁っていて、ミステリーの方は手に触れることがなかったのですが、読んでみたら、やはり山田風太郎、読み応えのある作品ばかりでした。

     忍者物に通じるエロティシズムや一筋縄ではいかない奇想天外なストーリー構成などが展開し、作者の魅力を再発見した感じでした。

     特に、人間の深い心の闇の部分を描写したストーリー展開は、ある意味人間ドラマのリアリズムを追求したようで、とても興味深かったです。

     まだまだ人について理解が不十分であることを実感しました。

  • 山田風太郎記念館

  • ミステリー短編集。どろっとした独特の世界観と、読み終わった後の「ああ、そういうことか」と思わせるところが秀逸だなと思った。

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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