螢川 (角川文庫 み 6-1)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041469019

作品紹介・あらすじ

堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、まだ焼跡の名残りを伝えていた、昭和30年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作「泥の河」。立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期の少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという蛍の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した「蛍川」。鮮烈な抒情がみなぎる、期待の新鋭の代表作二篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 学生の頃、夏休みの課題で読んだ記憶があります。無理矢理、読まされている学生の頃と、懐かしいと手にした今では、あらすじや大人の事情や社会背景など、より理解できることもあれば、子供の事情など、理解度が低くなっていることもあると思います。

  • 「泥の河」「螢川」の二篇収録。

    「泥の河」
    戦後の大阪。河岸に住む少年信雄と、川に浮かぶ郭船で育つ姉弟の交流と別れの物語。
    信雄の目を通して描かれる河岸の町の様子は明るいが、戦争帰りの父の身体に残る傷跡や身近に立ち上る死の匂いから、少しづつ河の色も暗く沈んでいくように思える。
    姉弟と友情を育むも、時折見える貧しさや将来を匂わせる暗い陰…。喧嘩別れしたまま信雄一家は大阪を離れる事となり、船も川を移動してゆく。船について行くお化け鯉は淀み(陰)の予感か…。

    螢川
    こちらも十代の少年を主人公とした作品。歳をとってから産まれた主人公とその母を選び、妻子と別れた高齢の父親と、子を残し夫と別れて来た過去を持つ母。
    突然の病に倒れた父と、貧しくなる生活の予感。親友の死。母は蛍の大群を見れるかどうかに、この先の運命を託すが現れた物は…。どちらも瑞々しいのに、不安が付き纏う。美しい筈の蛍の大群も、どこか恐ろしい

  •  太宰治賞を受賞した「泥の河」と芥川賞を受賞した「螢川」の二作品が収まっている。
     まだ戦後の復興が色濃い時代の大阪湾沿いにおいて、少年と対岸の舟に住む姉弟を中心に物語は進んでいく。
     それにしても当時の人々が織りなす生き生きとした会話や、都会ながらもまだまだ言わばボロ臭さのある風景が無理なく物語に形作っており、螢川にも共通することなのであろうが、ふとしたところに死という影が潜んでおり、本来それは身近なものであることを思い知らされる。
     それは単に人間だけでなく、馬やら蟹やら鯉といった生物もそのことを暗示しているかのようで、そういった避けられることのできないことをも全てひっくるめて、生きて死んでいくことは本来ドロドロとしたものであるということを打ち含んでいることの象徴として題名が当てられているようである。
     螢川については、さらに思春期の少年の心理描写や、特にラストにおける情景は怖さを帯びた艶やかについては見事の一言に尽きる。そこにも螢が次世代に子孫を残そうとしていることを祖父が語るのとともに、「滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し」と、あまり多くは語らずとも生死が一如であることを、物語の終曲として描かれるように思えた。

  • ここのところ海外作品を続けて読んでいたこともあり、少し気分を変えて宮本輝作品を初読み。

    お世話になっていた古本屋さんが宮本輝さんの作品はハズレなしと言っていた意味が少しわかる気がしました。

    太宰治賞受賞作「泥の河」、芥川賞受賞作「螢川」の2作がおさめられた贅沢な一冊です。

    両作品共に印象に残ったのは主人公の子供視点で描かれたグレー色の世界にさす色。

    「泥の河」では喜一が捕まえた蟹を大きな茶碗に入れ、ランプ用の油につけて火をつけるシーン。

    なぜか私には赤い炎ではなく、青い炎が見えた気がします。

    「螢川」ではやはり最後のシーンでしょう。

    闇夜に乱舞する黄金色の螢。

    暗闇の中でぼわーっと色をさすこの世界観、好きだなぁ。


    説明
    内容紹介
    思春期の少年の心の動きと、螢の大群の絢爛たる乱舞をあでやかに描く芥川賞受賞作「螢川」。安治川河畔に住む少年と川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交遊を描く、太宰治賞受賞作の「泥の河」も併録。
    内容(「BOOK」データベースより)
    堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、まだ焼跡の名残りを伝えていた、昭和30年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作「泥の河」。立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期の少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという蛍の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した「蛍川」。鮮烈な抒情がみなぎる、期待の新鋭の代表作二篇を収録。

  • 昭和30年の堂島川と土佐堀川が合流する船津橋あたりの大阪の街を舞台に描かれた『泥の河』(太宰治賞受賞作)。河岸に住むうどん屋の息子と川に浮かぶ廓舟で生活する姉弟の束の間の友情の話。幼いながらも薄らと勘付く触れてはいけない事情など、物哀しくやるせない描写に心が切なくなる。
    富山を舞台に、父や親友の死を経て成長する少年・竜夫を描いた芥川賞受賞の『螢川』。
    竜夫の唯一の楽しみは、4月に大雪が降る年に観れるという蛍の大群が織りなす妖艶な世界を、密かに想う英子と一緒に観ること。終始暗い印象で話は進むが、螢の乱舞、そして最後の竜夫の母・千代が見た場面が、映画でも観ているかのような描写が衝撃的で何とも言えない読後感でした。

  • 『螢川』良かった!
    竜夫と千代に重竜、それぞれの人生。考え悩み、ある日には過去を顧みて、流れに身を任せながら送る日常。
    好きな人の事、親友の死、千代と重竜が行った越前の事、先妻の事、重竜の死、生活の事、蛍の大群…

    折に触れふと香る、消してよい香りではない生活の臭気が文章に彩りを添えている。訳もわからず涙が出る。
    蛍の大群にこれからの行く末を賭ける千代。

    最後、青黒に怖いくらいに降る蛍の大群。『華麗なおとぎ絵ではない、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化した螢』にそれぞれ何を想うのか。それに向かって緩やかに、でも力強く流れていく様子が素晴らしいと思った。

    『泥の河』
    両親の愛に包まれ育ったうどん屋の倅信雄と、廓舟で母と姉と流浪の生活をおくる喜一。
    どこか物悲しい雰囲気。まとわりつく臭気。
    物語は信雄の視点で書いてあるが、喜一の心情が痛いほど解る。友達として交流を深めれは深める程、育った環境、考え方の違いを突き付けられ、そしていずれは去らなければならない現実に、距離を取る事に決めたのだろう。2人を繋ぐお化け鯉が切なさを誘う。

    見事な文章である。

  • 終戦後の焼け跡の名残りを留める昭和30年の大坂、ポンポン船の行き交う安治川の川辺に建つ小さなうどん屋の息子と、川に浮かぶ<廓船>で生活する姉弟との、束の間の交友を描いた太宰治賞受賞の『泥の河』、立山連峰を望む富山市を舞台に、揺れ動く思春期の繊細な情感を〝蛍の綾なす妖光〟に映し出し、切々と語り紡がれた芥川賞を受賞した『蛍川』との2編は、心ゆさぶられてやまない宮本輝さんの代表作。

  • セピア色の風景
    言葉の操り方が秀逸、情景が思い浮かぶ

  • 2編からなる短編小説集

    ?泥の河
    戦後の大阪の混乱期安治川舞台にその周辺に住む人々の人間模様を描いた作品。
    河でものをとる、川に流れてくるものがある、時にはそれが・・・・
    生と死が隣り合わせになった人間模様を強烈に描く作品
    2人の少年の視点から純粋に描かれる作風、しかし、大人の世界の現実も隣り合わせにあります。
    その事実が、否応なく、2人に2つの世界を痛感させる作風といえると思います。

    ?蛍川
    富山を舞台にした作品
    独特の方言使いが、臨場感を醸し出す。

  • 川船に住む子供と友達になった1編と
    蛍を見に行こう、という1編。

    何故に船生活? と思っていましたが
    自営業もかねて、というのに驚きです。
    これ、船酔いがする人、無理では? とか思いましたが。
    そもそも自営している間、子供はどうしたら?
    お姉さんが汚い恰好をしていたのは、自衛のため?
    友人となった主人公に罵られた事により
    船の友人は、何かを悟ったのか、分かったのか。
    冷たく残る友情、になってしまいました。

    冷たく、といえば次の話も。
    女の友情もわけが分からない時がありますが
    男の友情もわけが分からない時も。
    秘密を共有する事なのか、罪を共有する事なのか。
    やられた側にしても、さっぱり、な友情でしたが。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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