一八八八 切り裂きジャック (角川文庫 は 10-5)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (781ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041785058

感想・レビュー・書評

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  • 一八八八年、魔都ロンドンを騒がせた切り裂きジャック事件の謎を日本人留学生が解く。 当時のロンドンの事件や風俗を虚実を織り交ぜて描き出しており、魅力的な装置や抜群の巧みな心理描写で、飽きることがありません。 格調高い歴史ミステリや主人公の成長物語でもあり、幻想小説の様相もあり、ジャンルなんかでは括れない圧倒的パワーがあります。 とにかく面白かった!

  • ほうほう。
    もう少し眩惑系の展開になると思いきや、です。

    久々に読み応えのある本でした。

  • 「切り裂きジャック」事件を題材とした書物は多くありますが、
    これもその一つです。
    舞台は一八八八年のロンドン。
    主人公は当時の日本(西欧化を推進中)から、医学留学生としてイギリスにやってきた青年・柏木で、物語は彼の視点を通して進行していきます。ロンドン警視庁に勤務し、華族でもある友人・鷹原も探偵役として事件に大きく関わります。
    この二人は架空の人物なのですが、事件の被害者や関係者、度々登場する王族や、柏木と共に留学してきた日本人メンバー(森鴎外や北里柴三郎など)は実在の人物です。
    現実と創作が入り乱れて話が進んでいくことも、血なまぐさい題材を扱いながらも、この作品が幻想的な雰囲気を漂わせていることに関係しているのかもしれません。
    猟奇的な事件が続く中で、エレファント・マンや精巧な蝋人形のヴィーナスなどといった興味深い対象の薀蓄も間に挟まれます。当時の社会情勢や文学作品等に興味がある方はその辺の記述も楽しめるのではないかと思います。
    医学を学ぶために留学しながらも、次第に文学に惹かれていく柏木の様子も非常に丁寧に書かれています。事件以外の要素もこの作品の魅力といえますが、そのおかげでページ数は結構なボリュームです。
    この本なりに事件の真犯人というものが指摘され、解決にも至りますが、現実の事件は迷宮入りしているためそれが真実かどうかは誰も分かりません。フィクションとしてはとても楽しめると思います。
    この物語は柏木の回想に始まり、それが終わると同時に物語りも終結するのですが、ラストがすごく綺麗に纏まっているので読後感はいいです。ミステリ以外の要素を沢山含んだ、非常におススメな一冊です。絶版という訳ではないのですが、書店で見かけることは稀です。なので、オンラインを利用するといいかもしれません。
    余談ですが、メイン二人の名前が源氏物語から由来している点も雅な感じで、私にとっては好感でした。

  • こうもってきて、こう締めくくるのか!と最初から最後まで魅せられっぱなしでした。
    オカルトの流行、異常な嗜好、貧富、ノブレスオブリージュ等19世紀末倫敦についての描写も素晴らしく飽きがこなかった。
    服部さん風の切り裂きジャック。その犯人像に驚きつつも妙に納得。
    所々に歴史に名を残す人たちも登場していたりと、大変楽しませて頂きました。

  • 再読。パトリシア・コーンウェルの切り裂きジャックを読んで、昔、読んだな、切り裂きジャックの小説…と思い、再読してみました。こちらは小説ですが、よく出来ています。当時の霧のロンドンと、未曾有の犯罪への恐怖。良かったです。

  • ★あらすじ★舞台は19世紀末のロンドン。解剖学を学ぶ柏木薫は、エレファントマンと呼ばれる類を見ない畸形の男性の話を聞き、渡英する。その頃、柏木の友人でロンドン警視庁の所属する惟光は、「切り裂きジャック」と呼ばれる謎の連続殺人事件に遭遇する…森鴎外、北里柴三郎、ヴァージニア・ウルフなど実在の人物を絡めながら、世紀末のロンドンを描いた大作。
    ★感想★短編集「時のかたち」など耽美な作風で知られる著者が19世紀末のロンドンを舞台に選んだのもわかる気がします。退廃的な当時の雰囲気に加え、意外としたたかな「エレファント・マン」ことメリック氏や、隣家の少女ヴァージニア(後のヴァージニア・ウルフ)など実在の人物を要所に登場させることによって、見知らぬ「19世紀末のロンドン」という設定にも違和感なく読めました。ただ、この厚さはキツかった…美青年・鷹原の人物設定が大袈裟すぎるようにも思える。ゴシックロマンや大作ものが好きな人でなくては、読破するまでに相当の根気がいりそう。

  • 豪華な物語が展開される。小説世界に浸る喜びを存分に堪能できる、重厚かつ品格に溢れた傑作――とは裏表紙に挙げられた文句。まこと、贅沢な小説です。
    ヴィクトリア朝 大英帝国 倫敦 切り裂きジャック スコットランドヤード 王室貴族 …舞台基盤の魅力もさること乍ら、物語を成す登場人物の心情面の多彩さが、読む手を止めさせない。
    柏木薫。
    東大医学部卒の25歳。彼の一人称で話は語られます。
    他の服部まゆみ作品を読んだ経験のある方は同意してくださると思いますが、柏木もまた、しっとりと叙情的に物事を見聞きする・・・云い換えれば少し鬱々とした感じの、脆い自己しか掴めていない情況の人物。
    ヤードに所属する友人・鷹原を手伝い、ジャック事件に係わって行く彼にとっては、事件も身を苛む孤独も、懊悩の種として等しい。この曖昧さが、題材の妖しさに深みを与え、妙趣として薫り立たせます。
    世界の中心として機能していた都市・倫敦。其処に生じる光と闇。全ては靄に包まれて曖昧なうちに隣接して…事件も含めて、ヴィクトリア朝という言葉の浪漫的響きに酔いましょう。

  • 鷹原うつくしいよ鷹原。せっかく仲がいいんだから、もっと話し合えばいいのに、と思わなくもない。ロンドンの霧のごとく思考は彷徨う。

  • 長かった。
    でも飽きさせることなく最後まで持っていけている作品だったと思います。コレといった山はないように思えるのですけど、それは山というのが広く長くなっているからなのでは。
    ロンドンの霧のごとく、どこかもや、と読者は感じるだけで言明はされていない、そんな部分があり、歪曲した倫理が身にしみる。
    それに歴史もの、時代背景が絶対にわからなければならない作品なのに、読んでいて路頭に迷うこともありませんでした。無理な説明もなく、主人公の視点から知っていくという感じで。私はとても好きです。
    オチも迷宮入り事件にありがちな匂わせておいて終了、という形ではなく、結論がでているのに放置、という形で、でもなぜかそれでも先に続く感覚がします。かといってずるずると引きずる感でもなし。物語に引き込んでおいて引き込んだまま、というわけではなく、ちゃんともとの世界に帰してくれます。納得して読了する、そんな読後感。
    客観的には四つ星という感じかもしれないけど、私を引き込んでくれた作品に五つ星。

  • 服部さんは自分の小説を書く前に書きたい題材を掘り下げて書く人だけど、ここでもそれは徹底してる。内容もそれに伴ってグレードが高い。分厚い本だったけれど読むのが楽しかった。

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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