- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041913048
作品紹介・あらすじ
"2年前の未解決殺人事件を、再調査してほしい。これが先生のゼミに入った本当の目的です"臨床犯罪学者・火村英生が、過去の体験から毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子・貴島朱美から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった-。さっそく火村は友人で推理作家の有栖川有栖とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、火村宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った。2人はその関係者宅に急行すると、そこには予告通り新たなる死体が…?!現代のホームズ&ワトソンが解き明かす本格ミステリの金字塔。
感想・レビュー・書評
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大好きな有栖川作品だが、少し物足りなさを感じた。不思議な現場の状況にどうやって犯人を特定するのだろうと楽しみにしていたら、いまいち腑に落ちない感じで終わってしまった。犯人の動機にも理解ができなかったので、途中を読み飛ばしたのかなとすら思った。次の作品に期待かなぁ。
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臨床心理学者・火村英生は教え子の貴島朱美から「2年前の未解決殺人事件を調査してほしい」と依頼を受けた。その事件は、朱美が抱いている「夕焼けへの恐怖」とも繋がっていて──。
火村英生が探偵役を務める作家アリスシリーズの一作。2016年放映のドラマを見ていて、読みながら内容を思い出して懐かしくなった。火村に事件を解決してもらいたくてゼミに入ったという朱美。彼女の中に眠る6年前の放火事件と夕焼け色への恐怖の謎。未解決事件の再調査へと臨んだ火村とアリスは、新たな殺人事件へと直面する!3つの事件が重なり合う長編で読み応えあり。最初の幽霊マンションの仕掛けから、読者はすでに試されている。
作品全体を覆う夕陽の匂い。地平線に血を流しながら沈む生命のようでもあり、過去の情景を焼きつけたフィルムのようでもあり、思わず祈りを捧げたくなる神々しさすら感じさせる。ノスタルジックで、どこか不気味で、そんな人間を染め上げる朱色を、文章から想像させる筆致はさすが。その鮮やかな朱色によって浮かび上がった動機の影。純粋すぎて屈折した感情(という名の信仰)も味わい深い。まあ、そこまでするか?とツッコみたくはなる(笑) あの動機は当てられないなあ。
登場人物が朱美の伯父やいとこなどが多くてわかりづらいのと(家系図ほしい)、事件も三重構造なので複雑。もうちょっと盛り上がるかなと思ったけど、地味な手がかりを積み上げて過去の真相を手繰り寄せるのは面白かった。あと、アリスと朱美の「なぜ推理小説では人が殺されるのか?」という問答が好きだったので、引用しておきます。こういうキャラの語りも魅力的。
p.228~230
「私が思うに……殺人事件がテーマだと、死体が登場するわけですよね。死体とは、『あなたを殺したのは誰ですか?』と問いかけても、それに答えて語る能力をなくした存在です。窃盗事件や詐欺の被害者やったら、なにがしかの情報を自ら提供してくれるけれど、殺人事件の場合にそれは期待できない。死体──死者は、こちらがいくら問いかけても絶対に答えることがない。その不可能性が鍵のような気もします」
「不可能性が強い分だけ、物語が緊張して面白くなるということですね?」
「ええ、そうなんですけど、推理小説が持つ独特の切ないような興趣というのがあるんですが──いや、ここは主観的にしゃべっていますから、考え込まないでください──、その魅力の説明としては不充分でしょう。殺人事件を扱った推理小説の不可能性というのは、換言すると、いくら問いかけても答えないものに語らせること、ではないかと思うんです。問いかけても答えないと確信しているものに、答えてくれないと確信しながらなお問いかけるというのは、切ない行為だと思いませんか?」
朱美は曖昧に頷いている。
「そして、これほど人間的な行為もないかもしれない。人は、答えてくれないと判っているものに必死に問い続けます。その相手は、たとえば神です。何故、世界はこのような有様で『ある』のか? 人はどこからやってきて、どこに行くのか? その短い旅の意味は何なのか? またあるいは、問いかける相手は運命です。何故、私はこのような不運に見舞われなくてはならないのか? どこで道が分かれていたのだ、と。あるいは、失われてしまった時間に問いかけます。邪馬台国はどこにあったのか? ぼんやりと幻のように残る大切な記憶をどうしたら取り返せるか? 死者にも問う。私を本当に愛してくれていましたか? 私を赦してくれますか? 泣いても叫んでも、答えはありません。相手は決して語りません。それでも、また問うてしまう。──そんな人間の想いを、推理小説は引き受けているのかもしれません」
「だから、人が死んで──」
「謎は解け、真相が引きずり出されるんです」
轟々という音をたてて、列車は鉄橋を渡る。紀ノ川だ。
「だから、推理小説は人を殺すんですか。お話を伺うまで、推理小説がそういうものだとは知りませんでした。探偵は巫女になって神の声で語り、象徴的に世界に意味を与えてくれるんですね?」 -
ゼミの生徒に2年前の未解決殺人事件の調査を頼まれる火村。その矢先、新たな殺人事件が起きる。プロローグの夕陽など「朱色」をキーにした作品。映像で観る綺麗だろうな。犯人の動機においては理解できなかったけど面白く読んだ。
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火村英生シリーズ8作目。
動機が弱いという感想がよく出てくる作品ではありますが、
人間なんてどんな動機で何をしでかすか分からないので、いいんじゃないでしょうか。
今回は火村先生の内面に少し触れる部分もあり、読み進めると面白いものが出てきそうだなと思わされる回でした。 -
長編は本当外れがないなって思う。
過去と現在で起きた事件を追ううちにだんだんと分かってくる真相とは。
タイトルの通り夕焼けがちょくちょく出てくるので夕焼けが見たくなる。
ただ動機に賛否両論あるのかな… -
「有栖川有栖」の長篇ミステリ小説『朱色の研究』を読みました。
『虹果て村の秘密』、『孤島パズル』に続き「有栖川有栖」の作品です。
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過去のトラウマから毒々しいオレンジ色を恐怖する依頼者が推理作家「有栖川」と犯罪社会学者「火村」を訪れた
“2年前の未解決殺人事件を再調査してほしい”臨床犯罪学者「火村英生」が、過去のトラウマから毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子「貴島朱美」から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった――。
さっそく「火村」は友人で推理作家の「有栖川有栖」とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、「火村」宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った……。
現代の「ホームズ」&「ワトソン」が解き明かす本格ミステリの金字塔。
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探偵役である臨床犯罪学者「火村英生」と、「ワトソン」役の推理作家「有栖川有栖(アリス)」のコンビが活躍する作家「アリス」シリーズの長篇5作目にあたる作品… 名探偵「シャーロック・ホームズ」シリーズ第1弾『緋色の研究(原題: A Study in Scarlet)』を意識したタイトルのようですね。
■プロローグ――夕景
■第一章 幽霊マンション
■第二章 疑惑の男
■第三章 二つの灯
■第四章 枯木灘を望む家
■第五章 朱色の悪夢
■終章 遠い太陽
■エピローグ――落日
■あとがき
■文庫版あとがき
■解説 朱色の研究者たちあるいは『本格推理の悲しみ』について 飛鳥部勝則
臨床犯罪学者「火村英生」は教え子の「貴島朱美」から、2年前の未解決殺人事件について捜査依頼を受けた… 2年前の6月末、被害者である「大野夕雨子」は周参見の別荘近くの浜辺で、後頭部を鈍器で殴殺された状態で発見された、、、
被害者と恋人関係にあった「山内陽平」が疑われたが、物的証拠がない上に、アリバイが成立したことで迷宮入り… 遺体の背後にある高さ5メートルの崖から、大きな石が落とされていた点も捜査を難航させたという。
依頼を受けた「火村」は、当時の事件関係者に事情を聴取しに向かった… その足で友人である推理作家「有栖川有栖」を訪ねた「火村」、、、
翌朝、「アリス」の元へ不審な電話が入る… 「今すぐにオランジェ夕陽丘の806号室に行け、と火村先生に伝えてくれればいい。そうだ、あなたも一緒に行ってもらおう」、、、
そのマンションは前日、「火村」が事情聴取のために訪れた建物である… 訝しがりながらも指定された806号室へ向かった二人は、浴室で絞殺された男性の遺体を発見する。
被害者は2年前の「大野夕雨子」殺しの関係者「山内陽平」だった… 6年前の深夜の放火(殺人?)、2年前の「大野夕雨子」殺し、そして今回の「山内陽平」殺し、、、
3件の事件の真相を、「火村」と「アリス」は紐解いていく……。
それぞれの動機と犯人… 3件の事件がパズルのピースを嵌めるように繋がっていく終盤は一気読みでしたね、、、
事件に至る男女の思惑の微妙なズレは、現実世界でもありそうですね… 2年前の「大野夕雨子」殺しの殺害時間を特定する推理、「山内陽平」殺しのトリックよりも、その目的を明らかにする推理、これが冴えていましたね。
本シリーズは、「有栖川」と「火村」二人のコンビが、丁寧に事件を解決してくれるので、わかりやすくて愉しみやすいですね。