人工楽園 (角川文庫 リバイバル・コレクション K 45)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042013013

感想・レビュー・書評

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  • 「酒、ハッシシ、阿片。現実から遠ざかる手段として十九世紀の文人たちを魅了。象徴派の巨人が神をも恐れぬ陶酔と覚醒のなかで、その効果と害毒を冷徹に見つめる。禁断の麻薬白書。(中島健蔵)」と解説者の名前を引いて、Amazonに書かれていたのでワクワクとして手に取ったら、ボードレールが麻薬白書をサマライズしてまとめたものが中心という感じで、あそういう感じね…となりました笑。それに想定に反し(?)、ボードレールは薬物反対派だったので、あそうなんだ…となりました笑笑

    いいんです、私の目的はもう一つあって、三島の「真夏の死」のエピグラフが「夏の豪華な真盛の間には、われらはより深く死に動かされる。ボオドレエル「人工楽園」」だったのがすごく印象が深くて、それを探していた一面もあったので。ありました!!嬉
    それから旧字体なのも好きでした。読みづらかったのだけどそれはどちらかというと内容な気がしている…。

    彼が反"人工楽園"なのは、まさに中島健蔵の解説の文が書いてあるとおりと理解しました。
    …地上から離れて高くのぼることが、彼の望みの一つであつた。そして、人工的な刺戟による陶酔が、現世におけるその實行方法の一つであつた。しかし、それに中毒してしまふことは、反ブールジョアの精神に反する。陶酔しながら、常に意識のうちがはつきりしてゐなければならぬ。現實と醉ひとのあひだの距離を意識するところに、ボードレールの藝術の獨創があつたのである。

    なるほどなあ。ずっとこういうドラッグによるトランスを1回くらいは疑似体験してみたいなあと思っているのだけど、その方法で天上に昇ることは違うぞって言ってくれているのですねボードレール先生は笑。

    さて綺麗な文章で惹かれたのは夏の死関連でした。自分も死ぬなら夏と決めているので(?)、より惹かれたのだと思います。

    「鴉片吸飲者」より「四 鴉片の責苦」
    …著者は、我々に親しい者の死だとか、或は一般に死の觀照だとかは一年の他の季節よりも特に夏において、我々の魂に影響することが多いことを指摘してゐる。夏には、空がいつもよりも高く、遙かに遠く、遙かに無限に見える。…しかし主な理由は、惜みなく溢れ出るやうな夏の生活が、墓中の氷のやうな磽确さと一層強い對照を作つてゐることである。それに對立關係にある二つの思想は、互ひに呼び合ひ、一つが他を暗示するのである。だから著者は、長い夏の日々に死のことを考へずにゐることは困難だと告白してゐる。(p.161)

    「その夢は、いつもの夢で、しばしば聞える音楽で始まつた。…地獄の洞窟が吐いた歎息のやうな吐息をついて、その音は反射された、永遠の訣別!と。そしてまた、それからなほ、山彦から山彦へと繰り返されるのであつた、永遠の訣別!と」「そして私は痙攣に襲はれて目を覺まし、大聲をあげて叫ぶのだつた。いやだ、己はもう眠りたくない!」(p.164-165)

    「七 少年期の苦惱」
    …夏の豪華な眞盛りのあひだには、私たちはより深く死によつて動かされる…きました!!小説と信じ込んでいたけどエッセイの一引用なのでオシャレ度合いましまし。
    「かくて外の生命の熱帶的な豐饒さと、墓のもつ闇黑な磽确さとのあひだに、恐るべき對照が生ずる。我々の眼は夏を見、我々の考へは墓にこびりついて離れない。輝かしい光明が、我々のまはりを取り卷いてゐるのに、我々の心には暗闇がある。そしてこの二つのイメーヂは、互ひに爭ひながら途方もない力を與へ合ふ」(p.180)

    …學校の餘暇に、彼は幾度繰り返して見たことであらう、姉の死骸が安らかに横たはつてゐる死の部屋を、夏の光明と死の冷たさとを、蒼空の穹窿(きゅうりゅう)を越えて恍惚境へ開かれてゐる道を。ついで、開かれた墓の傍に立つ白衣の僧を、地下へ下つて行く棺を、塵に歸りたる塵を。そして最後に、オルガンの荘重な調べにつれて、ゆらゆらと天に昇つてゆく子供たちの綺麗な揺籃や白い寝床などを輝かしくとり卷く、太陽に照らされた焼繪玻璃の聖者、使途、殉教者などを、何度となく見ることだらう。彼は、それらすべてを再び見た。ただそれらを變化させ、修餝させ、もつと激しい色彩あるひはもつと朧げな色彩の下で見たのだ。彼はその少年時代の全宇宙を再び見たのだが、この宇宙には、孤獨と追憶とのなかから最大の喜悦を抽き出すことに慣れた、旣に靈妙な、陶冶された精神によつて、詩的な豐饒さが今やつけ加へられてゐたのであつた。(p.186-187)
    え~「詩的な豐饒さ」には出会ってみたいと思っちゃいますね…笑。

  • おお!アシーシュは不可だが酒は可なのか!
    そうかそうか!いい事聞いた!
    …とりあえず、呑みすぎをとがめられた際にはコレを持ち出して延々と反論できそうだ。
    アシーシュよりはマシだろう、と。

    そんな訳で、役立ちそうな一冊。

  • 人工楽園 (1955年) (角川文庫)
    (和書)2009年05月25日 18:00
    ボードレール 角川書店 1955


    文章が読み辛い印象を受けました。決して難解ではないと思う。ある意味この人なりに誠実だからこうなったのだろうと思いました。

  • ボードレールの真剣さというものは、考えるという姿勢をいつも教えてくれる。
    道徳的に酒や大麻、阿片がどうこうと言いたいのではない。そも、酒や麻薬がどういうものかわからねば、そんな議論はしても無駄であるからだ。麻薬はどういうもので、ひとに何をもたらすのか。真面目に不真面目というものを探究する、それがボードレールというひとだ。この論文を講演しようと目論んでいたあたり、非常に彼らしい。彼には、なぜこの論文がひとから疎まれるのか皆目見当つかなかったからだ。
    事実、彼は麻薬というものを決して薦めてはいない。その事例や調査から、論理的な帰結として麻薬のもたらすものが「楽園」ではなく、「人工楽園」であるということがわかったからだ。人工である以上、それはほんものの楽園ではない。一時的なものだし、儚く消える。夢のような存在。だからこそ、あんなに溺れるほどにひとは麻薬を求める。
    だが、たしかに人工の楽園ではあるが、与えられるあのヴィジョンはたしかに楽園そのものなのだ。麻薬の与えるあの感覚が、この上ない喜びであることには間違いない。わずかなあの緑の玉で、簡単に楽園にたどり着けることはできるのだ。ゆえに、すべての人間が麻薬に溺れる国家というのはある意味ではものすごく平和な国家だと言える。やるならそれぐらい本気でやればいい。苦しみが忘れたくって服用するのではだめだ。そんな麻薬は所詮、慰み物にしかならん。
    本気で楽園を求めるとき、たしかに麻薬というものはその一端を担う。だが、現実にそうはならないということは、麻薬の働きなんてそんなものに過ぎないということだろう。そんな風にして求める楽園なんて、楽園なのだろうか。所詮は偽りではないか。そんなことしなくとも、今ここに楽園は実現している。麻薬なんぞなくても、それを知ることはできる。
    酒と麻薬はその点で違う。麻薬は楽園を与える。受け取るひとはきわめて怠惰で受動的だ。だが、酒は楽園への情熱・思考をかきたてる。人間的で能動的なものだ。そういう意味で、人間は酒というものを最良の友として、もっと大事にしなければならない。何かが忘れたいとか、憂さを晴らしたいとかでそんな友を扱うなんてなんて非道徳的なことか!ボードレールならきっとそう言う。
    ランボーがどこまで許されるのかどんどん落ちていけばわかると飛び出していくのに対して、ボードレールはまずはそこに身を置いてじっと考える。ある意味、酒や麻薬なんぞでは彼の強力な思考を陥落させることができなかったに違いない。だからこそ、彼はそういうものを求めつづけていたのかもしれない。ランボーとは違った意味で乾いている。

  • 再読。人工楽園ってタイトルがいい。

    酒、アシーシュ、阿片、それぞれがもたらす効果と反動(苦痛)について詳細に解説。(まあ酒パートは短いです)阿片に関してはボードレールはやらなかったのか、トマス・ド・クインシーの告白本の概要紹介になってる。

    さんざん、使うとこんなに楽しいよ!アピールをしておきつつ、一応外向けの体裁なのか、でも後から酷いことになるから使うときは良く考えてね、みたいなトーンで統一されてます(笑)

  • 角川の復活文庫(偉大なる不良たち)シリーズの一です。
    装画が池田満寿夫で紙も少し厚手で象牙色の上質なものでした。

    麻薬撲滅運動に喧嘩売ってます ^^;;
    大いなる甘い甘い誘惑。

    大晦日にコタツで紅白見ながらダラダラ読んでました。
    こーいうもので一年を締めくくって良かったのだろうか・・・・

  • リバイバル コレクション
    旧仮名遣い

  • トマス・ド・クインシーの「阿片」を包含した佳作。

  • フランスの知識階級のアヘン倶楽部(アシシュ愛用クラブ)に興味をもったついでに。ボードレールはかなり私好みの文章をかいてくれる

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