貸し込み(上) (角川文庫 く 22-6)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年10月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043755066
作品紹介・あらすじ
バブル最盛期に行った脳梗塞患者への過剰融資で訴えられた大手都銀は、元行員の右近に全責任を負わせようとする。我が身に降りかかった嫌疑を晴らし、巨悪を告発するべく右近は、証言台に立つことを決意する。
感想・レビュー・書評
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(上下巻あわせてのレビューです。)
脳梗塞患者に対して、過剰融資を行い
カネを巻き上げた大手都市銀行が裁判で訴えられた。
銀行のとった手段は、元銀行員に全ての罪を負わせること。
銀行を辞めNYで生活していた元銀行員は、
自分が無実の罪を着せられていることを知り、
原告と共に銀行と戦うことを決意する…。
物語は、著者の実体験を元にしたフィクション。
さすが、実体験を元にしているだけあって、
裁判の様子や提出書面等がむちゃくちゃリアル。
今はどうか知らないけれど、
昔の銀行ってヒドイことをしてたんだなぁ。。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
簡単に言えば、善良な市民を食い物にする悪の組織と化した銀行に対し、金融知識とその組織の内情を知る元行員が正義の味方となり法廷で闘うお話。
三和銀行が痴呆のある方に24億円貸し付けた事件がモデルだって。
まぁ、善良なと言っても実際は全然善良でもない訳で普通なら正義の味方もソッポを向くような輩。この人がもう少し頭が良くて自制が聞けば上下巻ではなく厚めの上巻のみで終わったのでは?
主人公は確かに金融知識があって誠実且つ聡明なキャラなんだけど、実際の世界で将来に備えそこまで証拠を残していたりする人はいないんじゃないかな?少しかっこよく描きすぎたかなって感じ。
で、悪の銀行はって言うと。
私も仕事で多くの銀行とお付き合いがあり、特に個人融資に関連する行員とはたくさんお話します。まぁ一般的な会社に勤めているサラリーマンと変わらない感覚の人が殆どなんですが、たまぁ?にこの小説に出てくる感じの人は出てきます。逆に言えばこの種の人はきっと銀行からしか出ないですね。
素で『銀行を敵にまわすと恐いですよ』と言ってきたりします。
なので、この小説の良いところは銀行の悪い面は正確に描けているってところです。 -
100121
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かつて勤務していた銀行から、不正融資の罪をなすりつけられそうになった話。
リアリティはあるが、個人的に経済小説としては物足りなさを感じる。 -
怖かった?
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主人公=黒木亮をモチーフにした小説。
主人公はM&Aを担当する外資銀行に勤めている。
ある日突然過剰貸し付け融資の裁判に巻き込まれる。 -
今は東三に吸収された旧UFJ銀行で実際に起こった融資裁判をモデルとした話で、実際に裁判にまで巻き込まれた著者が描く。脳梗塞で痴呆状態になった元戦略コンサルティング会社(現実ではモルガン・スタンレー)のパートナーに対し、痴呆状態を利用して銀行が勝手に融資を実行したというもの。濡れ衣を着せられてから法廷に立つ直前までが上巻の話。
裁判ネタなので、ビジネス小説ではない。 -
実話に近いフィクションとは、、、しかも筆者の。
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金融と司法の腐食を描く
「貸し込み」とは聞きなれない用語だが、どうやら 「本来借り入れをする必要のない顧客を騙して借り入れをさせ、貸し手=銀行側の利益を図ること」をいうらしい。
バブルの絶頂期、莫大なマネーが金融機関に滞留し、投融資の相手を求めていた時代、銀行は「相続税対策」、「不動産投資」、「変額保険」など、ありとあらゆる金融商品を開発し、甘言をもって(あるいは詐術をもって)善良な市民の資産を掠め取ったという。
当時も、大銀行が絡む過剰融資や不正融資などの実態が事件としてときおり表面化することはあったが、どちらかというと銀行自体が騙されて巨額の不良貸付が発覚したという話(長銀が嵌ったイーアイイー事件のような)に目を奪われ、銀行が加害者となったケースで被害者の側が銀行を訴えたという話はあまり聴いた記憶がない。
この「貸し込み」は、大銀行が脳梗塞で判断能力を失った資産家を手玉に取り、巨額の融資と歩積みの預金をさせた(最終的には被害者の債務総額は20億円うえで、複雑な金融取引の途中で銀行の関係者などが巨額の資金を横領、ついには返済不能に落ちった被害者の不動産の競売を強要したという事件。
実は、この小説は実在するモデルがあって、旧三和銀行が起こした事件を素材にしたもの。複雑な事件の経過を丹念に追った叙述が可能になったのは、なんと著者自身が元三和の社員で、転職後に、この事件で直接の当事者というヌル衣を着せられそうになったことから、被害者の訴訟に協力し、元の勤務先を告発する側に回ったことが背景にある。さすがに業務に熟達した専門家が解き明かす金融犯罪の手口は、驚きの連続だが、著者の論理的思考能力が特別に優れていなければ、これだけの難しい事件を書いて読者を飽きさせないで済ませることは至難であったろう。
加害者側の銀行の関係者たちの無節操ぶりと、「組織を護る」ためには偽証でもなんでもという態度は、銀行マンへの世間一般の信頼を一気に失わせるだけの迫真力がある。
そして、登場する弁護士たち。これは玉石混交だが、一方の裁判官がまた、とてつもなく不甲斐ないのである。裁判官の質の低下が言われて久しいが、この小説に描かれる裁判官は証人質問中に居眠り、調書はろくに読まず、加害者側の書面を切り貼りしただけで「告訴」の却下をいとも簡単に降している。日本の司法がこうまでおかしいとは、なんとも怖気が襲う。
著者は小説の中で何度も、英米の金融業界では当たり前になっている「証拠開示」(Discovery)という制度に触れているが、これは
訴訟を起こした場合、原告は被告の企業の内部文書に広範に閲覧請求ができるほか、被告側の関係者への質問権も認められているというもの。
日本では、こうした場合、証拠の多くを握る銀行などが、裁判所の「文書提出命令」が出ない限り(そして裁判所はこれをなかなか出さない)自己に不利益な文書は隠し通すのが通例という。こういう事実もあらためて衝撃だ。
ともあれ、金融、司法、そしてマスコミ(ここでは触れなかったが)を覆う腐食の構図をこれだけしっかり描き出した筆力は尋常ではない。
一読を進めたい。なお、著者は北海道出身の50歳。 -
2011/03/04 上記サイトで知る