アメリカの鏡・日本 完全版 (角川ソフィア文庫)

  • KADOKAWA/角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044000042

作品紹介・あらすじ

GHQ労働諮問委員会の一員として来日したミアーズ。中立な立場で日本を研究してきた彼女にとって、「軍事大国日本」は西欧列強が自ら作り上げた誇張であった。ペリーによる開国を境に平和主義であった日本がどう変化し、戦争への道を突き進んだのか。日本を西欧文明の鏡と捉え、満州事変を軸に中国・韓国との関係を分析しながら、アメリカが変えんとするその未来に警笛を鳴らす。マッカーサーが邦訳を禁じた日本論の名著。

感想・レビュー・書評

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  • GHQ労働局の諮問機関である11人委員会の一人である著者が、日本に対する占領政策について論じた一冊。
    米国で出版されたのは1948年だけれど、当時はマッカーサーが邦訳を許さなかった。
    「私たちは自分たちの行為なら犯罪と思わないことで日本を有罪にしている。これは正義ではない。明らかにリンチだ」とのように連合国を断罪しているためか。
    著者はこの当時既に真珠湾攻撃は奇襲ではなく、当然の帰結であったとして見做している。
    満州占領は日本にとって国家経営の先生であった英国が従来して来たことを、法に基づいて行ったに過ぎず、もし白人国家が同じことをしたならばリットン調査団の報告書は違ったものになっただろうという。
    更に日本は満州における列強の不平等条約をなくそうとしたが、これは当該地に権益を持っていた連合国にはできない所業でもあった。またアジア解放の盟主になり得る日本は、植民地を失う国々にとり決して許せる存在ではなかった。
    それ故に日本について、世界で最も軍国主義的であり世界征服を企てているとのレッテルを貼って究極の悪として位置付けた。そうした事情の上で日本を再教育する資格がGHQにあるかを問い掛けている。私はないと思う。
    戦史研究が進んだ現在でもこういった言説がアメリカ側から出されたら驚くと思う。それなのに、この本が戦後すぐに書かれていたというのがもっとびっくり。
    日本人はもちろん、アメリカをはじめとする連合国側の人たちに読んでもらいたい本。
    抜粋の感想しか書けなかったけれど、内容はもっとすごいので。よくまあこれだけ言えるなぁ、と。近代戦争史の教科書にしてもいいくらい。
    アメリカは日本を罰するけれど、鏡に映った自身の姿は日本と同じものなのではないか。
    そういった意味が題名に込められていそう。

  • パールハーバーはアメリカ合衆国の征服を企んで仕掛けられた一方的な攻撃であるというが、この論理では日本を公正に罰することはできない。なぜなら私たちの公式記録が、パールハーバーはアメリカが日本に仕掛けた経済戦争への反撃だったという事実を明らかにしているからだ。パールハーバーは青天の霹靂ではなく、然るべき原因があって起きたのだ。原因は、1941年7月25日にアメリカ、イギリス、オランダが打ちだした「凍結」令である。三国は自国領内にある日本の全資産を凍結し、貿易、金融関係をすべて断絶した。

    こんな文章が載る本書が書かれたのは、第二次大戦が終わった3年後の1948年。そして、書いた人物は、アメリカの白人の研究者。この事実に覚える衝撃は決して小さくない。
    著者は、1920年代に日本や中国を訪れて東洋学を研究し、大戦中は米国の大学で日本社会などについて講義をしていた人物。大戦直後の1946年にはGHQの諮問機関の一員として再来日を果たし、労働基準法の策定に携わる中、本書を著した。著者が拠って立つ基本的なスタンスは、「侵略行為」と見なされた日本の行動は、欧米列強がそれ以前にさんざん行ってきた植民地拡大政策と同質のものである、というものだ。だから、本書のタイトルも「鏡」なのである。本書の魅力は、単なる日本びいきに全くなっていない、というところにある。アメリカの日本に対する行為の中に見える自己欺瞞を、まるで第三国の視点であるかの如く客観的に論じている。そのロジックの組み立ては極めて冷静で、時の元帥マッカーサーが本書の邦訳を禁じたほど、”公正”に徹している。
    戦争というものは起きるものではなく、起こされるものだということも、本書は示唆する。戦前の日本がアジアに進出した行為は、軍事的要素より、政治・経済的要素が強かった。しかし、アメリカはその事実を覆い隠し、『日本人は好戦的でファナティックな軍国主義者である』と徹底したプロパガンダを行った、と指摘する。悲しいかな、こうした強者のロジックで戦争が起こされることを示す事例は、第二次大戦が最後ではなく、ごく最近も起きていることに気づかざるを得ない。

  • 戦後すぐ、米軍占領下の日本に来た女性学者が書いた本だが、マッカーサーが日本での出版を禁じたという「いわくつきの」本。とは言っても、内容は突飛でも過激でもなく、客観的に、冷静に歴史を見ればそうなるのだろうというもので、終戦直後の米国にこれだけ客観的に物事を見られる人がいたということに驚いた。同時に、「他山の石」のメンタリティとは縁遠い(と個人的に思っている)多くのアメリカ人にとっては極めて受け入れがたいのだろうなという点でも納得。さすがに日本が急速に経済成長を遂げることは予想していないにしても、国際政治・地政学の面では本当に75年近く前に書かれたとは思えない、今でも通用する内容が多く含まれているように思う。

  • 戦後GHQの諮問機関の一員として来日した人物。一発でマッカーサーから発禁食らったらしいが、判る。よく書けたもんだし、よく日本での出版に持ち込めたものだ。
    アメリカは素晴らしい、日本は後進国で翻弄された駒だったみたいな描写に辟易する部分はあるが、全体に客観的で、それに従ってあの大戦、戦前から終戦に至る過程を検証すれば見えて来る違う様相。
    日本がアメリカを征服するための戦争ではなく、アメリカが日本を征服するための戦争だった。

    戦後中国に関する著実も、まずその見通し通りになってしまったかと思う。

    それにしても、日本とアメリカの、当時の工業力の差ってのは目がくらむ。これだけ差があって、まだ戦争になるんだ。

    要は、日本だけでなく世界のどの国でも、あの大戦の総括ってきちんとできてないってことだ。

  • 戦後すぐにこのような本がアメリカ人によって書かれていたとは知らなかった。著者の考えよりも事実を淡々と紹介し、アメリカがすべて正しいわけではないことを主張している。マッカーサーが日本での出版を禁止したももうなづける。日本人が書いていれば間違いなく検閲にひっかかっただろう。この頃は当たり前の事だった人種差別にもスポットを当てているのもすごい。欧米と同じことをしていても、有色人種というだけで日本の行為を否定されていた事実である。満州事変、リットン調査団等。

  • 米国人の日本研究者が、占領の始まる時点で、日本が鎖国終了以来国際関係の中に置かれた経緯を、列強との関係を中心に大局的に見通している。

    日米戦争を中立の視点から描かれると、まったくそうであったに違いないと思う。最初から戦争になっていない。

    日本人がそう見ないよう、占領軍が施した洗脳は、今もって有効であると感じる。

  • この本が終戦から間もない1948年に出版されていることは驚きだ。ペリーが来航して開国以来、日本は欧米、特にアメリカの背中を追いかけて近代化を成し遂げてきた。しかし何処で間違えたのか、やがて欧米と敵対し太平洋戦争へと突入していく。その日本の姿をアメリカを写す鏡であり、欧米がアジアで拡大させた植民地支配とパワーポリティックスの結果であると著者は看破する。戦勝国に「正義」がなかったのであれば、正義はどこにあるべきであったのか。北朝鮮の核をめぐる問題の行方が見えない東北アジアの行く末を考える上でも、考えるべき課題である。

  • きっとたまに読み返すだろうな。
    敗戦国日本は口をつぐむしかないし、日本人は後から何か言うことを言い訳と考えるから。。。
    公平なアメリカ人がいたんですね。

  • 2020-12-19 amazon 634-

  •  再読してみたヘレン・ミアーズの著作であるが、またしても読後に、言いようのないどんよりとした重たい気持ちになった。

     ミアーズの主張は、ごくごく単純化して言えば、第二次世界大戦で暴走した日本は西欧列強の姿そのままであるという事だと思う。それは題名である”Mirror for Americans : Japan”に最もよくあらわれている。

     さて、全編を通じて語られるのは日本であり、中心は満州事変前後から第二次世界大戦終戦までの日本の国際政治における振る舞いと西欧列強の反応である。日本は厳しい先輩であった西欧列強のやり方を忠実に学んだ結果を展開した。端的に言えば法的擬制を駆使した後進国の植民地化ないしは搾取、である。ただし、この国際ゲームは暗黙のルールがもう一つある。それは欧米列強に歯向かわない限りというものだ。また支配的人種の存在が厳然としてあったことに日本は気づくべきであった。

     日本は欧米列強に肩を並べたと勘違いし、彼らから日本がどう見えたかについては意識が薄かったのかもしれない。

     また、日本を叩くにあたり展開された米国での情報操作についてもすさまじいものがある。曰く、日本とは1,000年以上に渡り内戦を繰り返した国であるとか、本性的に野蛮である等のプロパガンダにより世論を感情的に動かし、日本への戦争を正当化した。
    [「東京レコード」の鳥シャス記者は、日本の歴史的拡張主義を立証するために、日本列島が神々に征服された「神話」と朝鮮を征服した「伝説」を歴史に書き入れている。つまり、架空の出来事を現実のモノにして、それを証拠と呼ぶのである。(位置2292)]
     哀しいかな、これは一部の日本軍の悪行とも相俟って、すでに”事実”と化した感がある。今更何をしても変わらないかもしれない。嘘も方便ということわざは、恐ろしい事実を物語っている。

     これ以外にも、本書ではとりわけ米国の自己矛盾をいちいち指摘しつつ、欧米列強が行ってきた国際政治や日本占領等々が公正であったかと筆者自身が米国へ問いかけるものである。具体的には、原爆投下の是非(ひいては一般市民殺戮の是非)、軍事裁判の是非、アジア諸国の気持ち、抑圧的懲罰的占領の是非、文化的独自性無視の是非等々である。
     自己をも騙しつつかつ正当化しつつ自国に有利な方向への流れを作るもの、得てして政治とはそのようなものかもしれない。

    ・・・

     改めて述べると、読むたびに気持ちが重たくなる。
     日本はムラ社会だとか忖度が必要だとかいうが、実は国際社会こそがこうした注意が必要なのだと思う。ゆえに、本書を読んで、我が意を得たりとただ快哉をあげるだけでは足りない。国際政治の現実を理解するべきであろう。

     本書は、日本および世界の歴史の理解を一段と深める良書であるとともに、国際政治や社会心理等についての洞察にもついても優れていると言いえると思う。

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著者プロフィール

1900年生まれ(1898年の説もあり)。20年代から日米が開戦する直前まで二度にわたって中国と日本を訪れ、東洋学を研究。戦争中はミシガン大学、ノースウエスタン大学などで日本社会について講義していた。46年に連合国最高司令官総司令部の諮問機関「労働諮問委員会」のメンバーとして来日、戦後日本の労働基本法の策定に携わった。48年、本書を著す。89年没。

「2015年 『アメリカの鏡・日本 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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