先住民から見た世界史 コロンブスの「新大陸発見」 (角川ソフィア文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044007577

作品紹介・あらすじ

コロンブスが15世紀に持ち帰った中南米原産のトウモロコシや、その後に伝わったジャガイモは、ヨーロッパの人口増加に大きく貢献した。他方、アメリカ大陸へ持ち込まれた疫病は、先住民の急激な人口減少を引き起こす。世界の食卓を豊かにした作物の伝播は、のちに「コロンブスの交換」と呼ばれるが、先住民にとっては略奪や侵略に他ならなかった。南米アンデスをフィールドに農学と人類学を研究する著者が描く、もう一つの世界史。

(本書は、『コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史』(角川選書、2017年刊)を、再構成・加筆・改題のうえ、文庫化したものです。)

感想・レビュー・書評

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  •  「コロンブスの交換」という言葉に違和感を持った著者。長く中南米の先住民と暮らしを共にしてきた著者からすると、それは先住民側からの視点を全く欠いた、欧米中心の見方であると考えたから。

     そこで著者は、具体的なモノに焦点を当てて、このコロンブスの交換という問題を検証することとした。
     第一部は、ヨーロッパに与えたものとして、トウモロコシ、トウガラシ、ジャガイモが取り上げられる。トウモロコシやジャガイモはヨーロッパの人口増加に大きく貢献したが、これらは栽培植物として、長い間の中南米先住民の努力の賜物であったことが具体的に示される。

     第二部は、先住民にもたらされた災厄として、まずサトウキビ。これは、ヨーロッパでの砂糖需要の急増を受けて、サトウキビ栽培や砂糖生産がこの地域で行われることになったが、必要な労働力不足を解消するために奴隷貿易が行われ、アフリカから非常に多数の者が奴隷として送り込まれた事態を指す。
     次に、馬と牛。当時、牛の用途は皮を取ることで、当時皮革は鎧やズボン、ロープなど様々な用途を持つ材料で、ヨーロッパ、アメリカで大きな需要があった。これらの家畜を育てるため土地が占有され、インディアンとの衝突や先住民の土地が奪われていった。
     そして、疫病。天然痘やはしか、インフルエンザなどの疫病が抵抗力のない先住民を襲い、このため先住民人口が激減してしまう。ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』でも有名になったとおりである。

     ずいぶん昔に習った世界史では、1492年のコロンブスの新大陸発見と習ったような記憶がある。しかし、コロンブスが新大陸に到達したことが、これほどの大きな悲惨を先住民に与えたことに、暗然たる思いである。

  • タイトルを考えた人(出版社の人だろう)には感心した。自分はこの書名に惹かれて読んでみた。歴史は、"記述した側"によるものしか伝わってこないので、先住民の歴史は謎に包まれやすい。その結果、例えば本書で取り上げられるコロンブスの「偉業」ばかりか伝えられ、自分たち日本人にも、世界史の教育などでその事しか理解出来ない。そんな偏った歴史があることを本書は改めて教えてくれた。コロンブスの新大陸「発見」に異を唱えた先住民の子孫たちが、猛烈な抗議運動をしたことも、それを世界に知らしめたことだった。
    著者は農学から人類学へ転向したが、農学の知識は本書前半の、先住民の高度な農耕技術によって生み出された作物の考察に表れている。
    衝撃なのは、「コロンブスの交換」によって何が起こったのか?という問いに、疫病を取り上げていることだ。先住民が消滅させられた原因は様々あるけど、この疫病が最たるものだったというのは、コロナ禍を生きる自分たちに引き付けて考えさせられる。

  • とうがらしは、現地では"アヒ アヒ"と呼ばれているとか。"ひぃ~ひぃ~"みたいな。

  • 209
    「コロンブスが15世紀に持ち帰った中南米原産のトウモロコシや、その後に伝わったジャガイモは、ヨーロッパの人口増加に大きく貢献した。他方、アメリカ大陸へ持ち込まれた疫病は、先住民の急激な人口減少を引き起こす。世界の食卓を豊かにした作物の伝播は、のちに「コロンブスの交換」と呼ばれるが、先住民にとっては略奪や侵略に他ならなかった。南米アンデスをフィールドに農学と人類学を研究する著者が描く、もう一つの世界史。」

    目次
    第1部 ヨーロッパに与えたもの(トウモロコシ―コロンブスが持ち帰った穀類;トウガラシ―世界各地の食文化をになう;ジャガイモ―ヨーロッパの飢えを救う )
    第2部 先住民にもたらされた災厄(サトウキビ―砂糖の生産と奴隷;馬と牛―生活を破壊したヨーロッパの家畜;天然痘―先住民の凄惨な悲劇)
    終章 コロンブスの功罪

    著者等紹介
    山本紀夫[ヤマモトノリオ]
    1943年、大阪府生まれ。京都大学大学院博士課程単位取得退学。国立民族学博物館名誉教授。農学のちに人類学を専攻し、農学博士(京都大学)、博士(学術、東京大学)。1968年の学生時代からアンデスを中心に、ヒマラヤ、チベット、エチオピアなどの高地で50年あまりにわたって、環境と人間の関係の人類学的調査・研究に従事

  • 僕らの知ってる世界史が近代西欧型文明を至上としてるのだと痛感し、文字を持たず滅びた新大陸の先住民の歴史に想いを馳せる

    いやー面白かった
    ジャレドダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」と双璧を成すと思う

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著者プロフィール

1943年生まれ。京都大学大学院博士課程修了、農学博士。現在、国立民族学博物館教授、総合研究大学院大学併任教授。専門は民族学、民族植物学、山岳人類学。1968年よりアンデス、アマゾン、ヒマラヤ、チベット、アフリカ高地などで主として先住民による環境利用の調査研究に従事。1984〜87年にはペルー、リマ市に本部をもつ国際ポテトセンター社会科学部門客員研究員。主な著書に『インカの末裔たち』(日本放送出版協会、1992年)、『ジャガイモとインカ帝国』(東京大学出版会、2004年)、『ラテンアメリカ楽器紀行』(山川出版社、2005年)、『雲の上で暮らす——アンデス・ヒマラヤ高地民族の世界』(ナカニシヤ出版、2006年)、編著に『世界の食文化——中南米』(農産漁村文化協会、2007年)。アンデス・ヒマラヤにおける高地民族の山岳人類学的研究により今年(平成18年)度の秩父宮記念山岳賞などを受賞。

「2007年 『アンデス高地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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