「特攻」と遺族の戦後 (角川ソフィア文庫 376)

著者 :
  • 角川学芸出版
3.60
  • (0)
  • (3)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 34
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044058029

作品紹介・あらすじ

鹿児島県知覧などから出撃した特攻隊員の多くは一七歳から二〇代後半だった。愛する者を残して征った青年、散華した婚約者を思い続けて生きる女性。手紙や遺書、証言から、隊員たちの人生と思いに真摯に迫る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『きけ わだつみのこえ』などに代表される、特攻に出撃した若者の遺書を取り上げた本は少なくありませんが、「残された遺族」についても目を向け、直接会って聞き取りをしている点が本書の特徴だろうと思います。

    特攻隊に志願して散華した若者たちが、「国のため」「銃後の家族のため」に命を賭ける覚悟を決めたことについて、
    ・本当は「死にたくない」という気持ちがあったはずだ
    ・自主的に「志願」したのではなく断れない雰囲気があったはずだ
    ・実際に成功する可能性は高くなく「犬死に」だった
    などと否定的/懐疑的な意見があることは事実です。

    実際、少なくとも前半の2つについては検討の余地はあるとおもいます。どういった力がはたらいて、「戦争を継続する」「犠牲となることを恐れてはいけない」「死ぬことが良いことだ」とされるようになったのか、という点は分析すべき課題です。一方で、特攻を「犬死に」とする批判は的外れだと思います。極端なことを言えば、「戦争」という外交手段そのものが「邪道」なわけで、それによって亡くなった方は、兵士であれ民間人であれ、本来の寿命よりも早く命を落とし、本来(平和であれば)果たせたはずの役割を全うできなかったのですから。

    では、この「特攻」から、何を学ぶべきなのでしょうか。
    散華した若者が遺した言葉や、彼らの「尊い犠牲」に『感謝』して、その犠牲が価値のあるものとなるように「誇り髙い日本」を作り上げていくことでしょうか。

    そうではなく、特攻した者も残された家族も(あるいは特攻として出撃命令を受けつつも生き残った者も)、みな一言では書き表すことのできない悲劇を味わったということではないかと思います。では、悲劇の原因は誰にあるのでしょうか。特攻を立案した(とされる)大西瀧治郎や戦争を主導した東条英機、誤った戦果情報を発表していた大本営、それを無批判に報道した新聞各局、戦死することを「名誉」として称揚し大勢に反対する者を「非国民」と批判・攻撃した国民、全軍の統帥権をもつ天皇……。

    私自身は、戦争という悲劇が起こった原因は、「それは違うと思う」と言える環境を作ることができない社会であったこと、にあるのだろうと思います。
    もちろん、言論の自由が保障されている現代社会であっても、世間一般の意見と異なる見解は批判されますし、場合によっては「非国民/売国奴」などと攻撃されることもあるでしょう。それでも、「戦争はだめだ」と主張できるようにすること。自分の頭で、どうすべきかを考えること。真剣に人生を歩むこと。
    戦争でおこった様々な悲劇(特攻だけでなく、沖縄戦・原爆・インパール作戦・「飢島」・集団自決・空襲……)を風化させることなく語り継ぐことと、その悲劇を繰り返さないために真剣に考えながら人生を歩むことが、「英霊の供養」になるのではないかと思います。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

1953年生まれ。産経新聞東京本社編集委員。慶應義塾大学法学部卒業後、産経新聞社入社。90年、ハーバード大学国際問題研究所に訪問研究員として留学。93年、ゼネコン汚職事件のスクープで新聞協会賞を受賞。その後、書籍編集者、産経新聞社那覇支局長などを経て現職。主な著書に『爆買いされる日本の領土』(角川新書)、『報道されない沖縄』(角川学芸出版)、『「特攻」と遺族の戦後』『海の特攻「回天」』(共に角川ソフィア文庫)、『電池が切れるまで』(角川つばさ文庫)など。

「2018年 『領土消失 規制なき外国人の土地買収』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宮本雅史の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×